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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第三章 秩序と断罪

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猫と休日(前編)

ちょっと日常編が続いてるかな……しばしお付き合いをお願いします。

 以前は冒険に出る前に鍛冶屋に集まって相談していた。しかし鍛冶屋を改築する事になってからは、宿舎の方で相談を行って、ここから冒険へ向かうようになった。


 今回は二組に分かれて冒険へ行ってもらう。

 エウラ率いるパーティにリトキスを入れ、ユナ、メイ、ウリスの五名で「暗黒の大地」へ向かい、白老樹ラプスカンピスの実などを取って来てもらう。


 レーチェ率いるパーティには、「巨大な塔のある山間」に向かってもらった。どちらのパーティも能力的には申し分ないはずだ。

 大蛇竜アーヴァーコアを討伐できたらしめたもの、その素材を持ち帰れば盾や革鎧も良い物が造れるだろう。遭遇確率は低いのだが。


 彼らを見送ると、一人ぽつんと宿舎の庭に残されてしまう。


 鍛冶屋の掲示板には、しばらく休業と書いて来たが、相談がある場合は旅団宿舎まで来るようにとも書き込んである。


 屋外にある炉に手を加える事で、簡単な鍛冶工房を立ち上げるのも可能だ。──ただし、これはあくまで旅団の仲間達に行う為の仮設の炉であり、ここで鍛冶屋を開くつもりは無い。

 新しい鍛冶場が完成するまでは武器を作ったりは、なかなか出来ない。錬成台は使えるので強化錬成は出来るが、──あまり屋外でやる事では無いだろう。


 しかし錬成指南書を出した事で徐々にではあるが、各鍛冶屋の技術力は高くなって行くはずだ。そうなれば俺の所で錬成強化せずとも、他でも同じ精度の強化が行えるとなれば「オーディス錬金鍛冶工房」で強化する必要は無い。

 仕事量は減るがそれでいい、あまりに偏りがあっては駄目だ。こちらがパンクしてしまう──


 それはともかく、せっかく休暇の様な時間を手に入れたのだ。久し振りにテラリウムを作るとしよう。

 あ、そう考えるとなんだか楽しくなってきた。冒険に出ている仲間達には申し訳ないが、仕事の合間にたまには趣味で羽を伸ばしても良いよねっ。


「うん、いいよ!」

 自分でそう答えて、俺は誰も居ない庭から、部屋にしまってある硝子ガラスの小鉢を持って来ようとする。


「……にゃぁ──」

 すると背後から心配げな猫の鳴き声が……振り返ると、宿舎の敷地を囲む壁の上に白い猫が居て、じっとこちらを見ている。


「ぉ、おう。な、なんだよ、変な時間に来るじゃないか」

「ぅにゃ──ぉ」

 壁の上で耳の後ろを、後ろ足で掻いている。尻尾を振って、すっと四つ足になって身構えると、敷地内に飛び降りて来る。


「にゃぁ──」

 その鳴き声は「煮干し寄越よこせ」と語り掛けている気がした。

 玄関に戻ると小箱を手にして外に出て、壁際の石床の上に煮干しをいくつか放って猫に与える。


 それから部屋に戻って硝子小鉢などと、食堂の方から牛乳を注いだ、不銹鋼ステンレスの皿を持って外へ出た。

 猫はまだ煮干しを食べている。今日はかなり毛づやが良く、どこかで体を洗ってきたみたいだ。

「ほら、牛乳な。貴重なんだからこぼすなよ」

 猫は煮干しから一旦離れて、牛乳の入った皿に顔を近づけると、無心にぺろぺろと白い液体を飲み始める。


 俺は硝子小鉢を花壇の方へ持って行き、小石や土を入れてから、どういったテラリウムにするか考え始めた。──今回は鉱石を使った物にしよう、小さな鉱石の欠片などは、錬成で使う時に残る小さな破片などを取ってあるのだ。


 宝石の原石などを使うと、もっといい風合いの小鉢が完成するだろう。いつかはやってみたいものだ。

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