真相(上)
俺の放ったマジックアローは闇の鱗粉をまとうラッフェンに命中した。威力ゼロの闇を浄化するマジックアロー。だから、ラッフェンにはなんのダメージもない。
ただ――
闇の鱗粉がまるで風にさらわれたかのように消えただけ。
ラッフェンの表情が変わる。
狂気に歪んでいた表情が呆然としたものへと。
「……こ、これは――!?」
呆然としたラッフェンのつぶやきの直後、がしゃん! と大きな音がした。振り返ると俺が今まで相手をしていた鎧武者がまるで糸が切れた人形のようにばたりと倒れている。
リヒルトが驚きの声を上げた。
「な、何が起こったんですか!?」
「アルベルトさんは洗脳を解くことができるんです!」
ローラが答える。
そんな話をしていると、ラッフェンが正気に戻った。
「ああ! ああ! 思い出した! わた、私はなんてことを!」
「後悔はいいから! この状況を何とかできないか!?」
リヒルトの声が飛ぶ。
「で、できます! 少々お待ちください!」
ラッフェンは身体をまさぐると小さな玉を取り出した。そして、それをそのまま地面に叩きつける。
音を立てて砕けたそれをラッフェンが足で踏みつぶす。
するとどうだろうか。
俺たちの元へと押し寄せてきていたムカデたちがまるで興味を失ったかのように出てきた道へと戻っていった。
「はあ~……助かったあ……」
リヒルトが大きく息を吐きながら腰を落とす。
ローラがラッフェンに問うた。
「それはなんなんですか?」
「虫寄せのオーブです……フォルスに持たされたもので……申し訳ありません!」
「ラッフェンさんも闇の契約を交わしたのですか?」
おそらくそうだろう――
俺はそう思っていたが。
「闇の契約? 知りませんね、違うと思いますが?」
ラッフェンの言葉は予想と違っていた。
闇の契約を知らない?
そんなことはないはずだ。サーレスがブレインに語った内容によると、両者が合意しないと契約を結べないらしい。であれば、知らないはずがないのだが。
「私はフォルスに操られていたのです。あの糸の夢を見始めてから、だんだん私は私でなくなりました――」
糸の夢?
俺たちは全員で顔を見合わせた。
その言葉はどこかで聞いたことがある。
――……キリキリキリって音がして――張り詰めた糸がわたしの身体に巻き付いてくるのよね……。
確かそれは――
「ナスタシアさまも同じことを言っていたと思うが……?」
俺の言葉にラッフェンがうなずく。
「はい。フォルスは精神を糸で絡め取って人を操るのです。王女さまも同じ攻撃を受けているのでしょう」
「なん――だとォッ!?」
いきなり大声を張り上げたのはリオだった。
「ナスタシアさまを操る――攻撃!? つまり病気ではないのか!? 伯爵はわたしたちをだましていたのか!?」
どうやら興奮して言葉遣いが騎士時代のものに戻っている。
ラッフェンがうなずいた。
「はい。伯爵とフォルスの狙いはナスタシアさまを文字通りの傀儡とすることです」
「なんと言うことだ! では、湧き水で病気を治すという話も――」
「嘘です。そんなものはありません。伯爵たちの狙いはここで皆さまを私ごと殺すことだったのです」
なるほど……。
俺たちは王女付きのメイドであるリオを保険として連れてきたが、それに意味などなかった。ナスタシアを操り人形にすれば証言などどうとでもできる。メイドひとりの死など簡単にもみ消せるのだ。
リヒルトが口を開いた。
「決まりっすね。伯爵のやつ、真っ黒じゃないですか!」
「……問い詰めるのか?」
俺の質問にリヒルトがにやりと笑った。
「いいえ! 実力行使あるのみ! こっからは王女さま奪還作戦といきましょう!」
リヒルトはこぶしを音高く手のひらで打ち鳴らす。
「ふふふふ、あの伯爵め! 今度こそ吠え面かかせてやる!」
「急いで戻るぞ!」
熱血系のふたり――リヒルトとリオが今すぐ走り出す勢いできびすを返すので、
「少しだけ待ってくれないか」
俺はそう言った。
視線を倒れた鎧武者のほうへと向ける。今すぐナスタシアを助けにいきたい気持ちは俺にもあるが、あの謎の敵は分析しておいたほうがいいだろう。
重ミスリルは重すぎて鎧には使えない。なのに、やつは鎧を着て平然と動いていた。
リオの卓越した剣技は確かに鎧の継ぎ目をとらえた。なのにダメージは与えられなかった。
そして、ラッフェンが正気に戻ると同時に動きを止めた。
その理由はなんだろうか。
俺はぴくりとも動かない鎧武者に近付いていった。
マジックアローを受け続けた鎧武者の前部はさすがに崩壊していた。ごっそりと削れている。
だが、その向こう側に人の姿はなかった。
みっしりと詰まった重ミスリルの層が続くだけだった。
つまり、この鎧武者は人ではない。
表面を鎧のように彫刻した重ミスリルの人形だ。
「ゴーレム」
俺はぽつりとその言葉を漏らした。
ゴーレム――魔術師が操る人形のことだ。
確かにそれであれば説明がつく。急に動かなくなったのも、おそらくはラッフェンがフォルスから伝わる魔力の中継地点か何かの役割を果たしていたのだろう。
魔術を無効化する、頑丈な鉱石のかたまり――
なかなか厄介なゴーレムだ。
今回は何となく流れで連射で押し切ろうとしてしまったが、
「重ミスリルで武装した敵が相手なら『フルブースト』を使わざるを得ないか」
俺はそうつぶやくとリヒルトたちのもとへと戻った。
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