九頭龍の目覚め
その龍は長い間まどろんでいた。
忌々しい封印を受けてからどれほどの時間がたっただろうか。
(出せ! 我をここから出せ!)
龍は何度も何度も暴れた。
だが、結界はびくともしなかった。龍の巨体を頑強に押し込めた。
それでも龍は暴れた。
そして、いつか気づいた。
この結界は少しずつ弱まっていると。
(……はっはっはっはっは! 我を閉じ込めることなどできるはずがない! 人間どもめ、この仕打ちを一〇〇倍にして返してやろう!)
その日を思うと龍は少しばかり気分がよくなった。
結界の緩みは少しずつ少しずつ大きくなっていく。
龍にはわかっていた。
もはやこの結界は形だけで――崩壊の日は近いと。
(ああ、楽しみだ楽しみだ。どれだけの人を喰らってやろうか、どれだけの地を毒で濡らしてやろうか。骨をぱきりぱきりとかみ砕き、二度と花の咲かない世界にしてやろう)
龍はそんな妄想をして日々を過ごした。
そんな龍の予測は――
あっさりと外れた。
(結界が……崩れる……!?)
龍の予測よりもずいぶん早く結界が崩壊し始めた。
己の力でいつか打ち砕いてやろうと思っていた結界が、まるで蒸発するかのように溶け消えていく。
(……どういうことだ……?)
龍はいぶかしんだが、どうでもいいことだった。
牢が破れたのなら外に出るだけ。
(ははははははははははははは! 人間どもよ、我の怒りは容易にはおさまらぬ! 世界の終わりをくれてやろう!)
龍は深い水底から水面へと上昇した。
九つの首が――
悠久の時を超えて再び姿を現す。
空を見上げれば夜だった。月すら見えない闇が龍の周囲に広がっている。
(……ここが今の世か……)
龍が九つの首、その一八の瞳で周囲を睥睨した。
(……では、この地から始めようか。我が復讐を! いつかのようには容易にやらせんぞ!)
そのときだった。
龍の鋭敏な聴覚はその小さな声を拾った。
「マジックアロー――」
そして、声はこう続けた。
「全門開砲」
瞬間――
遙か下方――地表すれすれから何か閃光のようなものが大量に飛び上がってきた。
(なん――)
だ、と思考する暇すらなかった。
その何かは龍の巨体に激突した瞬間――あらゆるものを破壊するエネルギーが爆発した。
グオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
龍の喉の奥から絶叫がほとばしる。
龍の身体を覆う強靱な鱗を粉砕し、その下にある肉を容赦なく引き裂く。それも一ヶ所ではない。全身だ。身体のありとあらゆる場所に白い閃光の華が咲き誇った。
(何が我に起こっている!? 何が我をここまで傷つけている!?)
永いまどろみから目覚めたばかりの龍は、何が起こったかも理解できぬまま激痛に身をよじった。
封印される前も含めて受けた記憶のない大ダメージだったが――
龍は死ななかった。
だが、無事ではすまなかった。龍が誇る九本の首のうち二本が力を失って崩れ落ちていた。残りの七本も大きな傷を負っている。
(……誰だ! 誰が我を――!)
返答は早かった。
龍の生き残った首の眉間に白い矢が命中した。頭を突き抜けるかのような激痛が龍を苦しめる。
(……な、なんだ!?)
龍が首を動かして白い矢の発生源に目をやる。
(――!)
龍は息を呑んだ。
次々と白い矢が暗い山の中腹から飛んでくるではないか!
白い矢は龍の身体のあちこちに突き刺さり、暴力的なエネルギーを撒き散らして肉体を破壊していく。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
龍は吠えた。だが、それは痛みによるものではなかった。
怒りだ。
激しい怒りが龍の体内で燃え上がった。
何かがいる!
無視してはならない何かが!
龍は理解した。
これは罠なのだ。人間どもは龍を殺せると判断したから、その封印から解き放ったのだ。
(こしゃくな人間が! 龍である我を侮るとは!)
その浅はかな企みごと粉砕してやろう!
そう思った龍は襲いかかる白い矢にひるむことなく、その足を前へと進めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……仕留めきれなかったか……」
フルバースト――一万本のマジックアローを同時に叩き込んでも九頭龍は倒れなかった。
「……どうすれば倒せるのかよくわからないが、九つの首、すべてを落とせば何とかなるだろう……」
すでに二本。
あとは七本。その七本も無傷ではない。
いけるか。
俺は右手を向けた。
「マジックアロー」
俺の放った一撃が九頭龍をとらえる。
それを受けた九頭龍だったが、ひるみはしなかった。七つの首がいっせいに俺のいる方角をにらみつける。
そんなものに俺はおびえない。
「マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー」
マジックアローを六連射した。
マジックアローを放った以上、気づかれることは自明。一二キロの絶対防衛ラインを突破させないように戦うだけだ。
できることなど――
マジックアローを放つことのみ。
九頭龍も俺という敵がいることを認識したのだろう。
だっ、とすごい勢いで俺へと駆け寄ってきた。
――むっ!
ただの一歩でそれほどの距離が縮むのか!?
「マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー――」
俺は再びマジックアローを連射した。
今度は途切れなく、延々と。
どうやら自由に動く間を与えるのはかなり危険だ。あっという間に距離を詰められる。
マジックアローの威力で相手を抑え込むしかない。
だが、どうもそう簡単には展開しないようだ。
俺が本気でマジックアローを打ち続けても、九頭龍は止まらなかった。その山のような巨体は鱗を吹き飛ばされ、血を流し続けても前進をやめない。
じりじりと距離を詰めてくる。
……どうやら戦意は満ちあふれているらしい。
ならば持久戦といこうか、九頭龍よ。
俺もまた、負けるわけにはいかないのだから。
「マジックアロー」
お前の心が折れるまで俺はマジックアローを打ち続けるのみだ。
週2更新(水・日)です。
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