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いざ、ゴブリン狩りへ

 翌日の昼ごろ――


「あそこだ」


 腰に剣を差したガルドが指を指す。そこは岩山にぽっかり開いた洞穴だった。


 入り口には粗末な槍で武装した二匹のゴブリンがいる。


 ゴブリンとはわりとポピュラーなモンスターで背丈は一五〇センチくらい、人間と同じ二足歩行の生物だ。肌は茶色く頭は大きい。瞳のない黄色い目と耳元まで裂けた大きな口と牙が特徴だ。独自の言語体系を持つが、その文化レベルは低く着ている服は粗末だ。


 見張りがうつらうつらとして集中力を欠いているが、それは夜行性のためだろう。

 俺たちはゴブリンの寝床を襲撃するためにやって来た。今は洞穴近くの茂みに隠れて様子をうかがっている。


「いよいよですね」


 俺の隣でローラが緊張気味につぶやく。


 なぜこうなったかと言うと、話は昨日の夜にさかのぼる。


 疑いの解けた俺たちはローラの村に案内された。

 その道すがら、ローラとガルドはこんな会話をしていた。


「ガルドおじさん、ゴブリンって、近くの洞穴に住んでいる?」


「ああ。あいつらの縄張りに近づかなければ何もしてこなかったんだが、ここ一年で状況が変わったのはローラも知っているだろう?」


「うん。外に出た村人が威嚇されたみたいな事件が何度あったよね」


「運よく被害は出てなかったけどな……で、とうとうローラが村を出た翌日に一線を越えてきやがったんだよ」


「何があったの?」


「あいつら村を襲ってきたんだ」


「え!?」


「さいわい、ザコのゴブリンが数匹だけだったから、若い衆でなんとか撃退して死人は出なかったけどな……」


「危ないね」


「というわけで、村としては厳戒態勢を敷いていてな……俺たち腕っ節が強い連中で見張りをしていたわけだ」


「ゴブリンはどうするの? 放っておくの?」


「いやいや……さすがにな……本気で攻めてこられたら耐えられん。領主さまに派兵を頼んだ。こちらから先に攻めるつもりだ」


 というわけで、村では領主から派遣された五人の兵士たちを歓迎する宴会がおこなわれていた。

 そこでガルドが気を利かせてくれた。


「宴会の端っこに座って飯でも食っていけよ。うまいものが出ているからな」


「こっそりおいしいものを食べにいきましょう、アルベルトさん!」


 あまり興味のない話だったが、宿の提供者兼村の案内役であるローラと別れても困ってしまう。仕方なくついていった。

 宴会場では五人の兵士たちが機嫌よく喋り倒していた。


「はっはっはっは! ゴブリンごときこのガルシアさまに任せておけ! ばっさばっさと切り捨てて見せようぞ!」


 五人は気持ちよく酔っ払い、大声で自分の強さを吹聴している。

 ……周りを村の女たちで固め、その女たちの表情が引きつっているのを見る限り、あまり質のいい人物ではないようだが。


「領主さまの優しさに感謝しろよ! こんな呪われた村にも俺たち精鋭を送り込んでくれたのだからな!」


 どうやら酔っ払いのガルシアは気づいていないようだが、周りの村人たちの顔に辛そうな感情が宿る。

 ……呪われた、村……?

 おそらくその単語に反応したのだろうか。隣のローラに訊けば教えてくれるかもしれないが……訊きにくいなあ……。

 そのとき、酔っ払いのガルシアがこちらに目を向けた。


「おいおい! かわいくて若い女がいるじゃないか! こっちに来て相手をしろ!」


 ガルシアの言葉に隣のローラが身体をびくりと震わせる。


「何だ、嫌なのか!? 俺たちはこの村のために危険な目にあってやるんだぞ! そんな態度でいいってのか!?」


 ……さすがに酷すぎるな……。

 むっとする俺にローラが小さな声で言った。


「大丈夫ですから」


 ローラはガルシアの隣に座る。


「やはり女は若いのに限るなあ」


 酒くさい息をローラに吐きかけながら、ガルシアがご機嫌な口調で話しかける。

 ローラが慣れない様子で適当に相手をしていると、ガルシアの目がローラの髪を見た。


「んー? お前、すごい白髪だな……ひょっとしてあれか? 魔女の血が濃く出ているのか?」


「……はい、おそらくは……」


「てことは、お前は魔術師なわけか」


「はい。いくつか使えます」


「よーしよしよしよーし!」


 ばんばんばん! と興奮したガルシアが床を叩く。


「戦力は多いほうがいい! お前、ゴブリン退治についてこい!」


「え?」


「ま、待ってください! この子はまだ子供で――!」


 と隣に座っていた女性が慌てて割って入る。

 ガルシアは無遠慮な手つきで女性を押しのけた。


「魔術に腕っ節は関係ないだろ? 別に子供かどうかなんてどうでもいいじゃないか。攻撃魔術のひとつやふたつ使えるのだろう?」


「はい」


「村のためだ。来るよな?」


「もちろんです」


 ローラはためらいなくうなずいた。


 ローラが言われたからではなく――村のために戦おうとしているのは俺にも伝わってきた。

 だから、俺は俺で手伝う覚悟を決めた。


 俺はひとつだけしか魔術が使えない。

 だが、そのひとつは幸いにも攻撃魔術だ。きっとゴブリン退治の役に立てるだろう。


 そんなこんなで翌日の昼ごろ、俺はゴブリン討伐隊の一員として参加することとなった。


 討伐隊はガルシア含む五人の兵士と二〇人の村人たち、そして俺とローラだ。

 兵士たちは金属の長剣と鎧で武装しているが、村人たちは短剣や手斧くらい。鎧にいたっては数人が皮の胸当てや手袋を気休め程度につけているだけ。ほぼノーガードだ。

 あまり村人を前線に出すべきではないな……。


「おい、白髪の女。マジックアローを撃て」


「わかりました」


「弓も準備しろ」


 四人の村人がそっと弓を構える。


「女の魔術にあわせて撃て。わかったな」


 ローラはワンドを構えた。

 すっと息を吸い、そして、引き金となる言葉を口にした。


「マジックアロー、マジックアロー!」


 直後、魔力で生成された二本の白い矢が見張りのゴブリンたちへと放たれた。


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shoei
― 新着の感想 ―
[良い点] ローラが言われたからではなく――村のために戦おうとしているのは俺にも伝わってきた。  だから、俺は俺で手伝う覚悟を決めた。  この文章にアルベルトが英雄への第一歩を踏み出したように感じ…
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