リュミナスの英雄、その第一歩
マジックアロー飛行で俺たちは店主から教えてもらった街道へと移動した。
「うー、ひどいですね……」
ローラが悲しそうな声で言う。
街道は土砂崩れの影響で端から端までぴったりと砂礫で埋まっていた。巨大な岩や折れた木もあちこちから飛び出ていて、非常に危うい状況だ。
復旧作業中の男たちが「そこ持って!」「あっちあっち!」「危ないからどいてろ!」と大声を掛け合いながら懸命に働いていた。
俺はしばらく眺めた後、監督を務めていそうな中年の男へと近付く。
「少しいいですか?」
「何だ、お前は! 危ないから下がってろ!」
寝不足で充血気味の目を向けて監督が叫ぶ。
申し訳ない気持ちになったが、きっと俺なら力になれる。そう信じて俺はひるまずに話を続けた。
「お手伝いできることがあると思うんです」
そう言って、俺はセバスチャンからもらった『紋章板』を見せた。
リュミナスの紋章――
それはリュミナスに住む人間ならば幼子でも知っている。
監督の目が大きく見開かれた。
「え、そ、それは――?」
「……私はリュミナス侯爵から派遣された魔術師です。お手伝いせよと侯爵から指示を受けまして」
それから監督と話をし、俺の魔術で手伝うことになった。
「何とかして欲しいのは岩や折れた木です。あれが不意にバランスを崩すと死人が出ますからね。作業はどうしても安全第一――つまり、手早くできません」
……なるほど。
というわけで俺はマジックアローを連射して木や岩石を吹っ飛ばすことにした。
「マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー」
俺は街道を塞ぐ土砂に向けてマジックアローを連射する。
白い矢は次々と着弾、あちこちで派手な爆音を響かせた。
派手に巻き散った土煙が消えると――
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
作業員たちから歓声が轟いた。
岩石も木も木っ端みじんになって消えていたからだ。
監督が俺に近付いてきて手を握った。
「ありがとう! ありがとう! あれが消えたおかげで作業スピードが格段に上がりますよ!」
「そうですか。残りの作業は?」
「あとは土砂を脇にどけて道を開くだけです!」
「そうですか。じゃあ、道も切り開いておきましょうか」
「え?」
俺は右手を土砂に向けて再び引き金となる言葉を発した。
「マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー」
今度は一点突破。目の前の土砂めがけて一気に魔力を解き放つ。
再びの派手な音。
その後の光景を見て――
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
作業員たちが再び歓声を上げる。
きれいさっぱりとはいかないが、塞いでいた土砂の真ん中に大穴が穿たれて通行できるようになっていた。
「こんなものでどうですか?」
「……すごいですよ、本当にすごい! あとで安全性の確認はしますけど、こりゃ充分だ! 助かりました! 数ヶ月はかかる作業だったのに! あなたはリュミナスの経済の救世主だ!」
「それはよかった」
「そう言えば、あなたのお名前を伺っていませんが、なんという方なのでしょうか?」
「……あー……」
少し考えてから俺は言った。
「アルベルトです」
……リュミナスの名は伏せた。
領主の息子だと聞けば間違いなく男は腰を抜かすだろうから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その夜――俺たちは撤去作業員の宿泊用に借り上げられている宿に泊めてもらうことになった。
監督が「せめて休んでいってくださいよ!」と勧めてくれたのだ。
領都リュミナスに戻る時間もなさそうだったので言葉に甘えることにした。
俺はひとり部屋で考え事をしていた。
……今日のことは俺にいろいろなことを教えてくれた。
どうやら俺は人の役に立てるらしい。
であるのなら、そうしたほうがいい。
それは旅の指針に関わる閃きだった。
なんとなく俺はリュミナス領を見て回るつもりだった。ただ、それは漫然としたもので、ただの観光と変わらないものだった。
どこかの村に行って――
それでどうする?
その村の場所と雰囲気を見て俺は何を感じる?
それに意味はあるのか?
領地を継ぐものとして将来の糧とできるのだろうか?
そこで今回の『困っていることを解決する視点』だ。
村人たちが困っていることに俺は力を貸す。そうすれば、少なくとも困っていることは解決する。
それは領地にとって間違いなくプラスだ。
ただの旅行より充分に有意義ではないか。
おまけに旅の行く先まで決まってしまう。困っている村を順番に回っていけばいい。
きっと村人たちも俺が役に立てば俺を信用していろいろと話をしてくれるだろう。
そこまで考えて、俺は思った。
ローラの意見を聞きたい。
残念なことに俺には普通に暮らす平民の常識がない。ローラならそこを補ってくれるだろう。
いてもたってもいられず俺はローラの部屋を訪ねた。
「どうしたんですか、アルベルトさん?」
きょとんとするローラに俺は考えたことを伝えた。
俺の熱っぽい話を聞き、少しずつローラの顔に色がつく。
「いい考えだと思います!」
「ローラ、教えて欲しいんだけど前にローラの村に出たゴブリンを退治したじゃないか?」
「ありましたね」
「ああいう感じで、ゴブリンとかに悩む村は多いのかい?」
「多いですよ。都市部は兵士が治安を維持していますけど、村はどうしても放置されがちですからね。自警団を組織して頑張っていますけど、怪我や命を落とす人もいて……」
「そうか……」
俺は口に手を当てじっと考え――
「よし、決めた」
「どうするんですか、アルベルトさん?」
領民が危険な目にあっている。
静かに共存しているならともかく――実害が出ているのなら放置はできない。
「リュミナスの民を守りたい。人に迷惑をかける化け物たちを倒そう」
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