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試験――攻撃魔術! 学年首席vsアルベルト(上)

 ――この試験、先の戦いで活躍した君に勝負を挑みたい。


 学年首席ブレイン・ミルヒスのいきなりの宣言。

 言われた俺は驚き――

 聞いていた周りは大きな声で沸き立った。


「おおおおおおお! マジか!?」


「戦争の功労者と学年首席が!」


「熱いぞ、これ!」


 ……面倒なことになってきたな。

 俺はブレインを見た。


「いきなりの話でよくわからないが……本気なのか?」


「もちろん、本気だ」


 ブレインの目は真摯だった。そこに冗談の影はどこにもない。こうすると決めたという意志の強さがそこにあった。


「……勝負なんて言い出さなくても。俺の点数を確認して自己満足しておけばいいんじゃないのか?」


「それだと自分を追い込めないからね。あなたには迷惑かもしれないが」


 さらりとブレインが応じる。

 ……合戦で一騎打ちを挑む騎士のような潔さだな。


「ごめんねー、アルベルトさん! こいつ頭かちかちのマジメくんなんですよ!」


 いきなり軽い声が割り込んできた。

 焦げ茶の髪の男子生徒がブレインの肩に手をかけて、ブレインのこめかみを指でつんつんとつつく。

 にこやかな顔をした社交的な雰囲気を漂わせる男子だった。俺に敬語を使っているのは彼が平民だからだ。

 ブレインは嫌そうな顔をして、じろりと男を見る。


「やめろ、サーレス」


「こわー。俺たち友達じゃないかー、ブレインくぅん」


 へらへらと笑いながらサーレスは両手をブレインから離して一歩下がった。


「おお……鉄の校章持ちが三人揃った!」


 生徒のひとりがそう叫ぶ。

 それは今の状況を的確に表している言葉だった。

 多くの一年生が持つ石の校章は二年昇級の条件。鉄の校章は三年昇級の条件。それゆえに一学年で鉄の校章を持っている生徒は少ない。


 それがこの三人――俺、ブレイン、サーレスなのだ。


「サーレス、お前も混ざるのかよー!」


 別の生徒から声が飛ぶ。

 サーレスは手を振る。


「いやいや、俺は遠慮しとくんで。そんなにやる気ありませんから」


 そう言ってサーレスは一歩下がって距離を置く。

 俺はじっとブレインを見た。


「……どうして俺なんだ?」


「さっき言ったとおりだ。あなたは先の戦いで活躍した。あなたの攻撃魔術にはそれだけの力があるのだろう」


 ブレインは俺の目をじっと見返して続けた。


「俺は俺の攻撃魔術の強さを――あなたと比べたいんだ」


 その言葉のどこにも浮ついた気持ちはなかった。真剣な想いだけがそこにあった。


「……わかった……受けよう……」


 俺の言葉でわっと周りが盛り上がる。

 俺個人は乗り気ではないのだが、この面前で挑まれた以上、やらないと断るのも骨が折れる。

 ……多少なりブレインの真剣さに妥協したのもあるが。


「ありがとう」


 ブレインは静かな声でそう言った。

 ぱんぱんとフィルブスが手を叩く。


「こら、勝手に盛り上がるなよ! まったくお前らは……」


 そこでにやりと笑ってこう続けた。


「ま、嫌いじゃないけどね、こういうの」


「先生も参加したらどうですかー!」


「やだよ! 負けたら威張れなくなるからな!」


 生徒の茶々にフィルブスが即答した。その言葉に生徒たちがげらげらと笑っている。


「静かに! 試験の内容を説明するぞ!」


 フィルブスは一喝すると、隣の部屋のドアを開けた。

 その部屋は入ってすぐのところに腰ほどの柵があり、奧に進めないように区切られている。


 フィルブスはボタンを押した。


 その瞬間、奧の空間にふわりと何枚かの壁が浮かび上がった。さらに壁からは人の形をした黒い影がぬっと姿を現した。

 影はあちこちから現れたり消えたりする。

 おお、と生徒たちがどよめいた。


 フィルブスが話を続ける。


「これは幻影の魔術を使った仕組みでな。まあ、こういう感じで、だ。障害物から出てくる影を消える前に狙い撃ちするって試験だな」


 フィルブスが右手を前に向けた。


「マジックアロー! マジックアロー!」


 放たれた二発のマジックアローが別々の影に当たる。直後、影は割れたガラスのように砕け散った。


「ただ、こういうのもいるから気をつけろよ。マジックアロー!」


 ぬっと出てきた赤い影に白い矢が突き刺さる。

 が、赤い影はよろめいただけで消えず、そのまま障害物に隠れてしまった。


「影には耐久力がある。一発で壊れない場合もある。その場合はもっと強い魔術を使わないとダメだな」


 フィルブスは再び影のほうに向き直った。


「ファイアボール!」


 黒い影二体と赤い影一体が集まったところへ炎の玉を投げ込む。

 轟音。

 瞬間、三体の影は一撃で消えた。


「こんな感じだな」


「おおおおおお!」


 生徒たちを振り返ったフィルブスに生徒たちの賞賛が集まる。ファイアボールのような派手で有名な魔術は人気が高いのだ。


「この部屋は対魔力防御の高い重ミスリルでできている。何も気にせず魔術をぶっ放して構わない」


 どんどんとフィルブスが床を踏む。鈍い音がした。


「ただ、威力の高い魔術は魔力の消費も激しい。ぽんぽん撃てるものでもないから、その辺は調整するように」


 なるほど。

 魔術の威力と精度は大切な指標だ。だが、どのタイミングで消費魔力の大きい魔術を使うのか。その判断力も魔術師の大切な能力だ。

 ……俺はマジックアローしか使えないので関係ないが……。


「言ってみれば、射的だよ射的。お前たちも祭りの日におもちゃの弓やらボウガンでやったことあるんじゃないの? それを魔術でやるってことだな」


 言い終わるとフィルブスは最初の部屋へと戻った。

 そして、壁に埋め込まれた黒いパネル板を指さす。


「部屋を出ると、ここに点数が出る。一〇〇点満点方式だ。よかったな。お前らみんなの点数がわかる。みんなでアルベルトやブレインと戦えるぞ?」


 くっくっくっくと笑うフィルブスに生徒たちが抗議した。


「え!? 俺たちはいいよ! 勝てるわけないじゃん!」


「そんなの聞いてないよ!」


「恥ずかしい、やめてくれー!」


 そんな悲鳴が聞こえる。

 だが、この学院らしいと俺は思った。

 王立魔術学院はわりと容赦がない――それは厳しい退学制度があることからもわかる通りだ。

 ビヒャルヌ湖の水質調査でも入学して間もない生徒たちをいきなり選抜している。こうやって学生同士で競い合わせるのが学院のやり方なのだ。


「安心しろ。お前たち選抜向けに上級者コースに設定してやる。点数が悪くてもそれで言い訳するんだな」


 ここにいるのはクラスでも成績上位者に属する生徒だけだ。……なぜか俺もいるが。おそらく鉄の校章を持っているためだろう。

 今回は貴族が多めのグループらしく平民はサーレスを含めた数人だけだった。


「それじゃ、始めるぞ。盛り上がる順番で俺が指名してやろう」


 フィルブスはブレインを指さし、続いて俺を指さした。


「ブレイン、お前がまず最初だ。で、アルベルト、お前が最後だ」


 俺とブレインの視線が交錯した。

 ブレインはひとつうなずくと、


「わかりました」


 フィルブスとともに隣の部屋へと入っていく。

 壁はガラスで透明だった。柵の前に立つブレインと端のイスに座るフィルブスが見える。

 生徒たちのささやきが聞こえる。


「……ブレイン、どれくらい点数とるかな?」


「フィルブスが上級って言ってたからな……」


「八〇点くらいじゃないの?」


 そして、試験が始まった。

 防音されているようで音は聞こえなかったが、ブレインの立ち回りはよく見えた。

 様々な色の魔術が輝き、次々と影を射抜いていく。


「ハンドレッドは伊達じゃないな……」


 生徒の誰かが言った。

 もうブレインは一〇〇の魔術を習得しているのか……。

 それも納得できるほど多彩な攻撃魔術だった。見せびらかす意図はなく、威力と範囲を計算し尽くして即座に最適な魔術を選んで発動しているのだろう。

 学院一年生でこの能力とは。

 正直、一〇年前のクラスメイトでこれほどの実力者はいなかった。


 それからしばらくして――

 ブレインが部屋から出てくる。


「おおおおおお! さすがはブレインだ!」


 圧巻の結果に生徒たちが興奮の声を上げた。

 同時、全員の視線が壁に埋め込まれた黒いパネルへと向く。

 パネルにはこう表示されていた。


 九八点、と。


週2更新(水・日)です。


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shoei
― 新着の感想 ―
[気になる点] ……多少なりブレインの真剣さに妥協したのものあるが。 妥協したのもの=妥協したのも ではないでしょうか?
[一言] 貴方にはたったひとつ、マジックアローしかありませんがその相棒を100にも1000にもしていけば良いのですよ。 入学試験の時にもうその希望は生まれているのですから。
[良い点] なんというか、こう、ムズムズする…居た堪れない… 1人だけオッサンが居て、周りが中学生や高校生のノリでハシャいでて…かなり…キツイよなコレ… 貴族とバレて一番大事な友達(ヒロイン)と距離が…
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