マジックアロー・極限開砲(フルブースト)
マジックアローのコミカライズが始まりました。詳細は『あとがき』にて。
「フル、ブースト?」
驚くローラに俺はうなずいた。
「すまない、ローラ。説明はあとだ。周りの人たちに避難するよう、城から離れるよう伝えてくれ」
「……わかりました!」
俺たちの周りには状況に混乱した住民たちがたくさんいる。ローラは声の限りに「ここから離れてください!」「城のほうにはいかないで!」とうながした。
……人当たりのいいローラならきっとうまくやってくれるだろう。
俺は俺のやるべきことをするだけ。
マジックアローしか撃てない俺のできること。
ただ、マジックアローを撃つだけ。
俺は超巨大ゴーレムにじっと目を向ける。
右手を差し向けた。
「マジックアロー」
その言葉と同時、俺の右手の先に白い光が出現する。
だが、それだけだった。
マジックアローは進まない。その一点で止まっている。
想定どおりだ。
これは九頭龍戦で見せたフルバーストと同じもので静止型のマジックアローだ。
少し違うのは――
「マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー――」
俺は手を動かさないまま、マジックアローを連続で放つ。
同一の空間に連続してマジックアローが生まれ続けた。マジックアローとマジックアローは溶け合って融合し――
それは新たなる大きな輝きとなった。
「マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー――」
そのまま連続して言葉を紡ぎ続ける。
混じり合っていくマジックアローが一本一本と増えていく。そのたびに光が強くなっていく。
もちろん、輝きだけではなくその威力もまた。
これがフルブースト。
フルバーストがある瞬間における全弾砲撃とするのなら――
フルブーストはある瞬間における全火力の一点集中。
確実にあれを打ち砕く――そんな鋼鉄の誓いを押し通すための切り札だ。
「マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー――」
俺はつぶやき続ける。
一発のマジックアローではあの重ミスリルでできた超巨大ゴーレムを破壊できない。
ならば――
一〇発を束ねればどうだ?
五〇発なら?
一〇〇発なら?
その限界まで俺は何度でも何度でも積み上げよう。いずれそれは必ずお前の限界に至るのだから。
手元で膨らむ魔力の輝きが圧を放ってくる。
俺はそれを気迫で押さえつけた。
フルブーストはとても制御が難しい。ほんの少しでも気を抜けば今ここで爆発して俺どころか多くの人間を巻き込むだろう。
今の気絶寸前のような状態で使う技ではない。
そんなことは知っている。だけど仕方がない。
これしか方法はないのだ。
俺にしかできないことだ。
ならば、最後までやり遂げるのみ。
「マジックアロー、マジックアロー、マジックアロー――」
もうどれくらいのマジックアローを重ねただろうか。
七〇〇発くらいは積み上げただろうか。
すでに伯爵の城は半ば崩壊していた。リヒルトたちは無事だろうか。そうであって欲しいと祈る。
城の破壊に飽きたのかゴーレムが領都へと身体を向ける。
鈍重な動きでこちらへと歩いてきた。
……このままでは領都が破壊されてしまう。
そろそろ頃合いか。
「マジックアロー――」
そこで言葉を切る。
手元の光はとんでもない大きさにまで育っていた。ちょっとした家くらいはあるだろうか。
すっと息を吸い込み、俺は最後の言葉を口にした。
「極限開砲」
光が放たれる。
途上にある大気すらを焼き尽くし――
俺の放った白い輝きが超巨大ゴーレムめがけて飛んでいく。
それは俺の狙いどおりにゴーレムへと着弾した。
瞬間。
ゴーレムの身体を爆発した白い輝きが包み込んだ。爆ぜた空気の音が俺の耳に届く。
その輝きが消えたとき――
ゴーレムもまた消え去っていた。
厳密にはゴーレムの上半身が。あの空を覆わんばかりに巨大だったゴーレムの腰から下だけが残っていた。
ゴーレムの操者であるフォルスも無事ではないだろう。ゴーレムの右手とともに消滅したと考えるのが道理だ。
俺は小さく息を吐いた。
どうやらフルブーストは重ミスリルの防御力を突破したようだ。
終わったのだ。
「アルベルトさん!」
声がした。
振り返ると、息を弾ませたローラがいた。
「倒したんですか……あのゴーレムを? アルベルトさんが!?」
「……そうだね。なんとかなったみたいだ」
ローラに安心して欲しい。
そう思った俺はほほ笑んだ。ほほ笑んだ? できただろうか。あまり自信がない。俺ももう限界だった。
肉体的にはもちろん精神的にも。俺は完全にすり切れていた。精も根も尽き果てていた。
ゴーレムを倒したこと。
ローラの顔を見たこと。
ほっとする要因が重なったせいで俺の身体から力が抜けた。ぐらりと身体が傾く。
「アルベルトさん!?」
そんな俺の身体を駆け寄ってきたローラが支えてくれた。
「大丈夫ですか、アルベルトさん!?」
「ああ……なんとか……。ごめん、ローラ……、重いだろ?」
俺はローラから身体を離そうとするが、できなかった。すぐにバランスを崩す。
ローラが慌てて俺の身体に手を伸ばした。
「な、何を言っているんですか! こんなのが辛いだなんて思いません! アルベルトさんの苦労に比べれば、こんなもの! いくらでも――いつまでだって、わたしはアルベルトさんを支えます!」
俺を見上げるローラの目に涙が浮かんでいる。
「それだけのことをやったじゃないですか! これだけの人たちを救ったじゃないですか! 遠慮なんてしないでください! わたしに! わたしにアルベルトさんを支えさせてください! わたしにはこんなことしかできないから!」
俺は小さく笑った。
そんなローラの気遣いが嬉しかった。意識が急速に闇へと沈んでいく。
それは冷たくて暗いはずなのに――
俺の胸には木漏れ日のように温かい感情が広がっていた。
「……すまない、言葉に甘えさせてもらう」
「はい!」
嬉しそうに返事をすると、ローラが俺の背中をそっと撫でた。
「ゆっくり休んでください、アルベルトさん。気にしないで。皆さんが来るまで、わたしがずっと支えていますから……」
ゆっくりと俺の意識が落ちていく。
そんな俺に寄り添うようにローラの声が聞こえている。
「アルベルトさん、あなたは本当にすごい人です。アルベルトさんのことをわたしは誇りに思います。どうかどうか……今はもう休んでください。ゆっくりと――」
「……ありがとう、ローラ」
ありがとう、ローラ。そんなにも俺を褒めてくれて。こんな俺を。だけどね、俺が戦えるのは君が隣にいるからなんだ。きっと君がいなければ俺はこんなに強くはいられないだろう。
今だけじゃない。君はいつも俺を支えてくれているんだよ――
俺は息を吐いて、静かに目を閉じた。
【告知】マジックアローのコミカライズが始まりました!
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おまけの追加キャラデです。
ルガルドとフィルブスですね。ルガルド、フランス文学を読んでいそうだなと思いました(笑)
この辺もコミカライズの人気が堅調ならいずれ出てくるのではないでしょうか!




