Ex1.アルベルトとローラの冬休み(上)
マジックアロー2巻発売告知の3連ショートエピソードです。
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朝の魔術学院校舎――本来であれば授業が始まっている時間帯だが、俺は冬の寒さで凍てつくガラスを眺めながら、ぼんやりと談話室で休んでいた。
テーブルの対面にはローラが座っている。
伯爵領での戦いは魔術学院にも伝わっており、俺とローラは特別に冬季休暇を1週間ほど伸ばしてもらえることになった。
そんなわけで、俺とローラは暇になったわけだが――
「どうしましょうか?」
首をかしげるローラに俺は言った。
「……そうだな。ローラの村に戻ってみるのはどうだろう?」
「え、私の村ですか?」
「ちょうどいい頃合いじゃないかと思ってね。その――ローラも叙勲されたわけだし」
「あ」
声を漏らすと、ローラは嬉しそうにはにかんだ。
伯爵領での働きを評価されて、ローラは国から勲章をもらった。また、出身地の村を想うローラの気持ちに応えるため、村に対して税制面での優遇措置も決められた。
それを報告に村に戻るのは悪くない考えだ。
きっと村のみんながローラを祝福してくれるはず。
「素敵ですね、でも、ちょっと……自慢している感じもしますね」
少し顔を赤らめるローラに、俺はこう言った。
「気にしなくてもいいんじゃないか。ローラの村の人たちはそんなこと思ったりするのかい?」
「いえ、し、しません! はい! みんな、すごく喜んでくれると思います!」
「俺もそう思うよ」
そんな村だからこそ、ローラのようにまっすぐな性格の女の子が育ち、彼女は故郷の村を愛しているのだ。
「いずれ国から伝わるだろうけど――どうせなら自分の口で伝えたほうがいいんじゃないか。村のみんなも喜んでくれるよ」
「はい! そうですよね!」
笑顔でうなずくローラだが、すぐに首を傾げた。
「でも、どうやって村に戻りましょうか? 徒歩だとかなり時間がかかっちゃいますけど?」
「忘れたのかい、ローラ? 俺のマジックアローは――」
そして、こう続けた。
「空を飛べるんだよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
昼食を食べた後、俺たちはローラの村へと旅立った。
「マジックアロー」
2人で冬の空を飛んでいく。さすがに寒いので、俺もローラも冬用の厚着を準備していた。
俺の腰にしがみついたローラが声を弾ませる。
「冬だとちょっと寒いですけど、やっぱりマジックアローで空を飛ぶのは楽しいですね!」
「喜んでもらえて嬉しいよ」
「昔を思い出しますねー」
「昔?」
「ええ。リュミナス領の旅をしていたときのことですよ。あのときも村から村へマジックアロー飛行で駆け回っていましたよね!」
「そうだね」
季節は冬ではなく夏だが――実家である侯爵家の問題を片付けた俺はリュミナス領の諸問題を片付けるため、ローラとともに放浪の旅に出たのだった。
「いろいろあったけど、楽しかったな」
それはきっと、隣にローラがいてくれたからだ。
「ローラは楽しかったかい?」
「はい! ユニコーンにも乗れましたから! 素晴らしい経験でしたよ!」
本当に楽しそうな声でローラがそう言った。
一度の野宿を挟み、俺たちは翌日の昼ごろにはローラの村にたどり着いた。この地帯はどうやら王都よりも一段と寒さが厳しいらしく、地面が真っ白な雪に覆われていた。
「ローラの髪と同じ色だな」
「えへへへ。わたしもそう思います」
笑いながら、ローラが自分の髪を撫でた。
「保護色ですね。わたしを見失わないでくださいよ?」
「大丈夫だよ。俺がローラを見失うことはないからね」
そんな話をしつつ村を歩いていく。とりあえずはローラの実家へと戻るつもりだったが、それよりも早く村民たちがローラの姿に気がついた。
「ローラ! 戻ってきたのかい!?」
「おかえり! どうしたんだい?」
そんなことを口々に言いながら、村民たちがあっという間にローラを取り囲む。
……ローラは人気があるんだな。
まあ、それは前に村に来たときにも思ったことなんだけど。
「あ、あ、あの! その――!」
ローラはみんなを落ち着かせようと両手をぱたぱたと振るが、興奮した村民は誰も口を閉じない。意を結したローラは大声で言葉を発した。
「あのですね! ……いろいろあって特別なお休みをもらいまして、そこのアルベルトさんと村に戻ってきたんですよ! いいご報告もありまして!」
その言葉にみんながざわりとざわついた。
そのときだった。
「ローラ、帰っていたのかい?」
聞き覚えのある声が人混みの向こう側から聞こえた。同時、村民たちがさっと左右にわかれる。そこに立っていたのは、どことなくローラと面影が似ている人物だった。
「あ、お父さん」
ローラの父――リディアスだ。
リディアスがつかつかと俺たちに近寄ってきた。
「いい報告があるとのことだが?」
「うん! ローラやったよ! やったんだよ、お父さん!」
「なるほど」
うんうんとうなずいてリディアスが俺を見た。
「ご婚約おめでとうございます。ふつつかな娘ですが、何卒よろしくお願いいたします」
そう言って、深々と頭を下げる。
……え?
「おおおお、お父さん!? ななな、急に何を言っているの!? 出てくるなり、ぶっ飛びすぎだよ!?」
娘の抗議に、リディアスは目を丸くした。
「何を言っているんだい、ローラ? いい報告があると言ったのはお前じゃないか。そこのアルベルトさんと結婚することになったんじゃないのか?」
「もおおおおおお! そういうのじゃないです! そういうのじゃないんです!」
ローラはぷりぷりと怒ると荷物入れから勲章を取り出した。
「これ! いろいろあってさ、王国の人がわたしを評価してくれて勲章をくれたんだよ!」
その瞬間、リディアスの表情からふざけた様子が消えた。
「――! な、ロ、ローラ、お前――ほほ、本当か!」
「うん! それにね、あの、村のことも気にかけてくれたみたいでさ、3年間だけだけど、村の税を少し下げてくれるんだって!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
その瞬間、村人たちがわいた。
ローラの叙勲は叙勲でめでたいが、やはりこちらは自分たちの生活を直撃するだけあって反応が段違いだ。
「やったじゃないか、ローラ!」
「リディアス、お前の娘とは思えない優秀さだな!」
「ローラ、お前は村の誇りだよ!」
口々にローラを誉めたたえる。
「えへへへ……」
ローラは顔を真っ赤にしながら、照れた様子で髪を触っていた。そんな誇らしい――みんなに尊敬されるローラを見ているのは気持ちのいいことだった。
「よーし、お前ら、ローラを胴上げだ!」
言うなり、村民たちがいきなりローラを持ち上げた。
「え、ええええ、えええええええええ!?」
驚いている間にローラの小さな身体が宙に舞い上がった。
「おめでとう、ローラ!」
「よくやったぞ、ローラ!」
「いきなり故郷に錦とはやるなあ!」
そんな祝福を口々に言いながら、村民たちがローラをぽんぽんと胴上げする。
「ひゃああああああああああああああ!」
最初はびっくりしていたローラだが、いつしかその声は楽しげな笑い声になっていて、大きな声でこう言った。
「ありがとうございます、皆さん! ありがとうございます!」
アルベルトとローラの会話を久しぶりに書きましたけど、やっぱり、いいですね。落ち着くというか。この2人は素直なので会話が誠実で気持ちいいです。私は毒のある会話を書きがちなので(笑)、この2人のセリフを書いているときは心が洗われます。
作者としては、この2人の今後を描いていければな、と思っておりますが、なかなか売り上げノルマの壁は高くてですね(涙)ぜひ2巻の購入をお願いいたします。一定のスコアを出せないと、普通に終わりそうな感じですので。
次回は日曜の夜に更新します。よろしくお願いいたします。




