歓迎会と副団長の座
シリーズ名『方舟大地フォロスハートの物語』から《外伝》や登場人物の設定を読む事ができるものを投稿しています。そちらも読んでもらえると嬉しいです。
食堂に集まると簡単な祝宴が開かれた。リトキスは別に歓迎会など開かなくていい、という態度だったが、レーチェが押し切った。
「リトキスさんの為だけでなく、皆さんとの交流の為でもありますわ。思えばエウラさんやエアネル、レンネル、カーリアと多くの団員が入って来たというのに、歓迎会をしていませんでしたから」
「しょっちゅう宴会なんぞ開いている余裕は、うちの旅団には無いと、お前が言っていた気がするが? 旅団運営管理者として実際のところどうなんだ」
俺の言葉にレーチェは、少しばかり顎に手を当てて考える──その結論は。
「だ、大丈夫ですわ!」
「おい、今どもったな⁉」
追及しようとするとお嬢様ははぐらかし、リーファの持って来た皿を受け取ると、白いシーツを掛けたテーブルの上に並べる。
祝宴と言ってもまあ簡素な物ではある。腸詰めに暗生草を使った調味料を添えた物や、塩漬け肉に味を付けて低温で揚げた物。サンドイッチ、そして少々の赤葡萄酒や紅茶。──あとは林檎パイを切り分けた物が、大皿に乗せられて出された。
リトキスはエウラやカムイ、ヴィナーなどと、すでに仲良くなった雰囲気で会話をしている。──その半面、ウリスやカーリアは壁の花になっている。
エアは料理に手を伸ばそうとし、それをレンに咎められている。
「まあ、適当に始めて構わないでしょう。内輪のちょっとした宴ですから」
とレーチェが言い、皆が料理に手を伸ばす。──なぜ立食形式にしたのか、おそらく銘々が話し合いながら、飲み食い出来るようにとの配慮だろうが……俺は皿に、いくつかの料理を乗せるとカーリアの所へ向かう。
「遠慮せずに食え、育ち盛りなんだからな」
空のままの皿を手にし、どれを取ろうかと迷っている少女は、俺が声を掛けるとサンドイッチと塩漬け肉の揚げ物を取った。
「団長──あの人、強いの? 全然そんな感じに見えない」
少女は遠目からリトキスを見てそう評価する。彼女の考える強い男は、筋骨隆々の大男といった心象なのだろう。
「それな。──よし、今度喧嘩を売って来い。『ぬっふっふ、そんな貧弱そうな体の男など我が一撃で吹き飛ばしてくれよう』──とか言って」
俺が以前カーリアが使っていた大仰な言い回しをすると少女は怒り出し、「エリステラは自分の事を『我』なんて言わない!」と、さらに「団長みたいなおっさんでもない」と言われてしまった。
「見た目で判断するな、見た目で。あんな形でも、ここミスランで五本の指に入る旅団の団長をしていた男だぞ。なんちゃって魔女っ子のカーリアなんぞ、片手でけちょんけちょんにされるわ」
色々と納得がいかない様子で「む──っ」とむくれた顔をする。
一皿目の料理を食べ終えるとレーチェが、俺とリトキスを呼んで挨拶をするように言う。俺にリトキスの「金色狼の旅団」時代の話をしろと言うのだ。
「あ──そうだな。リトキスは入団した当初は、いま一つ目立たない奴だったかな。だが半年くらいすると、若手の中でも剣技に優れた奴が居ると、噂に上がる様になっていったなぁ、俺と探索へ出たのはそんなに多くはなかったが。それでも相当な剣の使い手だというのは良く覚えている。「一撃のオーディス、連撃のリトキス」なんて事を言う奴も居たくらいだ」
俺がそう言うと周りから「へぇ──」とか、「おぉ──」とか静かな歓声が上がる。
言われた本人はいえいえ、と言う風に謙遜しているが。
「謙遜する事は無い。あの頃ですらあれだけ強かったんだ、──期待しているぞ」
続けてリトキスが簡単な挨拶をする。なんともありふれた、お決まりの文句を述べた後で。
「オーディスワイアさんの率いる旅団に加わる事になるとは、思っていませんでした。かつてのこの人が『金色狼の三勇士』と呼ばれていた頃から、私達には憧れの様な人でしたから、とても光栄です。どうか団長共々よろしくお願いします」
そう言って頭を下げる。続けてレーチェがこんな事を言い出した。
「リトキスさんは私の師匠でもあります。彼の強さや明晰な判断力などは、私には無いものですわ。だからここはリトキスさんに、副団長の座を譲ろうと思いますの」
おぉ──と、仲間達の間から肯定的なのか、よく分からないが小さな歓声らしき声が漏れた。しかしリトキスはきっぱりと断ったのだ。
「いや、副団長はレーチェさんが続けてください。新入りの僕が副団長なんて、あなたが良くても旅団員は受け入れ難い事ですよ」
反論しようとしたレーチェに「何を言われようと固辞します」と、彼女の意見を受け入れるつもりは無いと示す。
「まあそうだな。入ったばかりで副団長も無いだろう。まずは皆に実力を認めてもらってからでも遅くはない、それでいいだろ?」
俺はそう言ってレーチェに引き下がるよう促す。
彼女は渋々と言った感じで俺の意見を受け入れると、「わかりましたわ、私も性急過ぎました」と謝罪を口にして、宴会を続ける事になった。
カーリアの言う「エリステラ」は《外伝》で少し触れられています。
一風変わった魔法少女(?)が主人公の物語らしいです。




