リトキスの魔法の剣の作製
第三章『秩序と断罪』始まりです。
今回の章は短い物になる予定です。あと、内容的に少し残酷というか(直接的な残酷描写がある訳ではありません)、現代の日本や世界の価値観とは違った世界なのだというところが垣間見える、そんな展開になると思われます。
第三章を読み易くする為に改稿しました。
気になる部分があったらメッセージでも送って頂けると助かります。
リトキスを宿舎の方に連れて行く。実際の所、それはすぐ近くにあるのだが。
門を開けて敷地内に入ると、リトキスは感想を漏らした。
「ずいぶんと立派な宿舎ですね。発足したばかりの旅団としては、破格ではないですか?」
「まあ……な、理由は言わなくても分かるだろ?」
そう言いながらレーチェがよくやる、胸を強調するかの様な腕組みをして見せる。リトキスは「なるほど」と苦笑して頷く。
鍵を開け、建物内にある素材置き場に向かいながら、二階は女子達の、一階は男子達の部屋があると説明し、玄関近くにある部屋のドアを開けて素材を探す。──鍛冶屋にあった素材も持ち込んだ為に、部屋の中はごちゃごちゃの状態だが、精霊石などは場所ごとに集められているので、探すのは容易だ。
「問題は金属を何にするかだが……、クロム鉄鋼と黒銀鉄鋼の合金で作るか、見た目も良いし、硬さと、しなやかさも出る」
どうだ? と声を掛けるとお任せします、という返事が帰って来た。それで決定する事にして、重い荷物を皮袋に入れ、鍛冶用の道具などを担ぐと鍛冶屋の方へ戻る。
手前では建物の取り壊しを行っていて、組み合わされた石材を壊さぬよう注意しながら、接合箇所に大きな鑿を打ち込んで分解していくようだ。
「腐っていなければまだ使える」の精神だ。ここフォロスハートでは当然の事だ、資材は有限だと誰もが知っている。
鍛冶屋に戻ると、薪や燃結晶を入れて火を付け、まずは金属の延べ棒を溶かしながら、水や持って来た魔力結晶や精霊結晶、霊晶石などを、加え易いように並べて置く。
リトキスにも予め、どういった事をするかを説明し、鞴を使って風を炉に送ったり、暑くなる前に体に水を掛けるよう言い含める。
金属を打って不純物を取り除きながら、合金としての結合を確認しつつ、精霊結晶などを加えて行く。──だが、一本目は失敗に終わった。霊晶石を加える前に壊れたので、その分の損失は出なかったが、リトキスにこの分の料金も払ってもらうのが、この魔法の剣を作る条件の一つに入っている事を説明し、いかに失敗と隣り合わせの、難易度の高い錬成であるかを言っておく。
さすがに旧知の仲だけあって、錬成を失敗した時の、このやりようの無い脱力感を理解しているようだ。
二度目の金属を溶かすところからのやり直しに入る。もう一度、始めから開始しなければならないのは気持ち的にも辛いが、ここを平常心で乗り越えながら、金属を打ち伸ばしていく。
剣の形を整えながら、魔力結晶を使って剣全体に魔力回路を生成して行く。紫色や青色の火花を散らしながら、魔力回路の線が途切れずに剣先まで広がるのを確認すると、精霊結晶を砕いて加えて行く。──ここまではさっきもやった工程だ。
火の精霊結晶を加え、風の精霊結晶を加える。リトキスは三つの属性魔法に適性があるので、三つ目の水の精霊結晶を加える前に霊晶石を加えて、対立属性の調和を計る。──ここからは特に細心の注意を払いながら作業をし、水の精霊結晶を砕き加えると、金鎚で金属の中に、魔法回路の中にそれを浸透させて行く。
時折水を掛けられながら作業を続け、魔法回路が安定した状態に成ると、熱した剣を水の中へと滑り込ませる。
「完成だ」
俺の言葉に溜め息を吐くリトキス。鍛冶の手伝いをさせた事は以前にもあったが、これほどの難易度の高い作業はやらなかったから、緊張もするだろう。
後は剣を磨き研ぎ、鍔に柄、鞘を作れば魔法の剣の完成だ。
そう話した時、鍛冶場の入り口に人が立った。ユナやメイが冒険から帰って来たのだ。
「こっちに来ていたんですか? ……お客様ですか、てっきり鍛冶屋は休業するのかと思っていました」
「ああ、いや、客じゃない。今日からうちの旅団に入る事になったリトキス。──俺の以前居た旅団『金色狼の旅団』で団長をやっていた男だ」
リトキスが頭を下げて挨拶をしたところに、レーチェやリーファ達もこちらに帰って来た。彼女らはリトキスを見ると驚いた表情になって、奴に挨拶をする。
たったの一ヶ月の間だが、彼女に剣の技術や探索の知識などについて特訓をした師匠なのだ。
「お久し振りですわ、リトキス氏。かつての仲間である団長に会いに来てくださったのですか?」
「はは、相変わらずですね、氏を付けないでいいと言ったじゃないですか。……今日はオーディスワイアさんに魔法の剣を作ってもらいに来たのですが、──『黒き錬金鍛冶の旅団』に入団するように誘われましてね。これからお世話になる事にしました」
リトキスはそう言って、よろしくお願いします副団長、と頭を下げる。
「まあ、まあ──。リトキス氏……さんが旅団に加わるだなんて、一大事ですわ! オーディス……団長! 今夜は林檎パイですわ!」
彼女はリトキスの手を握りながら、こちらを見て同意を求めて来る。──彼女の言った「林檎パイ」は、ここフォロスハートでは、おめでたい事があった時に食べる食べ物として、昔から振る舞われている代表的なお菓子だ。
俺には彼女が「今夜は赤飯ですわ!」と言った様に聞こえたものだ。──こちらで初潮を迎えた女子が、林檎パイを振る舞われているかは知らないが。
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