領都リュミナス
俺とローラは実家を出て領都リュミナスを歩いていた。
「さすが侯爵さまの城下ですね! とても栄えています!」
「王都ほどじゃないけどね。リュミナス領で生産されたものはだいたいここで取引されて王都に運ばれる感じだね」
今日はローラを連れてリュミナスの街を案内する予定だった。ここが俺の生まれ育った――俺がもっとも長い時間を過ごした街。ローラにも見ておいて欲しかったし、俺自身も少しばかりの懐かしさを感じてみたかった。
「ここがメインストリートだよ。いろいろな店がある。見ていこう」
「わー、すごいですね!」
幅広い道の左右に多種多様な店が並んでいる。行きかう人々の数も多い。彼らの注意を引こうと必死に商売人たちが声を掛けている。
ここがリュミナスの中心地。
多くの品物と多くの金が動く場所だ。
それだけ活発な場所ということで店の出入りも激しい。歩いていると半分くらいは知らない店に変わっていることに気づく。
……一〇年ぶりだものな……。
その月日の長さを俺は改めて感じた。
そのとき横を歩いていたローラの姿が消えていることに気づいた。
あれ?
後ろを振り返ると、ローラは小さな露天の前で足を止めていた。
「ローラ?」
近付いて声を掛けるとローラははっとして、
「あ、すいません! アルベルトさん!」
と言って歩き出そうとする。
そこへ露天商が声を掛けてきた。
「おっと、お嬢さん、もっと悩んだほうがいいんじゃない?」
「え、いや、その、見ていただけだから――」
「これ、興味があるんじゃない?」
露天商は逃がさないぞとばかりに目を光らせている。そこは女性用のアクセサリーを売っている店で、彼が指さした先にあるのは三日月の形をしたブローチだった。
小さく控えめで、そっと衣服の一端を彩るような――ローラの雰囲気に似合う装飾だった。
「興味はあるんですけど……」
ローラは渋い顔をした。
おそらくお金的な理由なのだろう。
それを察した露天商がめざとく俺へと声を掛ける。
「彼氏のお兄さん、ここは男を見せるところじゃない?」
……。
……。
……。
……彼氏……?
ローラが大声を上げた。
「いえいえいえいえ! この人は尊敬する人で友人で! そういう関係ではまったくありませんから!」
「……その通りだ」
「あ、そりゃ失礼」
露天商が苦笑いを浮かべる。
だが、そう悪くはない考えだと俺は思った。
ローラへの感謝の気持ちを形として残すのはいいことだ。
それに、それほど高いものでもない。貧乏学生だと手が出しにくいが、働いている平民なら普通に買える値段だ。
ただ、何かを買い与えるというのはどうなんだろうか。
俺とローラは友達で平等だ。
理由もなく何かを買い与える――それは上下関係を産まないだろうか。俺たちの純粋な関係を壊さないだろうか――
俺は貴族でローラは平民。
俺は大人でローラは若者。
その違いを浮き出したりはしないだろうか――
そこで俺はふと気がついた。
「ローラ、誕生日はいつだ?」
「え? 六月六日ですけど?」
「あれ? もう過ぎた?」
「はい。もう一六ですよ」
どうやらいつの間にやらローラは年をとっていたらしい。
大義名分ができた。
「ローラ。遅れてしまったけど――誕生日プレゼントを贈るよ。……いつも世話になっている友達として」
「え、で、ででで、でも!」
「友達が誕生日プレゼントを送るのはそんなに変じゃない」
「まいどあり~」
にやにやとする露天商にお金を渡す。買ったブローチをローラに渡した。
それを大切そうにローラは受け取る。
「あ、ありがとうございます! これは、その大切に――家宝として棚に――いやいや! 村の宝として奉ります!」
「普通に使ってくれていいよ」
「はい! 普通に使います!」
嬉しそうな顔でローラはブローチの入った箱を手で撫でた。
「あの、アルベルトさんの誕生日はいつなんですか?」
「俺? 俺の誕生日は――」
俺は冬の時期の一日を告げた。
ローラはうんうんとうなずく。
「覚えました! お祝いしましょう! 必ずお祝いしましょう! 今度はわたしがプレゼントを贈りますから!」
別に気にしなくていいよ――
と答えようとしたが、思い直して俺はこう言った。
「楽しみにしているよ」
そう、それこそが平等な関係。友人として正しい形なのだ。
俺はローラとの関係がいびつにならなくてよかったと内心で安堵の息を漏らす。
それから俺とローラはまた大通りを歩き出した。
そこで俺はあることに気がついた。
「……おかしいな……」
「どうしたんですか?」
「欠品が目立つな……」
そう。多くの店で棚の空きが目立つ。
ここはリュミナスの中心地。ここに店を構える商人たちは海千山千の腕利き揃いだ。
棚の空きは商機を逸するだけ。
彼らがそんな無駄をするはずがない。しかも、ひとつではなくあちこちの店が。きっと何かあるのだろう。
俺は飲み物を買うついでに店主に聞いてみた。
「品物の数が少ないようだが、どうしたんだ?」
俺が訊いた瞬間、店主は困ったような顔をした。
「あー……それね。この街につづくメインルートのひとつが土砂崩れで通行不能になっているんだよ。おかげで商品の到着が大混乱していてね……。どこの店にも頭が痛い話だよ」
「復旧には時間がかかるのか?」
「かなり大規模にやられているらしくてね。数ヶ月は覚悟だってさ」
お手上げという感じで両手を上げる店主に礼を言い、俺たちは店を離れた。
「……土砂崩れって大変ですね……」
「ああ、そうだな……」
そこで俺はふと口元に手を当てて考え込んだ。
そんな俺を見てローラが首を傾げる。
「どうしたんですか、アルベルトさん?」
「うん、ああ……」
そのとき、俺の脳裏に浮かんでいたのは紋章師との戦いが終わった後の光景だった。
崖にぽっかりと刻まれた大きな横穴。
俺がマジックアローでこじ開けた穴。
「なあ、ローラ。今からそこに行ってみようか?」
「え?」
「俺にできることがあるような気がするんだ」
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