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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第二章 集いし者達

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炉の改良から始まる新築構想

 アラストラは帰って行ったが、持って来た銀鎧竜シルドラーグの素材は、そのまま置いていった。「改修費用にててくれ」と言い置いて。


 冒険から帰って来たレーチェらに、その出来事を話すと副団長は「わかりましたわ」、と手を打つ。

「それでは改修いたしましょう」

「せっかく炉を掃除したばかりなのに……」

「炉だけではありませんわ。()()()()()()()()()改修いたしますのよ」

「あえ?」


 彼女は唐突に切り出す。

「この建物に隣接する土地の買収に成功しましたので、いい機会だと思いますわ。この建物ごと壊して、大きな旅団の拠点へと変えましょう」

「おいおい、いきなりだな」

 彼女は肩をすくめる。


「あなたに相談しようと思っていたのですけれど、先代の鍛冶師の方との思い出もある場所だと思うので、少し躊躇ちゅうちょしていたのですわ」

「その割には平然と『ぶっ壊す』と言っていたような……」

「そんな下品な言い方はしていませんわ!」


 どうやらレーチェはだいぶ前から、この鍛冶屋周辺の土地の買収に手を回していたらしい。表だって動くと旅団の心象イメージが悪くなると考えて、ウィンデリア家の執事の一人に根回しをさせていたという──。()()()が悪者っぽいのはたぶん気のせいだろう。


「と言う訳で、当分の間『オーディス錬金鍛冶工房』はお休みと致しましょう。よろしいですわね? 団長」

「い、いや。しかしだな」

「経費はあなたの管理局への研究開発と、錬成指南書の報酬でも足りませんけれど、それはこちらで出しますわ。それでいいですわね?」

「……はい」


 こんな感じで、レーチェ主導の旅団拠点改修工事が始まってしまったのだ。その日は主立おもだった荷物を自宅から、旅団宿舎の方へ運んで行く事になった。仲間達と協力して荷物を運んだり、棚や箪笥たんすを男連中(三人しか居ない)で運んだりして、夜まで掛かってしまった。冒険から帰って来て、さらに働かされている団員の方がきついだろうに、彼ら(彼女ら)は平然としている──ずいぶん体力も付いたらしい。


「これで団長も一緒に住めるね」

 メイは何故か嬉しそうに言う。優しい彼女は、一人で別の場所に住んでいた俺を心配してくれていたのだろう。

「まるで孤独死寸前(すんぜん)のじいさんみたいな扱いだな」

 そんな感想を口にしつつ、悪い気はしない。しかし宿舎で俺を待っていたのは、レーチェとの新しい鍛冶場兼旅団拠点を、どういった構造の物にするかを議論する会議だったのだ──


 彼女はいくつかの鍛冶屋の建物の見取り図などを用意していて、かなり前から、あの建物を壊して建て直す気でいた事をうかがわせた。その事を口にすると「いつかは建て直す事になると思ってはいましたわ」と言うのだ。

 彼女は管理局の保持する、いくつかの炉の見本の様な図面を見せ、どういった物を設置するか意見を求めてきた。


「燃結晶の大量投入に耐えられる素材と、熱を生み易くする構造。──掃除のし易さや、煙突の事も考慮すると大事おおごとになるな」

「改装するのですから、徹底的にやりますわよ」

 そう言って現在建っている四つの建物(二軒は鍛冶屋と現在の自宅)の図面を、テーブルの上に並べる。どうやら上水道や下水道の位置を把握はあくし、四軒分の土地を使って、大きな拠点兼鍛冶場を造る算段のようだ。


「ん? 俺の住まいは……?」

「この宿舎で構わないのでは? 何か問題でもありまして?」

 問題はあるだろう──女を連れ込む事もできないじゃないか。と口にするのは止めにして、「角部屋がいいのだが」とだけ口にした。

「ならちょうど、一階の一部屋が空いていますわ。そこに荷物を運び直して下さいな。今日荷物を運び込んだ部屋は、物置にする予定の部屋ですので」


 知ってるよ! と叫びたかった。入り口横の()()()()()の部屋に荷物を運び込み、家にあった棚などは、通路に置いたままにしてあるのだ。


 大まかな新設する建物についての相談が終わると、明日には建築士に設計を依頼して、同時に今ある建物の解体に入るという──。手際の良さに呆れると同時に、先行きが不安になる。

「また追い出されなきゃいいけどな」

 そんな事を呟きながらカムイやレン、メイやユナ達の手を借りて、角部屋の中に荷物を運び込んだ。

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