エルニス用の魔法の剣の作製
ミリスリアと魔法の適性について話したりして、魔法の剣を作製する方向性(どの属性に対応した魔法の剣か)が決まると。次に「エスクア」の魔法の剣も作ってくれないかと言い出した。
俺は作っても構わないが、一つ条件を出す事にした。それは、猫獣人族との争いに魔法の剣を使わない事。フォロスハートとも(無いとは思うが)争わない事を前提に作っているのだと説明すると、彼女らもこう言ってくれた。
「フェリエスと争いたいとは思っていません。ただ、我々も種の存続が掛かっている訳ですから、相手の立場を尊重しつつも、こちらの事も受け入れて欲しいと思っています」
そして彼女はこうも言った。
「フェリエスだけでなく──人間とも交配できるので。その……どうですか? 我でなくともエスクアなど、あなたの好みではないですか?」
「みっ、ミリスリア様⁉ わ、私はその──護衛ですから! こっ、困ります!」
エスクアは真っ赤になって恥じらう。彼女は異性に対して免疫が無い類型の様だ。いつもはきりっとした表情の娘が恥じらう姿はいいものだ、などと彼女を見ていたら、目が合ってしまう。
「い、いけませんよ。そんな……そんな目で見ても、ダメですぅぅぅぅ!」
彼女は両手で顔を覆ってしまった。
い、いや。別にそんなおかしな目で見ていたつもりはないのだが……
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昨日はそんな事もあり、彼女らの為に二振りの剣を錬成する(期日は五日間──。その間なら彼女達はフォロスハートに居るそうだ)つもりだった。しかし、この日は朝から外部の旅団の人間から、かなりの量の強化錬成を頼まれてしまい、彼女らの魔法の剣を造っている余裕は無かった。
その次の日も忙しく。しかもメリッサが来て、魔法の剣や錬成指南書の報酬を合わせて持って来て(運び込んだのは二人の男の職員だったが)、さらに草稿を修正した物を確認するよう頼まれたので、彼女には、エルニスに魔法の剣を作る事になった事を話しておく。
「これからは魔法の剣の注文も受けるつもりだ。──ただし、失敗した分の素材代の一部を負担してもらうという危険も受け入れてもらう。それだけ難易度の高い物だという事を、まずは理解して欲しいからな」
安易に強くなれるなどと勘違いして欲しくはない。剣技も魔法も使えなければ魔剣士にはなれない。
その点エルニスは、力こそ人間の女と変わらないくらいだが。魔法の適性が高く素早いので、魔剣士として優秀な素質を持っていると言える。
「そうですか。まあエルニスは、好戦的な種族ではありませんから大丈夫でしょう。彼女らとはこれからも、良い関係でいられるよう話し合った事ですし、彼女らの持つ繊細な加工技術も、フォロスハートの産業に組み入れたいですね」
彼女のフォロスハート発展への熱意は、留まるところを知らない。
強化錬成の合間に錬成指南書を確認し、曖昧な部分や、分かり難い箇所を書き直した後で、魔法の剣の錬成に入る。
大きさは短剣と変わらない分量の延べ棒を使い、炉の前に座り込んで軽硬合金を溶かしていく。溶かした金属の真っ赤に焼ける様を見ると、この金属に新たな力──、それは新たな命の誕生にも似た、神秘的な力の結晶へと変わって行くのだ。
今回の魔法の剣の錬成は凄く冷静に行えた。まるで成功に導かれて行く様に、自然な気持ちで作業に入り込めた。
火と向かい合い、風を送り込みながら。柔らかく溶けた金属の塊を金鎚で打ち叩き、火花を散らす。この工程には火、風、土が含まれている(金属は土(石)の中から取れる)。そして仕上げには水の中へ剣を入れて冷やし。後は剣を磨いて、刃を丁寧に研げば完成だ。
気づいた時には剣が完成していた、そんな感じだった。あまりに集中していた為に、時間の感覚がおかしい。
こう言った状態になると感覚が研ぎ澄まされ、剣を打つこと以外の感覚が切り捨てられてしまうようになる。──燃結晶を投入した灼熱の炉の前でこうなると、体中が火傷をおこしてしまうのだ。
「これはいよいよ、徒弟を入れなくちゃな」
俺は火傷した部分に軟膏を塗り広げつつ、作業場の後片づけをする。




