管理局内の開拓者
管理局内でも様々な思惑があるらしい。彼らの上部には直接関与しないとは言え、四大神が居ると言うのに、いい気なものである。
七名の賢者という管理局の代表は、一応はそれぞれの知見を持つ有識者の集まり(あくまで管理局の職員が提示する議題などに意見するだけで、実行的な力を持っている訳ではない)らしいが、彼らの指示を受けた管理局の上層部の職員が、彼ら七人の賢者の内の何人かと結託して、都市の利益の一部を手にしているとも噂されている。
「ですが基本的には七人の内の四名は『開拓者』の意志を持つ者であるので、まともな議論が成されるようになっています」
「残り三名や利益をピン撥ねしている奴を排除する気はないのか」
「もちろん都市の利益を害する恐れがあれば別ですが、対立する意見を述べる者も残しておくべきだと、『開拓者』側の人間なら判断するでしょう」
管理局内部の腐敗は一部の者達の中で行われているらしく、彼らの不正の証拠を見つけ出そうと、内部調査班が動いているのだと説明する。
「管理局は一部の傲慢な考えを持つ者以外は、だいぶまともな組織なんですよ」
とメリッサは言いながら串焼きにされた肉と野菜を口にし、「私としては魔法の剣の錬成についてよりも、錬成指南書の方を早く書き上げて欲しいのですが」と言った。
「それにしても、錬金台の上に描かれた方陣の意味も分からないで錬成している者が多すぎるだろう。何故彼らは錬金術の秘儀に触れながら、その図形を無視しているのか。まったく理解できない」
多くの錬金術師が、自分の発見した法則や公式を公表したがらないとしても、あまりに技術の広まりが遅すぎる。
「それは私達技術班の責任でもありますね。……各都市の錬金術師にも、錬金術で発見した事を管理局に報告すれば、報酬を出すと言ってはいるのですが。やはり独自の技術や知識の拡散を恐れるようなのです──。個人としてはそれでいいのでしょうが、フォロスハート全体の事を考えればそれでは駄目なのです!」
彼女は突然大きな声を上げた事を謝罪し、指南書の執筆を改めてお願いすると頭を下げる。
「まあ、それは俺の知っている事なら書くが。それほど多くの事は無いぞ、錬成台に素材を配列するいくつかの方法論と、霊晶石の使い方とか──あとは釘の手軽な錬成方法だな」
そんな事を話しつつ葡萄酒を飲んでいたら、少し酔いが回ってきた。メリッサは改めて魔法剣と魔剣士の報告書と、魔法の剣の報酬を後日持って行くと言って席を立ち、仲間達の元へ行くと。宴会に参加させてくれた事に礼を言ってから去って行く。
メリッサはフォロスハートの発展の事を、何より考えているのは分かった。彼女の語ってくれた「開拓者」の理念は、組織として培われたものではなく、フォロスハートに住む者の内側から、自然発生的に沸き上がる思いを持つ──、旧態依然とした常識を廃して、新しい安住の地をそれぞれの方法で求める人々の「思い」を言葉にしたものであった。
それは自分には至極当然の事の様に思われた。ただでさえ物資が足りなくなる不安を、常に抱えている市民にとっては切実な問題なのだ。一部の愚かな権力者が、その事をまったく気にかけていないのは、脳味噌が死んでいるからだろう。
そういった連中には、早い段階で退場してもらうのが一番だ。メリッサもその事について仄めかしていた。敢えて細かな法として明文化するのではなく、「フォロスハートに生まれた者の一員として、公明正大に己と隣人に恥じぬ生き方を」求めるという彼女の言葉は、小さな大地の欠片に乗る、我々人間達に対する四大神の呼び掛けにも似た重さを持っていた。
お読み頂き感謝します。
少し内容が固くなってしまいました。
物資が足りなくなると言いつつこいつら宴会してるじゃねーか! と思われるでしょうが、活躍する旅団にはそれなりに支給される物も多くなると理解してください。
(あとは、レーチェの実家から多少は仕送りがあるので、そのせいもあります)




