第三王女を探し出せ!
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行方不明の第三王女を探し出す――
リヒルトの突拍子もない言い分に俺はローラと顔を見合わせた。
「探し出す? だが、どうやって?」
「ナスタシアさまはこの城にいると思うんですよね、俺」
「どうして?」
「村には行っていないのに村に行ったと伯爵は言っている。伯爵が嘘をついている以上、伯爵が絡んでいるのは間違いないんですよ」
「そうだな」
「伯爵がナスタシアさまを隠したのか、何かしらの理由でナスタシアさま自身の意志で表に出てこないのか――事情はわかりませんけど、王族であるナスタシアさまを置くなら、伯爵の目が届く範囲だと思うんですよね」
そして、リヒルトはこう続けた。
「だったら、ここですよ。この城! ここならどんな異変にもすぐ気づけますからね!」
確かにリヒルトの言い分には一理ある。
……他に手がかりもない。この城を調べるのが第一優先なのは間違いないだろう。
「それにね――俺、この城は異常だと思ってるんです」
「異常?」
「巡回している兵士の数が多すぎますよ」
ここに初めて来たとき、メイドにそんなことを言われたのを思い出した。
理由は――伯爵から口止めされている、だったか……。
「王族の警護が理由なのかな……?」
それならこの厳戒態勢も納得できるか……?
俺のぽつりとした言葉にローラが反応する。
「違うんじゃないですかね」
「どうして?」
「……うーん、警護だったら第三王女さまがいらっしゃる場所に兵を集中的に配置すると思うんですよ。そのほうが守りやすいですよね? あんなに兵士を城中に巡回させる必要はないと思います」
ローラの指摘はもっともだ。
要所の見張りだけならともかく、あそこまで兵士を警戒させる必要はない。
「外からの侵入者じゃなくて城内の動きを監視しているように感じるんですよね」
そこで一拍の間を開けてからローラが続けた。
「――わたしたちを監視している、とか……?」
俺もリヒルトもローラの言葉を茶化さない。
それは妥当な結論のように思えた。
俺たちをまったく信用していない、歓迎すらしない伯爵の様子――俺たちに嘘をついている事実。
あらゆる状況がその解釈を正しいと肯定している。
「ああああんんの、伯爵めえええええ!」
またリヒルトの怒りが高まっていく。
「……落ち着くんだ、リヒルト。まだ決まった話じゃない」
「そうですけど! 確かにそうですけど! でも、絶対にそうですって! 俺も兵士たちからイヤーな視線を感じてますし!」
……ここまで伯爵が警戒している以上、第三王女が城内に留まっている確率はかなり高そうだ。
それから数日、俺たちはエメギス伯爵の城を歩き回った。
想像以上に巡回している兵士の数が多い。そして、割り当てられた部屋から遠くへ行こうとすると呼び止められて「あまり遠くには出歩かないようにと伯爵が仰せです」と釘を刺される。
それでも奥へと進んでいくと――
通路の両脇に立つ兵士たちが俺たちの前に立ち塞がった。
「ここから先は立ち入り禁止です。お引き取りを」
かなり強い口調で遮られる。
……どうやら正面から歩いていって運よく第三王女の居場所にたどり着けるなんて幸運はないようだ。
俺たちはまた城を離れ、街の食堂で作戦会議をした。
「絶対に俺たちを警戒していますよ、あれ!」
「そうだな」
城は彼らのテリトリー。俺たち三人の誰よりも構造に詳しい。それを出し抜いて奥に進まなければ第三王女のいる場所にはいけない。
俺はため息をついた。
「……厳しいな……そもそも第三王女がどこにいるのかすらもわからないんだから……」
伯爵の城はそれほど大きくないとは言え――やはり城は城だ。
兵士たちが巡回する城内を当てずっぽうに歩いてもたどり着けるはずもない。
「場所なんですけど――」
うーん、とローラが考えてから口を開いた。
「城の西側が怪しいと思うんですよね」
「西側?」
俺の問いにローラがうなずく。
「はい。巡回している兵の密度がですね、西の方が高いんですよ。あとですね――」
ローラがカバンから取り出したノートに絵を描いた。
「これは城の見取り図なんですけど、ここから先に行っちゃダメだぞ、と止められるのはここなんですよね」
ローラが城の図に×を打っていく。
それは確かに城の西側に集中していた。
俺とリヒルトは思わず顔を見合わせる。
ぜんぜん気がつかなかった。ローラの観察眼はたいしたものだ。
「よく気がついたな、ローラ」
「ほ、本当ですか? そう言われると照れますね。えへへへ……」
照れた様子でローラは自分の白い髪を手で撫でる。
リヒルトは城の図の西側をとんとんと指で叩いた。
「この西側が怪しいってことですよね? 西側って何があるんでしょうね?」
「塔がありませんでしたっけ?」
ローラの言葉の通り、この城にはまるで突き上げた左腕を思わせる塔が城の西側に建っていた。
リヒルトがローラに訊く。
「じゃあ、その塔が怪しい?」
「西側のどこか――という可能性もありますけど。目立つのは塔ですから、まずそこを見てはどうでしょう?」
「うーん、なら次はどうやってその塔に入り込むかかー」
リヒルトが天井を見上げて考えるが、ああああ……、と呻き声が漏れるだけだった。
「防御が硬すぎるなあ……」
兵士の警戒は城内だけではなく城を囲む庭にまで及んでいる。何かしらの方法で近付いて塔をよじ登るのも難しいだろう。
「ああ、もう! 強行突破してやろうかな!」
勢いよく言うリヒルトに俺はじっと視線を向けた。
「……本気ではないよな、リヒルト?」
「ええ、冗談ですよ、アルベルトさん! 他の貴族の領内で理由もなく暴れたらとんでもないことになりますから!」
第三王女が見つかれば筋も通るが、見つからなければ崖っぷちに追い込まれることになる。
穏便に西側に忍び込む方法――
何かないかと考えて。
俺はある方法を閃いた。
「あるぞ、忍び込む方法」
「え、本当ですか、アルベルトさん?」
驚くローラに俺はうなずいて返した。
「マジックアローで飛んでいけばいい」
どれだけ城内に目を光らせていようと無駄だ。むしろ、中を警戒していればいいと考えればそれ以外の場所が盲点になる。
空からの侵入。
いかに用心深い伯爵でもそんな方法までは備えていないだろう。
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【タイトル】初級魔術マジックアローを極限まで鍛えたら
【レーベル】双葉社さま/モンスター文庫
【収録部分】1話~『続・父と子(下)』まで
かわいいローラの表紙と、真っ赤な背表紙が目印です!
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