訓練日の団員達
シリーズ名『方舟大地フォロスハートの物語』から《外伝》と登場人物の設定などを読むこともできます。そちらも読んでみてください。
リトキスが加入してからかなりの日数が経過した。すでに旅団員の面々は、この男の実力を認めており、訓練日では剣士を志望する者は皆、リトキスに実戦訓練を求めている──そんな有様だ。
……気になる事と言えばカーリアだ。この少女はリトキスと訓練をしようとはしないのだ。
気になって理由を尋ねると……
「私とじゃ訓練にもならないでしょ、強さが違いすぎて。カムイやレンの方が剣の腕だけだったら、私よりずっと強いでしょ。私となんて……」
あわわわわ、彼女の中の否定的開閉器が入っちゃってるぞ。仲間からすっかり切り捨てられた、みたいに感じちゃっているのかもしれない。──こういう時は……!
「レーチェ、頼んだ」
秘技「丸投げ」である!
「はっ? ……急になんですの」
「カーリアが剣技の腕を上げたくてもなかなか上手くならないうえに、カムイやレンはリトキスにべったりだから──ほら、彼女はまだ子供だぞ? もう少し優しく──いや、厳しくだな」
「優しくなのか厳しくなのか、はっきりして頂けません?」
そう言いつつも「分かりましたわ」と言って、彼女がカーリアの剣術指導に当たる事になった。前にも言ったがレーチェは、リトキスから剣技を学んでおり、俺の様な力任せで我流の「なんちゃって剣術」とは違う、洗練された剣技をするのだ──
いや、俺の剣の技は転移門先に現れる、数々の敵と戦う為のものであって、対人戦闘向きでは無いのだ。……本当だぞ?
とはいえ、俺もカーリアに何か強くなる為の助言をしてやれるかもしれん。そう思って色々と考えていると、メイに引っ張られて敷物が敷かれた所まで連れて行かれる。
「おい、まさかこれは」
「私の訓練相手。レンやエアとは飽きた」
ご丁寧に防具や、緩衝材入り手袋も渡される。
「脚に付けた防具で蹴ってもいいよ」
「いや、片脚義足で、蹴りなんてまともに出せないんだが」
少女は「あ、そうか」と声を漏らしたが、相手を変更する気は無いみたいだ。
「いくよ」
いつになく気迫の籠もった声で少女が言い、小さな鬼神が、体を左右に振って向かって来る。
「俺し、死んじゃうかも」
俺の呟きは、敷地内で行われている訓練の音の中に掻き消されてしまった……
*****
メイとの戦闘訓練──これが得点制の拳闘試合なら、ぼろ負けだし、損害判定制の勝負なら──、やはりぼろ負けだった。
少女の飛び後ろ回し蹴りを腕の防具で受け止めたが、つるっと滑った蹴り脚が強かに側頭部に当たって、俺は倒れ込んでしまったのだ。
まさか自分の最期が、少女の蹴りを受けて終わろうとは、誰が想像できただろうか。……いや、むしろ。そうあって欲しいと思っている奴も居るのかもしれんが。
「だ、団長……大丈夫?」
誰かが俺を呼んでいる──あ、まだ死んでないみたいだ。
俺はゆっくりと上半身を起こした、頭(側頭部)が少し痛いが生きていた。考えてみれば防御して、威力はある程度弱めたはずだ。まともに喰らっていたら、無事かどうかは分からない。
「死んだかと思った」
俺の言葉に、周囲に集まって来ていた団員達から、安堵の溜め息が漏れた。
「ごめんなさい……」
申し訳なさそうにメイが謝った。珍しくへこんでいる様子だ。
「ああ──まあ訓練とはいえこういう事もあるからな、お互い気をつけよう」
頭だけでなく体中が痛い、少女の拳が防具を超えて、腹部や腕を殴りつけてきたみたいだ、痣になっているかもしれない。凄い威力だ。
まったく、格闘少女は最強だぜ!




