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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第三章 秩序と断罪

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猫と休日(後編)

 小鉢植物園テラリウムを一つ作った。

 鉱石を岩山の様にいくつか配置し、苔むす大地をその周辺に敷き詰めて、羊歯しだを樹木に見立てて植える。


 ピンセット(つまみ金具──とでも言うのだろうか?)で、一つ一つを配置していると、花壇を囲む煉瓦に腰掛けていた俺の足下に猫がやって来て、体を擦り付けてくる。

「なんだ、もう食べ終わったのか? そんなに時間が経ったかな」

「ぅにゃぁぁ──」

 と、義足の上に足を乗せるとその上に乗り、温かく無かったせいか、右足から降りて左足に向かう。猫は足の間で体を丸めると眠ってしまう。


「変な所で寝る奴だなぁ……」

 ぽかぽかと温かい日差しを浴びながらテラリウムを作っていたが、俺も段々と眠くなってきた。たまには昼寝でもするかと、倉庫から敷物を引っ張り出し、庭の真ん中に敷く。


 猫は花壇の側で丸まったまま動かない。

 空に見える焔日ほむらび燦々(さんさん)と陽光を降り注ぎ、街を温めている。──しかし、()()()()()()一応四季に似たものもある。

 今は温かいが、火の神の力を温存する期間が存在し、冬に近い季節もある(そこまで冷え込みはしないが)。

 雨は滅多に降らない。水の神が発生させる雲が無ければ雨の元となる物が、この浮遊する大地には無いからだ。


 そんな事を考えながら横になる。

 雪は降らない。というか、ここに住む人々の中には「雪」という概念が無いのだ。もしかしたらフォロスハートが砕ける前の世界の書物には、雪の事が書かれているかもしれないが、それを読んだ時に、ここの人々は「雪」をどのように捉えるのだろう──


 焔日の温もりの中で横になると、例の女神の姿が脳裏に浮かんできた。女神と呼ぶに相応しい美貌びぼうと、豊満な肢体したい、あの我がままな性格さえ無ければ、素敵な女性だと手放しで誉め称えるのだが。

 まあ、あまり考えるのはよそう。こうした思考も筒抜けになっている恐れがあるのだから。


 *****


 夢を見ていた──過去の夢だ。

 俺がフォロスハートに来る前の、懐かしい記憶。最近よく見るようになった。

 誰も居ない自宅の庭で錬成用の炉と釜を準備している。

 自宅は二階建ての、一般的な大きさの建物だが、独りで住むには広すぎる。かといって誰かと住もうとは思った事も無いが。


 休日になると錬金術の実験と、テラリウムの作成を良くやったものだ。別に卑金属を金に変えようと思っている訳じゃない、化学に特別の興味がある訳でも無かった。

 なのに何故かその作業に没頭した。心の中の内なる呼び声に従って行動した、というのが実際の所なのだろうと思う。


 夢の中でも(夢だという自覚がぼんやりとだがあるのだ)どうしてか、錬金術の実験を始め、何やら色も判然としない液体を容器に入れて、混ぜ合わせていると……

 ぼんっ、と音を立てて白い煙りの中から巨大な猫が現れた。


『うにゃぁああぁ──』

 それはドスンと、俺の上にのし掛かり、もふもふの体で俺を押し潰そうとしてくる。

「ぅうぅぅ……や、やめろぅ。……い、息が──」


 *****


 そこで目が覚めた、新しい展開の夢だった。

 ふと胸の辺りが暑苦しいと感じた俺は、頭を下半身の方に向けて見る。


 白い猫が目の前で熟睡していた。目の前に猫の顔があるのだ。

 いつの間にか猫が俺の胸の上に移動して、俺に悪夢を見せたのだ。当の本人はぬけぬけと、腕を組むみたいに前足を折り畳み、目をつむって眠りこけている


 仕方がない。この猫が起きるまでは、じっとしている事にした。

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