猫と休日(前編)
ちょっと日常編が続いてるかな……しばしお付き合いをお願いします。
以前は冒険に出る前に鍛冶屋に集まって相談していた。しかし鍛冶屋を改築する事になってからは、宿舎の方で相談を行って、ここから冒険へ向かうようになった。
今回は二組に分かれて冒険へ行ってもらう。
エウラ率いるパーティにリトキスを入れ、ユナ、メイ、ウリスの五名で「暗黒の大地」へ向かい、白老樹の実などを取って来てもらう。
レーチェ率いるパーティには、「巨大な塔のある山間」に向かってもらった。どちらのパーティも能力的には申し分ないはずだ。
大蛇竜を討伐できたらしめたもの、その素材を持ち帰れば盾や革鎧も良い物が造れるだろう。遭遇確率は低いのだが。
彼らを見送ると、一人ぽつんと宿舎の庭に残されてしまう。
鍛冶屋の掲示板には、しばらく休業と書いて来たが、相談がある場合は旅団宿舎まで来るようにとも書き込んである。
屋外にある炉に手を加える事で、簡単な鍛冶工房を立ち上げるのも可能だ。──ただし、これはあくまで旅団の仲間達に行う為の仮設の炉であり、ここで鍛冶屋を開くつもりは無い。
新しい鍛冶場が完成するまでは武器を作ったりは、なかなか出来ない。錬成台は使えるので強化錬成は出来るが、──あまり屋外でやる事では無いだろう。
しかし錬成指南書を出した事で徐々にではあるが、各鍛冶屋の技術力は高くなって行くはずだ。そうなれば俺の所で錬成強化せずとも、他でも同じ精度の強化が行えるとなれば「オーディス錬金鍛冶工房」で強化する必要は無い。
仕事量は減るがそれでいい、あまりに偏りがあっては駄目だ。こちらがパンクしてしまう──
それはともかく、せっかく休暇の様な時間を手に入れたのだ。久し振りにテラリウムを作るとしよう。
あ、そう考えるとなんだか楽しくなってきた。冒険に出ている仲間達には申し訳ないが、仕事の合間にたまには趣味で羽を伸ばしても良いよねっ。
「うん、いいよ!」
自分でそう答えて、俺は誰も居ない庭から、部屋にしまってある硝子の小鉢を持って来ようとする。
「……にゃぁ──」
すると背後から心配げな猫の鳴き声が……振り返ると、宿舎の敷地を囲む壁の上に白い猫が居て、じっとこちらを見ている。
「ぉ、おう。な、なんだよ、変な時間に来るじゃないか」
「ぅにゃ──ぉ」
壁の上で耳の後ろを、後ろ足で掻いている。尻尾を振って、すっと四つ足になって身構えると、敷地内に飛び降りて来る。
「にゃぁ──」
その鳴き声は「煮干し寄越せ」と語り掛けている気がした。
玄関に戻ると小箱を手にして外に出て、壁際の石床の上に煮干しをいくつか放って猫に与える。
それから部屋に戻って硝子小鉢などと、食堂の方から牛乳を注いだ、不銹鋼の皿を持って外へ出た。
猫はまだ煮干しを食べている。今日はかなり毛づやが良く、どこかで体を洗ってきたみたいだ。
「ほら、牛乳な。貴重なんだからこぼすなよ」
猫は煮干しから一旦離れて、牛乳の入った皿に顔を近づけると、無心にぺろぺろと白い液体を飲み始める。
俺は硝子小鉢を花壇の方へ持って行き、小石や土を入れてから、どういったテラリウムにするか考え始めた。──今回は鉱石を使った物にしよう、小さな鉱石の欠片などは、錬成で使う時に残る小さな破片などを取ってあるのだ。
宝石の原石などを使うと、もっといい風合いの小鉢が完成するだろう。いつかはやってみたいものだ。




