九頭龍(くずりゅう)の眠る湖
ここまでいかがでしたか? 連載継続のためにも、ぜひ書籍の購入をお願いいたします!
2巻は頑張って書籍の半分を書き下ろしています。Web版よりも読み応えは抜群ですので、そちらで楽しんでいただけると作者としても嬉しく思います。
俺とローラはマジックアロー飛行で空を飛んでいた。
夏のピークは越えたが、まだ暑さが残っている。後背へと流れていく風が心地よい。
ようやく俺たちは全依頼書を処理した。
「ありがとうございます!」
「あんたは村の恩人だよ!」
「あんたのこと忘れないからな!」
たくさんの感謝をもらった。
リュミナスの地が少しばかり平和になったと思うと俺は嬉しい気分になった。
こんな俺の力が役に立ったのだから。
俺としても得るべきことの多い旅だった。きっといつか俺が領主となったときに役に立つだろう。
すべてを終えた俺たちは領都リュミナスを目指して移動していた。
そのとき――
「あ! アルベルトさん! 雨が!」
まるでそこに境界線でもあるかのように暗い雲が立ち込めていて、俺たちの向かう先に雨が降っていた。
「ローラ、頼むよ」
「はい!」
ローラが小さな杖を取り出した。
「ウィンド・カーテン!」
その瞬間、俺たちの身体を風の幕が覆った。
風が雨を弾いてくれる。
「助かるよ」
「サポートは任せてください!」
そんな感じで雨の中を俺たちが飛んでいると……。
「あそこに大きな湖があります!」
「あー、そうだな……」
ビヒャルヌ湖ほどではないが、差し渡しで一キロはありそうな湖がそこにあった。
「……あれ?」
ローラが目を細めて見下ろす。
俺は声を掛けた。
「どうしたんだい?」
「湖の真ん中あたり、船がありますね」
ローラの言うとおり、だだっ広い湖のど真ん中にぽつんと小舟があった。
「……人が乗っているな……」
「はい。変、ですよね?」
こんな雨の中、どこにも動こうとしていない小舟が漂流している。
普通に考えてトラブルだろう。
「……助けるか……」
俺は湖の岸へと着地した。
次いで、ローラが魔術を使う。
「ウォーター・ウォーキング!」
ローラの魔術のおかげで俺たち二人は水面を歩けるようになった。
船のある場所まで五〇〇メートル。
それほど遠い場所ではない。
俺とローラは小舟に向かって歩いていった。
「ん……?」
ローラが怪訝な声をこぼす。
「アルベルトさん、何か変じゃないですか、あの船?」
「……何がだ?」
「何か……低いような」
「低い?」
「水面に対して……沈んでますよ!?」
ローラの言葉の通り、その船は半分くらい水中に没していた。
危ない!
俺たちは慌てて走り出した。
「おーい、そこの人! 大丈夫か!」
俺は大声を上げた。
今まで俺たちに背を向けていた人物が振り返る。髪の長い若い女だった。その顔が俺たちを見てぎょっとなる。
……無理もないか。
俺たち水面を走ってるんだもんな……。
「気にするな! 大丈夫、助けるから!」
俺の声に反して女は大声で叫んだ。
「来ないで!」
え……?
とても来ないでと言える状況ではないのだが。
俺とローラは視線をあわせる。
「……とりあえず……助けるか……」
何か訳ありかもしれないが、見捨てるわけにもいかない。
俺たちは小舟にたどり着いた。
小舟のなかには降り続く雨で満たされている。女性の膝下はどっぷりと水につかっていた。
だが、それよりも俺が驚いたのは彼女の足だった。女性の右足には逃げられないように小さな鉄球が鎖で結ばれている。
俺は息を呑む。
「こ、これは……!」
雨に濡れた髪を振り乱し、女が叫んだ。
「わたしのことはいいから! 邪魔はしないで!」
「……なぜこんなことを……?」
「あなたには関係ない! どこかにいきなさい!」
……事情を訊きたいのだが……。
どうやら女は興奮しているようで話せる状況ではなさそうだった。それにこのままだと間違いなく女は船もろとも沈むだろう。
「ローラ」
「……助けましょう!」
それが正しいのだろう。
そもそも目の前で死にそうなのを放ってはおけない。
俺は右手を差し出した。
「マジックアロー」
白い閃光が走り、女の足に結びついていた鉄球を打ち砕いた。
「すまない」
俺は女の身体を抱きかかえようと両手を伸ばす。女は両手両足をばたばたとさせて「やめて! やめて!」と叫ぶ。
……このままだと確実に死んでしまうのだが……。
そのとき――
「スリープ!」
ローラが睡眠の魔術を発動させた。
その直後、女の身体がふらりふらりと左右に揺れる。瞳がとろんとなってやがて身体が力を失った。
「……ごめんなさい……」
倒れた若い女性にローラが謝る。
「仕方ないさ。まずは助け出さないと」
俺は女性を抱え上げると、そのまま岸辺へと戻っていった。
雨はまだ降り止まない。
適当な木陰へと身を寄せた俺たちは抱えていた女性を横たえた。若い――ローラより少し年上くらいだろうか。身体をすっぽりと覆うような白い服を着ている。
女性はすーすーと静かに寝息を立てていた。
状況が落ち着いたので、俺はローラに目配せする。
「ローラ」
「はい」
うなずくとローラはそっと女性の肩を揺すった。女性の目がゆっくりと開く。
そして――
「え……わたし……」
女性はゆっくりと身体を起こす。湖を見て、俺たちを見る。
そして、はっとなった。
「……あ、あなた、あなたたち……わたしを助けたの……?」
その声は喜びではなかった。
その声にあったのは動揺と驚愕だった。
「……そうだが? 何か問題でもあるのか?」
「……なんてことを……。せっかく死ぬ覚悟までしたのに……」
女は湖へと目を向けた。
「まだ間に合う……!」
そう言うと女が走り出す。俺は慌てて女の腕をつかんだ。
「何を言っている!? どういうことなんだ!?」
女はぎらりとした瞳を俺に向けるとこう言い放った。
「わたしは九頭龍を鎮めるためのいけにえなの! わたしが死なないと村が大変なことになる!」
本章ファイナルエピソード! 九頭龍vsマジックアロー! ご期待ください!
報告!
マジックアロー、書籍化いたします!
レーベルその他はまだ発表できないんですけど、許可が出たらあとがきや活動報告に書きますね。
で、ですねー、ホントすいません……。更新頻度が変わります。
連日更新⇒週2更新(水・日)
ですかねー。曜日はとりあえず固定で。変える場合はまたお知らせします。
次の更新は「8/5」です。
書籍化作業がーと言う以前に今のペースが私的に無理ありまして。総合1位ショックで限界突破していただけなので……。
燃え尽きちまったぜ、真っ白によ……。
なるべく継続的に更新を続けていきたいと思っておりますので、今後もお付き合いいただければ嬉しいです。
面白いよ!
続きが読みたいよ!
頑張れよ!
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