楽園創造計画
また小難しい会話をぶち込んでしまいました……笑って許してくださいね。
上部の『方舟大地フォロスハートの物語』から別に書いた『外伝』や登場人物のまとめなどを書いた物を読む事ができます、そちらも読んでいただけると嬉しいです。
そんな話をしていた所へ、ぞろぞろと旅団の面々が集まって来た。今日は全員で休みを取り、昼は宿舎で慰労を兼ねて昼食を取りながら、ちょっとした宴会をしようというのである。
「あら、こちらの方が技術班のメリッサさんですか、お話しは聞いてましてよ。うちの団長が作る物を高く買い取っていらっしゃるとか」
「え、ええ。規定額ですが──。オーディスワイアさんには、いつもお世話になっております」
何やら急に険悪な感じになる二人。俺はそんな事より、魔法剣と魔剣士の現在の所の報告書と、魔法の剣の開発費用を纏めた物をメリッサに渡し、魔法剣と魔剣士についての報告書は、いずれ管理局の方に持って行き、公開するつもりでいた事を話す。
「魔法剣という新しい戦い方の報告書は、旅団員の不断の努力から成り立っているが、これと魔剣士についての報告書で金を取るつもりはない。特にこの新しい技術は結局のところ、『魔法の剣』を作るという前提から成り立っている。──この武器を安定的に作れるようになるかは分からないが、こちらの方の製造に関わる金額を払ってもらえるなら、報告書は無料で構わない」
俺がそう話すとメリッサは首を横に振った。彼女は規定額を受け取って欲しいと言い、それらのお金を使って旅団の基礎を固め、錬金鍛冶師として新しい錬成品を作ったり、錬成指南書を書いて欲しいと依頼してくる。
「あぁ──それな。俺も誰かが書いてくれるだろうと思っていたが、誰も新しい物を書いてくれなくて、俺が書かなきゃならないかと思い始めていたところだ」
「……! そうでしたか。──でしたらすぐにでも指南書の執筆に入って欲しいのですが。フォロスハート全体の、錬金技術の発展の為に」
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「それにしてもさっき言っていた、『異界の大地をこちらの大地と繋げる』──とは、随分思い切った発案だな。俺もまったく考えなかった訳ではないが──可能なのか? 混沌に包まれた状態では、互いの位置関係など分からないはずだろう」
そう尋ねるとメリッサは真剣な面持ちで頷く。
「それは四大神の力を借りる事で、フォロスハートの周辺を混沌の侵食から守っているのと同じ様に、他の大地も何らかの神や精霊が、混沌から大地を守る役目を成しているので、その力を四大神の力で探る事で、フォロスハートと他の大地との距離や、位置関係が分かる事が判明したのです」
「ぉお、凄い事じゃないか。何故それを公表しない?」
「まだ不確定な部分も多いですから──それに、大地の連結計画以外にも『楽園創造計画』には、別の方法も考えられていますので」
「『楽園創造計画』とは大きく出たな」
「その計画自体は随分昔からあるみたいですが、具体的な計画や部署がある訳ではありません。一部の『このままフォロスハートが維持されるだけでは、いずれ限界が来るのでは?』と考えるに至った有志の集まりで語られ出した、仮想の計画としてあるだけです」
俺と彼女は宿舎の庭に設けられたテーブル席で、向かい合いながら話し合った。旅団の仲間は気を利かせて離れた場所で食事を作ったり、時折こちらへやって来て、新しい料理の乗った皿を運んでくれたりする。
庭に新設した野外調理用の炉(鍛冶の炉としても使える仕様)の周りに食卓を囲んで、俺達は肉や野菜を焼いて、お茶や葡萄酒などを飲み食いしながら話し合う。
「仮想の計画ね。それで二つというのは──『接合』と『移住』の二つか?」
「ええ、幸いというか『鉱山と荒野の大地』には外敵となる生物は、狼や熊と言ったものくらいですので、すでに採掘の為に寝泊まりできる建物は建造済みですが、小さな町を作る計画もあります」
「だが痩せた土地では植物は育たない──移住には向かない場所だ」
「そこで私達技術班は痩せた土地でも生きていける、生命力の強い植物や苔を植える事にしました。成果はそれなりに出て、数年後には他の植物も育てる事が出来るようになると、期待されています」
「二つの大地を繋げる『接合』の方はどうなんだ?」
俺が問うと彼女は首を横に振る。
「こちらはなんとも……神の協力もあって、混沌の中でも互いの位置が把握できるようになっただけで、どうやって二つの大地を接近させるかとかはまだ……、それに、この計画には管理局の中にも反対する者が多いので」
「外部に人が流出したら困る連中が居る訳だな」
「はい」




