錬成指南書の発行と徒弟の募集
読んでもらえて嬉しいです。
『方舟大地フォロスハートの物語』から《外伝》と登場人物などの設定を読めるものを投稿してありますのでそちらもぜひ読んでみてください。
エスクアの為の魔法の剣を作り終えたその日に、鍛冶屋の前に架けた掲示板に「徒弟募集」の内容を書いておいた。
錬成指南書も清書が終わり、各都市に向けて本(そんなに厚い物ではない小冊子程度の物)が配られる事になっているとメリッサは話す。
鍛冶屋一軒一軒に配られたそれは、フォロスハート全体の、鍛冶屋の技術向上に寄与するはずだ。中には「自分が発見し、秘密にしてきた事を公表しやがって」と思う鍛冶師もいるだろう。だがそれらを黙らせる事は、「それ以上の物も公表」している事で可能となるはずだ。
魔法の剣の錬成を行える者は、そう簡単には現れないだろうが、この技術を公表した事で、いつかは魔剣士も、新たな職種として公式なものとなるだろう。まあ後は、それぞれの取り組み次第というところだ。
旅団の方も活動範囲を広げていた。それぞれの団員も、己の装備品を強化する為に素材を集めていて、ヴィナーは魔法の杖を作る為に、「暗黒の大地」に生えている樹木の枝や、魔物化した「魔樹」から手に入れた枝などを持って帰って来て、これで新しい杖を作って欲しいと言ってきたし。ウリスも新たな素材で弓を造り、錬成強化を施す事を求めてきた。
ヴィナーには、魔樹の枝と魔力を含んだ「赤血樹木」の枝を組み合わせ、魔力水晶球(魔力結晶をさらに加工し強化した玉<オーブ>)を取り付けた杖を作り、渡してやった。
杖の影響で、適性の弱かった土属性の魔法も覚えられるようになり、ヴィナーは喜んでいたが──、覚えるにはお金が必要なのであった……
カムイも今では「黒銀鉄鋼」で作った剣と、軽硬合金の剣を予備武器にするようにしている。
個人個人が、強くなる為の方策を練り出しているのは実に重要な事だ。上から指示を受けて始めるのではなく、自ら考え行動する。この様な個人の集まってできた集団は、必然的に強いのだ。俺が加入していた頃の「金色狼の旅団」が、まさにこうだった。
「なにもかも皆懐かしい……」
炉の掃除をして煤まみれになりながら、感慨に耽っていると、客がやって来た。その見知った顔は、俺の煤まみれの姿を見ると、野太い声で笑い出した。
「仕方ないだろう。ここのところ金属加工の量が多かったのに、掃除できなかったからな──凄い汚れの量なんだ」
「……いや、すまん。今日は休みの日だったのか。掲示板に書かれているのを見て知ったよ」
そう言ったのは「蒼髪の天女旅団」のアラストラだった。彼ほどの槍使いは、そうは居ないと言われている屈強な戦士だ。
「それで? 今日はどうした」
「いや、休みなら今日は帰るとしよう」
そう言って重そうな荷袋を担ぐアラストラを引き留めて、今休憩にするところだから、話だけなら聞くぞと言うと彼は喜んだ。
「そうか、いや。実は例の魔法の武器の話を聞いてな。そこで俺にも、その魔法の武器を作ってもらおうかと思ってな」
金属でしか作れないらしいので、金属を持って来たと言いながら「銀鎧竜」の外皮と、大きな銀色の甲殻をいくつも取り出す。
「いや、金属以外でも可能だがやり方が──おいおい、銀鎧竜の甲殻から槍を作る気か。そりゃ甲殻からでも金属は取れるが。──うちの炉では無理だ」
俺が言うと彼は、「そうなのか? 何故だ」と不思議そうに言う。
「それを溶かして金属を取り出すとなると、うちの貧弱な炉に燃結晶を五個入れる事になる。すると──」
「すると?」
「炉が溶ける」
「……無理だな。確かに」
自分のところ(旅団)の炉を使って、鍛冶職人にやってもらえと言うと彼は首を横に振る。
「錬成指南書を見たうちの鍛冶師全員が言ったぞ。魔力回路を壊さないように、武器を作るなんて不可能だと」
「不可能は言い過ぎ。まあ、難易度が高いのは認める。俺も失敗する事の方が多いからな」
「そうなのか⁉」
「だから、うちの炉で銀鎧竜の甲殻を溶かせたとしても、それで魔法の槍を作るのは難しい。素材を全部提供してくれて、なおかつ素材を失っても良いならやってもいいが」
そう言うと彼は少し考えてから言った。
「分かった。では銀鎧竜の甲殻を溶かせる炉に作り替えてくれ」
俺は、ぽかんとしてから答えた。
「ムリダナ」




