魔法の剣についての管理局側の対応
ブックマーク、評価大歓迎です。
シリーズ名『方舟大地フォロスハートの物語』から『錬金鍛冶師のその後』の外伝や登場人物などの設定をお読み頂けます。そちらも読んでもらえたら嬉しいです。
数日後に管理局からやって来たのは、技術班のメリッサであった。彼女は一人で「オーディス錬金鍛冶工房」までやって来て、先日は同僚の者が失礼致しましたと頭を下げた。
この場に居たのはユナとメイの二人だけであったが、メイはこのように言った。
「あなたが謝る事じゃない、悪いのは冒険者統率機構とかいう連中」
旅団の宿舎でもレーチェの怒りは収まらなかったようで、旅団の仲間に起きた事を説明しながら、彼女はたびたび苛々と足を踏み鳴らしていたらしい。
「メイの言う通りだ。あんたに謝罪される覚えはない」俺と少女の言葉にメリッサは「感謝します」とだけ答えた。
それで今日は何をしに来たのかと尋ねると、その「旅冒機構」の代わりにあなたと交渉に来たのだと彼女は言った。
「かなり珍しい事ですね。彼らはいつも自分達が旅団や冒険者達を管理、統率できるものと信じて止まない人達ですので」
「ああ、なるほど。頭がおかしいんだな」
俺の率直な意見に眼鏡を弄りながら、笑った口元を隠そうとする。
「おそらくレーチェ・ウィンデリアさんの事を調べて方針を変えたのでしょう。フォロスハートの食料自給の凡そ三割を担う大領主の娘さんが居る旅団と知って、顔を青ざめたのでは?」
……レーチェの一族が相当の金持ちである事は理解していたが、食料の面で大きくフォロスハートの中に位置していたのか。──正に胃袋を掴まれているに等しい。
「そのレーチェが一番怒っていたよ『何なんですのあの態度は‼』とか言って」
レーチェの真似をして笑いを取ろうと思ったのだが、メリッサは苦笑いしただけである。彼女にとっても今回の「交渉」でどれだけの成果を出せるかを上から求められているのだろう。
「それでは『魔法剣』や『魔剣士』についての報告書及び、『魔法の剣』の制作費用と試作品の買い取りについての交渉を──」
俺は彼女の用意してきた言葉を遮ると「旅冒機構」の、あるいは上の方からは、どういった提示が出されたのか聞かせてくれと俺は言った。
「それは……いえ、分かりました。率直にお話し致しましょう」
彼女はそう言って自分が上官に呼び出された時の事を話し始めた。
*****
広い会議室には七名の管理局の代表が居て、自分の直属の上司が隣に立つ状態で私は、「旅冒機構」の代わりに「オーディス錬金鍛冶工房」との、魔法剣や魔剣士に関する情報と、魔法の剣の錬成方法を買い付ける事の交渉を任されたと言われました。
「何故私が交渉の役目を負う事になったのでしょうか、旅団または冒険者の技能に関係する物であれば、『旅冒機構』が責任を負うはずですが」
「彼らはその錬金鍛冶工房で相手の怒りを買ったらしい、その中にはどうやらクラレンスのウィンデリア公の娘が含まれていたとか。これ以上彼らとの関係を悪化させぬよう、彼らの口から出たという『技術班の人間』ならば、交渉を任せられるのではないかという話になったのだ。こちらとしても魔法の剣を作製するに当たって、消費された物資の分も含めた金銭の補償を行う用意があるが、あまり大きな額になっても困る。互いが納得し合える内容になるよう、交渉をしてもらいたいのだ」
メリッサは交渉が専門の職員ではないのだが、彼ら管理局の上層部に位置する「賢者」達の指示に従う事にした。幸い彼らは、オーディス錬金鍛冶工房に譲歩する気持ちを持っているようだったからだ。
「分かりました。今回の交渉役を務めさせて頂きます」
*****
メリッサは大体の事の経緯を話し、管理局の上層部は、魔法の剣の作製に掛かった費用を負担する意志がある事も、包み隠さずに話した。本来なら手の内を相手に晒すなど、交渉の方法としてはあり得ない事だ。
だが彼女は俺が、金銭目的で物を発明している訳ではない事を理解していた。──俺も彼女も、このフォロスハートが四大神の庇護の元で、辛うじて人々が生かされている事を理解しているのだ。そう、彼女は俺と同じ様に、この混沌の中に浮かぶ大地がいずれ危機を迎える時に備えて、様々な事を考え、試し、作り出そうとしているのだ。
「なるほど。しかし、随分正直に話してくれたものだな」
「ええ。あなたが私達と同じく、この世界の行く末を案じている者だと理解しているつもりです」
彼女の言葉に俺は少し訝しむ表情をして「私達?」と問い掛けた。
「ええ、管理局の中にも外にも居る『異界への移住』や、『異界の大地をこちらの大地と連結する』事を考えているような──『楽園と他郷の開拓者』、とでも呼ばれるべき人々の事ですよ」
後半の部分が ***** の間のメリッサの過去回想の部分に引っ張られて三人称風文章になっていた部分を修正しました。




