試験――攻撃魔術! 学年首席vsアルベルト(中)
九八点。
学年首席が叩き出した点数に学生たちがどよめいた。
「これはやばい!」
「さすがは首席!」
だが、とうの本人は無言のまま――あまり納得がいかない様子で点数を眺めていた。
フィルブスが隣の部屋から出てくる。
「九八点か……一〇〇点と思っていたか? いくつかの魔術で微妙に打点を外しているのがあったな。誤差の範囲で実戦だと関係ないレベルだ。気にするな」
それからサーレス――俺やブレインと並ぶ三人目の鉄の校章持ちの生徒に声を掛ける。
「じゃ、次お前な」
「え、マジですか!?」
サーレスは両手をぶんぶんと振った。
「ブレインの後とか緊張するんで辞退したいんですけど! 恥かいちゃうじゃないですか!」
「誰だって一緒だよ。だったら、鉄の校章持ちでブレインの友達のお前が最初に恥をかけ」
「ええええええ……役回りが損すぎるぅぅぅぅ!」
サーレスは強引に部屋へと連れていかれた。
消極的だったサーレスだったが、試験が始まると堂々たる立ち回りを見せた。攻撃魔術を駆使して次々と影を撃破していく。
「……サーレス、ふざけてるけどやっぱすげーな」
「そりゃ鉄の校章持ちだもんなあ……」
生徒たちがため息まじりにそんなこと言っていた。
九一点。
それがサーレスの点数だった。
サーレスは点数を見てまんざらではない様子だった。
「ふいー。何とか九〇点を超えたか……ブレイン先生には勝てませんねー、やっぱり」
はははは、と軽く笑いながらサーレスは引っ込んだ。
それから順に他の生徒たちが試験に挑戦した。
他の生徒たちを見ていると、ブレインとサーレスの二人がどれほどずば抜けているかよくわかる。
七八点!
六四点!
七二点!
五六点!
という感じで厳しい点数が並んでいく。九〇点はおろか八〇点すら届く生徒は誰もいなかった。
ブレインやサーレスは何をミスしたんだろう? という精度で処理していたが、他の生徒たちは慌てふためきながら当たり前のように影を取り逃していく。
「……厳しいな……」
キルリアが俺の近くに戻ってきながらつぶやく。
キルリアの点数は七四点だった。
かなり優秀なほうだが、やはりブレインたちの成績に比べると見劣りするのは否めない。
王国でも最高格の公爵家の血族だけあって、キルリアは誇り高く負けず嫌いだ。何度か「ブレインに勝ちたい」と言っているのを聞いたことがある。
だが、やはりブレインの壁は厚いのだろう。
ふと気になることがあった。キルリアたち貴族組とブレインが話しているのを見たことがなかった。
妙だなと思った。ブレインは俺と同格のミルヒス侯爵家の人間なのに。
俺は声のトーンを落としてキルリアに話しかけた。
「……ブレインとはあまり話さないのか?」
「……ん? ああ……。あいつはザコには用がないんだよ」
キルリアが不機嫌そうな声でつぶやいた。
「魔術を極めるのに忙しいのさ。だから、つるむのも成績のいいサーレスくらいだ。サーレスの性格もあるんだろうが……貴族の俺たちよりも才能のある平民と仲よくしたいらしい」
……なかなかきっぱりとした考えの持ち主だ。
昔の俺が持っていたような――自由な気持ち。
貴族である自分になじめず苦労している俺には、その強さが懐かしくもありうらやましくもあった。
「貴族なのに家のことを考えないんだな」
「……悲劇のミルヒス家の生き残りだからな……そういうことには興味もないのかもな……」
ぽつりと言うとキルリアは黙り込んでしまった。
……悲劇のミルヒス家?
ミルヒス侯爵家は俺も知っているが、そんな言葉は知らない。キルリアは常識のように言っていたので有名な話なのだろうか。
気になる言葉だったが、こんなところで話をする内容とも思えなかったので特に触れないことにした。
そんな話をしていると――
フィルブスが隣の部屋から出てきた。
「アルベルト、お前の番だ」
その言葉を聞くと同時、生徒たちが沸き立った。
「おおおおおおおおおお!」
「鉄の校章vs鉄の校章!」
「どっちが勝つと思う!?」
「そりゃ、さすがにブレインだろー。九八点は強いよ」
なんて言葉が巻き起こる。
俺はフィルブスと一緒に隣の部屋へと入った。
「アルベルト」
部屋の隅にあるイスに座るなり、フィルブスが俺に声を掛けた。
「はい?」
「手を抜け」
「え?」
俺は驚いてフィルブスを見た。
「わざと負けろ、という意味ですか?」
「違う違う。言い方が悪かった。勝負はガチでいい。ただし全力のマジックアローはぶっ放すな」
そう言うと、フィルブスは壁を軽く叩いた。
「対魔力防御の高い材質でできた部屋だけどな――さすがにお前のマジックアローは危ない。俺の給料に関わるからやめてくれ」
「そうですか」
「影を潰すのはお前のマジックアローなら二割で充分だろう。それくらいで頼む」
「わかりました」
本当に大丈夫なのだろうかとも思ったが、フィルブスがそう言うのなら正しいのだろう。
「待て、アルベルト」
「……なんでしょうか」
「やっぱり一割で頼む」
「わかりました」
フィルブスは心配性だな……。
俺は影が出てくる方向へと身体を向け――
フィルブスがまた声を掛けてきた。
「待て、アルベルト」
「……なんでしょうか」
「最近、悩みとかあったりするか? ここは防音だから何でも言っていいぞ」
悩み……。
まさかこの場所でフィルブス先生のお悩み相談室が始まるとは思ってもいなかった。
重苦しい気持ちはある。
ただのアルベルトではなく、アルベルト・リュミナスとして貴族の子弟たちと交わる日々は気疲れが多いのは事実だ。
「……そうですね――」
だが、俺は俺の中に渦巻く感情をすぐ口にできなかった。
それは複雑に絡まりあっていて整理するにはもう少し時間が必要だった。
ちらっとフィルブスが部屋の外に目を向ける。
そこには俺の試験を心待ちにしている生徒たちの姿があった。
「……あまり時間がないか。話したくなったらいつでも来い。待っているぞ」
「わかりました」
ありがたい申し出だった。
誰かが気にかけてくれている――その事実は俺の心を少しばかり軽くした。
だが、あまり浸っている時間はない。目の前の試験に集中しなければ。
フィルブスが壁のスイッチに手を置く。
「始めるぞ」
前方の空間に壁が出現し、影が姿を現した。
俺は右手をかざしていつもの言葉を口にする。
「マジックアロー」
「マジックアロー」
「マジックアロー」
「マジックアロー」
「マジックアロー」
次々と影を打ち抜いていく。確かにフィルブスの言うとおり、影の種類に関係なく一撃で砕け散っていく。
さすがはフィルブス、的確なアドバイスだ。俺のフィルブス評がまた上がってしまった。
ちなみに両手ではなく片手で撃っているのは手を抜いているわけではない。
九頭龍戦でたどり着いた常識破りの両手撃ち――
あれは俺のスイッチが入っていたからできただけなのか、今はできなくなっていた。
同じような状況になれば、またできるのだろうか。
「マジックアロー」
俺の白い矢が最後の影を打ち抜く。
試験は終わった。
うん、とフィルブスがうなずく。
「さすがだな、アルベルト。点数を見てこい」
俺は部屋の外に出た。まるで何か恐ろしいものでも見たかのように生徒たちが声を失っている。
俺は壁のパネルに目をやった。
点数が出た瞬間、生徒たちがどよめく。
そこにはこう表示されていた。
一〇〇点、と。
週2更新(水・日)です。
と書きつつ今日は火曜日なんですけど。代わりに【今週は水曜休み】にしますが、もう1回更新するので(火・?・日)みたいな感じで考えています。連休なので変則シフトですね。
アルベルトくんの両手撃ちですが、実はお披露目した九頭龍戦での描写を先週くらいに変更しています(改稿しています)。
[before]
試してみたら両手撃ちができた(さすが俺のマジックアロー!)
[after]
マジックアローを長時間撃ちまくっていたので、アルベルトくんの魔術回路的なものが温まってきて両手撃ち解禁(こんなに長時間撃てるのはアルベルトくんしかいないので世界初!)
の流れとしています。できるようになった理屈をつけた感じですね。上記のとおりなので読み直しは不要です。
よって今は両手撃ちできない状態に戻っています。
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