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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第二章 集いし者達

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猫獣人族と小獣人族の対立

 ナンティルとの交渉が終わると、鍛冶場に三人の少女が入って来た。──いや、先ほど出会ったエルニスの三人だ。

 そう言えば、「後ほど旅団に行く」というような事を言っていたかもしれない。


「おお、オーディスワイア殿。ここがあなたのりょ……むむっ⁉ なんですか? その猫()()()()は?」

 ミリスリアと呼ばれていたエルニスが、ナンティルを指差して言う。

「猫っぽいとは(にゃ)んにゃ! ちっさい()()が!」

 全身の毛を逆立てて威嚇いかくするナンティル。──いかん、このままだと鍛冶場で戦いが始まってしまう。


「い、い、淫獣⁉ な、何をこの化け猫娘が! いけませんぞオーディスワイア殿! この様な小娘を旅団に入れておくなど、品位が疑われてしまいます!」

 ミリスリアの背後から「そうです、そうです」とはやし立てる二人のエルニス……。どうやら、この二つの種族は仲が悪いらしい──同族嫌悪というやつなのか? 厄介な事になった。ひとまずナンティルに声を掛けて、落ち着くようにさとすと、彼女は逆立った毛をしぼませて毛繕けづくろいを始める。


「君らも少し落ち着いてくれ、彼女は行商人であって、旅団の仲間という訳でも無いが、錬金鍛冶に欠かせない素材を持って来てくれる商人なんだ」

 俺の言葉にミリスリアは、何かを言おうとして口をつぐんだ。ここで争いは起こさせないという、こちらの意図を汲み取ってくれたようだ。


「む……確かに、こちらもいささか無礼な事を申し上げたかもしれません。その事については謝罪致しましょう──ですが! この者、先ほど言うに事欠いて我を淫獣などと! 到底見過ごせぬ暴言ですぞ!」

 すると再びナンティルが毛を逆立てる。

「本当の事じゃ(にゃ)いか! 私達の種族の男を、香料を使って惑わし、強制的に子供を孕ませようとしている事は、ばれてるにゃ‼」


「しゃ──!」と鋭い、威嚇の声を発する(どこから出ている音なのか)ナンティル。なるほど、男の居ないエルニスは、種の保存の為に、猫獣人の男を使っているという訳か。

 今までなら「よし、分かった。()()()()()俺が彼女らに子供を孕ませてやろう」などと、過激な下ネタで一笑い誘うのだが。この場でそれを言えば、双方から袋叩きに合いかねない。

 ……まずい、何も良い解決方法が思いつかない。


「なんの騒ぎ?」

 鍛冶場の入り口から現れたのはメイだった、彼女は今日休みの日だったのだ。音も無く入って来た少女に驚いて振り返る、エルニスの三人。彼女らとメイの目が合うと──

「なにこの小さい子、かわいい」

 そう言ってメイは、近くに居た稲穂色をした毛を持つエルニスを抱き上げて、ねずみの耳に似た物の乗る頭を()()()()と触る。


「な、なんですかぁぁあぁ! この子供はぁあぁ! 止めさせて下さいぃぃ!」

 側に居た、銀色の髪をしたエルニスが「ロネアぁ!」と、まるで巨人に連れ去られてしまう仲間を案じる様な声を上げる。

 じたばたと暴れるロネア。だが彼女の力では、メイの腕を振りほどく事は出来ない。


「メイ、降ろしてあげろ。怖がっている」

 俺が言うと少女は渋々という感じで、床にエルニスの身体を降ろす。ロネアはおびえて銀色のエルニスの陰に身を隠そうとする。

「うちの旅団員が失礼をした、申し訳ない」

 メイを呼びつけると、そばに来た少女の頭を軽く小突く。エルニス達はメイの登場で毒気を抜かれた様子だ。


「とにかく、この場所で争いは起こさないでもらいたい。俺としては猫獣人族フェリエスとも小獣人族エルニスとも仲良くしたいからな」

 俺はそう言ったが、彼女ら同士のみぞは相当深いようだ。同じパールラクーンに住む者であるがゆえに、敵対的に成らざるを得ないのだろう。隣国と仲が悪いのは()()()()()()()()()()()の様だと思い、少し苦笑してしまう。


 三人のエルニスは、日を改めて後日にお礼をしに来ます、と言って鍛冶場を出て行った。ナンティルも少し落ち着くと──メイが、細長いナンティルの尻尾を狙っている事に気づいて、足早に去って行く。

 後には残念そうな顔をした少女だけが残され、少女の足下で白い野良猫が構って欲しそうに、彼女の脚に体を擦り付けていた。

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