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奪還、ナスタシア

 俺の手から放たれた白い矢はナスタシアの胸に炸裂した。


「ああ――!」


 ナスタシアが声を上げる。

 白い輝きが消えたとき――


「……え? わたしは……?」


 きょとんとした声と顔でナスタシアがそんなことを言っている。

 人間離れした美貌は相変わらずだが、少なくとも表情に人間味があった。

 ……元に戻ったか……。

 ナスタシアの隣に立つ伯爵が声を上げる。


「な、何が……!?」


 その声は初めて動揺に揺れていた。

 そこへリオの、雷鳴のような声が響き渡る。


「ミオ! 姫さまの護衛としての任を果たせ!」


 リオの相棒はその言葉に即座に反応した。

 ナスタシアの背後に控えていたミオは無言でナスタシアを抱きかかえるとそのまま勢いよくバルコニーから身を躍らせた。


「わわわわわわわわ!?」


 ナスタシアの悲鳴。

 派手な音ともにミオは俺たちのすぐ横に着地する。かなりの衝撃があったのだろうが、無表情な顔はまったく揺らがなかった。


「ありがとう、ミオ」


 ナスタシアの声にミオは黙礼で答える。


「あの、どういう状況なのか――って、そういう状況でもないか」


 ナスタシアの言葉の通りだった。

 説明している暇がない。

 剣を引き抜いた騎士たちが俺たち目がけて走ってくる。目の前で王女を強奪されたのだから怒りのトーンは一気に上がっていた。


「とにかく逃げましょう!」


 リヒルトの言葉に従い、俺たちは走って逃げた。ミオもナスタシアを抱えたまま走り出す。


 俺のマジックアローを騎士たちに放ってもいいのだが――

 騎士たちは伯爵にだまされている。平和的に解決できる方法があるのならそれがいい。

 ……おそらく騎士を押さえ込むにはナスタシアの言葉が必要だ。王女であるナスタシアの命令には伯爵のそれを上書きする力がある。

 だが、それにはナスタシアの言葉に『力』が必要だ。

 王族の威厳を体現した、有無を言わせない強制力が。

 今の流されるままのナスタシアにはそれだけの言葉を発せられないだろう。伯爵か王族か――騎士を迷わせるのが精一杯。

 落ち着いた場所でナスタシアに話をしなければならない。


「あそこ! あそこどうですか!」


 リヒルトが指さした先には三階建てくらいの小さな塔があった。

 ……騎士が訓練用に使用する建物だろうか。

 あそこに逃げ込めばナスタシアに説明する時間を稼げるだろう。


「いいと思います!」


 リオが同意する。

 全員が塔の中へと逃げ込んだ。ローラがドアに魔術をかける。


「ハード・ロック!」


 ドアを開かなくして硬度を強化する魔術だ。

 ……これで少しは時間が稼げるか……。

 全員の目がナスタシアを向く。ミオに抱えられたままのナスタシアは忠実な従者に向かってこう言った。


「あのさ、ミオ。ありがたいんだけどさ……カッコつかないから下ろしてくれない?」


 ミオは静かにうなずくとナスタシアを下ろした。


「……で、いろいろ話してくれるかしら?」


 主君の問いかけにリオが応じる。

 フォルスは人の精神を操ることができる――

 その術による攻撃を受けると糸の夢を見る――

 フォルスの従者であるラッフェンもそれに操られていた――

 アルベルトの魔術はフォルスの術を無効にできる――

 リオはそんなことを早口でまくし立て、


「つまり、伯爵とフォルスが悪者なのです。ナスタシアさまもフォルスの攻撃を受けていて、それをアルベルトさまが助けてくれました」


 そう締めくくった。


「……そういうこと……」


 こめかみに手を当ててナスタシアが大きなため息をついた。


「記憶あるわー……操られていたときのこと。うううう、記憶を消したい……! あんな恥ずかしいことを!」


「え、何かされたのですか、ナスタシアさま……?」


 リオがひび割れた声でささやく。

 ナスタシアがわめいた。


「言いたくない!」


「え、言いたくないほど――は、恥ずかしいこと……!?」


 リオとリヒルトとローラの顔が真っ赤に染まる。

 どんな命令でもきいてしまう状況でおこなわれた『恥ずかしいこと』とはなんだろうか。

 みんなの反応に気づいたナスタシアが慌てて訂正した。


「ち、ちが! 想像しているようなことはされていないから! そういうのはないから! ただ言わされたの! 伯爵さま大好きでーす! って! 恥ずかしいでしょ、もう!」


 ぷんぷんとナスタシアが腕を組んで怒っている。

 ……確かにそれは恥ずかしい。

 というか、伯爵は何をさせているんだ。


「とにかく!」


 ごほん、とナスタシアが咳払いした。


「ありがとう、アルベルト・リュミナス。あなたの忠義と貢献に感謝いたします」


「王国貴族としての責務を果たしたまでです」


 小さくほほ笑んだナスタシアがうなずき――


「さて、と」


 閉じられたドアを見た。

 どんどんどん! と大きな音が響き渡る。もともと金属製の重い扉でローラの魔術で補強もしているのでそう簡単には破れないだろう。

 だが、いつまでもこうしているわけにもいかない。


「あとはわたしが説得すればいいわけね?」


いずれ活動報告にも書くつもりではいるんですが。


私が年末に書いていた【シュレ猫】ですが、【4月27日(予定)】から2章を更新しようと思っております。


予定は未定で変更になったらごめんなさいですが。わりとコツコツ書き溜めております。


【シュレ猫】を読んでくれていた方はお楽しみに!


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shoei
― 新着の感想 ―
[良い点] リオも凄いですが、ミオも凄いですね・・・人1人抱えて、バルコニーから飛び降りて、大丈夫だった!? 良い点というより凄い点(笑) [気になる点] 「……え? わたしは……?」  きょとん…
[気になる点] ローラって地味に役立つ魔術覚えてますよね、今回のハードロックとか、水面に浮くヤツとか…ピュリフィケーションとかも浄水に使えそうだし、実は生活魔術が適性あるんでしょうかね?
[一言] いつも楽しく読ませてもらっております。 シュレ猫2章も楽しみにしています! 頑張ってください!
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