ミスラン猫の物語
番外編。
猫のお話。
あたしは猫。都市ミスランに住んでいる白猫よ。
あたしは街に住んでいるの、家に住んでいる訳じゃないわ。
あたしは色々な場所で、色々な名前を付けられているみたい。
シロ、クモ(雲?)、マフモフ(?)、モリー(??)などなど……意味は分からないわ。呼んでる本人に聞いて頂戴。
あたしが昔から通っている鍛冶屋の爺さんが死んで、もうここには来なくていいか。……そう思っていたけれど、オーディスワイアとか呼ばれている男が、あの爺さんの代わりに、あたしに煮干しをくれるようになったの。
だから、ここにも通い続ける事になったわ。別にどちらでもいいのだけれど。
この鍛冶屋に何度も訪れているうちに、沢山の奴らと出会う事になったわ。中にはあたしの顔を見ると、悲鳴を上げて逃げようとする失礼な奴も居るけれど、大抵はいい連中よ。煮干しもくれるし、たまに身体を洗おうとするのは止めて欲しいけれど、仕方ないわ……じっと我慢よ。
*****
ああ、ここの連中は鍛冶屋近くの建物に住んでいるのね。
ある日、敷地から聞き覚えのある声が聞こえたので行ってみたら、鍛冶屋に集まって来る連中(雌が多いのよね、気のせいかしら)が、敷地内で闘っていた。
驚いたけれど、練習していたみたいね。あたしも子供の頃は母親相手に、狩りの練習をしたものよ。
この屋敷の庭に来ると、誰も居ない時もあるけれど、居る時は大抵あたしを撫でたり、抱っこしたりするの。けれどね、お腹を抱き抱えるのは止めて頂戴。
ずいぶん、この鍛冶屋周辺に居る事が増えてしまったわ。たまに別のところに行くと「あら、ひさしぶりねぇクモちゃん」とか「どこへ行ってたんだ? お前の飯を俺が食わされてたんだぞ」とか言われるようになった。
なんだかんだ言っても、あの鍛冶屋の連中と居ると居心地が良いのよね。……だから五日ほど別の場所を歩き回ったりしたわ。あたしは街に住む猫、言うなればミスランの猫よ。
*****
そうして何度も鍛冶屋に行ったり、行かなかったりしているとある日、店が閉めっぱなしになっているの。
とうとう潰れたんだわ。
そう思った。
けれど店は建て直す事になったみたい。しばらくは鍛冶屋ではなく、あっちの屋敷の方へ行きましょう。メイやユナ、エウラは、あたしを見つけると必ず構ってくれるのよ。
……オーディスワイアも、煮干しを用意して待っていてくれているみたい。
ああ、これが、「結婚できない男は猫を飼う」って奴なのかしら。
でも良いじゃない。毎日若い雌に囲まれて、あなたは幸せそうなんだもの。




