剣技の天才、魔法剣を使う
読んで楽しんで頂けると嬉しいです。
今回のオーディスワイアのおっさんぽさに笑ってもらえれば幸いです。
シリーズ名『方舟大地フォロスハートの物語』から《外伝》や登場人物の設定を読めるので、そちらもよろしくお願いします。
朝になると窓を開け、窓際に飾った小鉢植物園に光を浴びせる。自前の霧吹き(これも管理局に登録したら多少の金になるのか?)を使って少し水分を与えると、部屋を出て外へ向かう。
まずは焔日に向かって、いつもの祈りを捧げる──と、そこへやって来たリトキス。手には魔法の剣を持っている、昨日の宴会後に鞘も作ってやったのだ。
「おはようございます、火の神への祈りですか。熱心ですね」
鍛冶屋にとって火の神と地の神は、欠かせない力の象徴だからな。と言うと、魔法の剣の使い方を教えてくれと言ってきた。一応昨日説明はしたが、実際使ってみないと分からないだろう。
俺は倉庫にある、聖銀鉄鋼で作った盾を取り出して、リトキスから離れた場所に立つ。
「こう──ですか」
剣を抜いて剣の魔法に集中すると、刀身から青白い凍気の刃が生成され、周囲に冷気を放ち出す。
「うわっ……これは、結構強力ですね」
「鍔に魔法の剣の影響が出なくなる様な措置はしてあるが、部分的なものだからな。注意して使え」
盾を構えると俺は「撃って来い」と声を掛ける。
「いきますよ」
リトキスは試し斬りをする感じで、凍気の刃を飛ばしてきた。盾で魔法の効果を軽減するが、弾かれた冷気が体を包み、一気に寒くなる。
飛んできた斬撃の重さも、なかなかのものだ。かなり加減して振った攻撃でこれならば、リトキスの連撃に、この「魔法剣」が加われば鬼に金棒だ。
「ふぇえぇ──っくしょぃぃ──! チックショ──!」
俺が盛大にくしゃみをして悪態を吐くと、リトキスは笑い出す。
「ちょっ……なんですか、今のは──完全におっさん化してますよ」
そう言って腹を抱えて笑い出す。
「やかましいわ、どうせ俺はおっさんだよ」
剣に魔法剣の刃を乗せていると魔力を消費するので、戦闘終了したら、すぐに魔法剣を停止する事を説明して、倉庫に盾をしまい部屋へと戻る。
玄関の下駄箱に乗せているテラリウムに水をやるのを忘れていた。小さな霧吹で水を与えていると二階からユナ、メイ、エアの三人が降りて来た。
彼女らは朝の挨拶をして食堂の方へ向かう。
おっといけない、今日は俺も朝食を作るのだった。
調理場に慌てて向かうと、リーファとエウラがすでに料理を作っているところだ。
「すまん、遅れた──。おい、大丈夫か? エウラは料理が苦手らしいぞ」
俺が言うとリーファは頷く。
「ええ、知っています。いま彼女が見ているのは茹で馬鈴薯ですから、砂時計さえ見ていれば大丈夫ですよ」
俺はそれなら安心だなと、うっかり口にしてエウラからじとっと睨まれてしまう。調理場にある小さな冷蔵庫を開けると、林檎を薄く切って白葡萄酒(アルコールは飛ばしてある)と蜂蜜に浸した物が入っていた。──そうだ、昨日のうちに用意していたのだった、すっかり忘れていた。
「何を作るのですか?」
「林檎と乾酪のパイ包み焼き」
リーファに尋ねられたのでそう答え、手を洗うとすぐに食材を用意して、一つ一つの材料を重ねていく。──林檎、乾酪、パイ生地、林檎、乾酪、パイ生地……それらをパイ生地で包んで、人数分を天火で焼き上げる。
生野菜料理は、リーファも作っていないようなので俺が用意する。
「エウラも手伝え、生野菜料理なら簡単だろ?」
洗った野菜を切ったり、千切ったりした物と、俺の作った調味酢を掛ければ完成だ。
出来た物から食堂の方へ運ばせて、焼き上がった林檎と乾酪のパイ包み焼きを、皿に乗せて運んで行く。
自分でこう言うのも何だが、俺の作る料理は皆「美味しい」と言って食べてくれる。ふふふふふ、悲しいかな。一人暮らしが長いと料理が上手くなる男が多いらしい……大きなお世話だ。




