管理局の来訪、不正者への疑惑
翌日も全員で冒険に出るという仲間達。体調や魔力、精神的な事も考慮して、適当に休みを取るよう言っているのだが(もちろん休めば自分の手取りが少なくなる──歩合制という奴だ)、ここの皆は稼ぎの事と言うよりは、自らの装備や旅団の発展について考えている面も大きい。
俺が給湯設備や洗濯機を開発したので、さらに生活を豊かにする、新たな発明をしてくれるのではと期待しているらしいのだ。
「過剰な期待は止めてもらいたいが……ま、こつこつとだな」
火を付ける着火器は、以前からこのフォロスハートにはあるし、後は塵紙か? そんな風に思っていたが、ある日。管理局から「柔らかい紙」の製法と、原材料の培養に成功した。という報告書が配布された。
それによると水の神の住む都市ウンディードで水田を作り、綿草という葉っぱが綿の様になる水草を育てる事に成功し、その葉を利用して柔らかい紙を作る事に成功したという。
その開発者はまだ若い少年だと書かれていた、ウンディードでは、そのような若くして活躍できる錬金術師が居るのかと感心する。
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仲間を見送った後、これは俺も何か生活が豊かになる発明品を作らなくては──そんな気持ちになる。明かりに関しては、魔力結晶を使った燈籠や発光結晶がある。冷蔵庫などはかなり前から作られているらしい(属性の力があるので熱したり冷やしたりする物は製造し易い為か?)。
石鹸や綿織物、密封容器に包帯なども作られている。その他の物となると──それらの物よりも品質を高めた物などか? もしくはそれらの物を、より効率的に作り出す方法などを見つけ出す事だろうか。
錬金術であっても、それは容易な事では無いが、今はこの旅団、もしくは宿舎や錬金工房で使える物について考えてみよう──
そんな風に思っていると門の方から、誰かが声を掛けているのが聞こえた。
門を開けて出てみると数人の男が立っていた。一人はいかにも管理局の人間といった感じの優男だが、その背後に居る連中は武装しており、男の護衛といった体格だ。
「突然申し訳ありません。『黒き錬金鍛冶の旅団』の拠点は、あちらの鍛冶屋で間違いありませんか?」
優男の言葉に肯定すると、彼は近頃問題になってきた、冒険者の若者から搾取する様な行為を働く、無名の旅団があるというので、彼ら(「秩序班」とか言うらしい)は探している最中なのだと語る。
「ここは宿舎──ですか? 中を見せて頂きたいのですが」
「それは構わないが、生憎と仲間達は全員冒険に出てしまって居ないのだが。それに『黒き錬金鍛冶の旅団』の素性については、お宅らの『技術班』から話を聞けば、うちが真っ当な旅団だという事は分かってもらえると思う」
旅団員に話を聞きたかったら午後にでも来てくれと言うと、男は素直に「分かりました、技術班の人間に聞いてみます」と答えた。
「あ、ちょっと待て。その聞き慣れない旅団って『金の禿鷲──』とか言うのも入ってるか?」
俺がそう尋ねると優男は少し考える間を置いた後で「ええ、その旅団はおそらく『黒』だと睨んでいます」と言った。
「禿鷲」について何か知っているのかと尋ねられたので、だいぶ前に「ブサイク」とか「ブサイヌ」、とかいう名前の男が来た事があると説明しておいた。
男はその事を手帳に書き込むと、「情報提供に感謝します」と頭を下げて去って行く。
あの胡散臭いふてぶてしい男は、どうやら道を外した者達の仲間らしい。もし今度やって来たら取っ捕まえて、管理局に突き出さなければなるまい。
この限りある、狭い世界の中で仲間を食い物にするなど、決して許される事では無いのだ。
最後の部分「限りある」場所じゃなかったら良いのかというと、そうではありません。
しかし狭い範囲だとその悪質さがすぐに露呈する。といった意味合いで言っています。この事は今回の話のキモとなる事なので詳しくは触れません。




