魔法剣の使い手と魔法の剣
シリーズ名『方舟大地フォロスハートの物語』をタッチして『錬金鍛冶師の冒険のその後』の外伝や登場人物などの設定など別に投稿したものをお読み頂けます。よろしくお願いします。
最近ほかの旅団の冒険者から、「魔法の剣」を作って欲しいと頼まれる事が増えた。どうやら冒険先でたまたま、レーチェやカーリアと共闘する事になった。あるいは彼女らの戦いを見た者達の間で噂になり出したようだ。
レーチェやカーリアらも魔法剣の使い方に慣れてきて、かなりの戦果を上げているのは仲間達からも耳にしていたが。とうとう外部にまで情報が漏れ始めたようだ。
魔法剣の実用に関しては、まだ未解明な点も多いので、誰も彼もが使えるようになるのは早いと考えていた。──それに体系だった物が確立できたら、早いうちに都市管理局の方に、新しい冒険者用の技術開発に成功したと報告するつもりでいる。
未だに新しい錬成指南書も出ないので、俺が書いて出すしかないとも思い始めていたところだ。面倒事を引き受けるのは鬱陶しいが、このままでは錬金術の発展は遅くなる一方だ。いざという時に、錬金術の担い手がポンコツばかりでは、この浮遊する大地という方舟は沈没してしまいかねない。
客には魔法の剣の錬成は困難な物で、費用も法外な値段を要求せざるを得ないので、錬成の方式が確定し、失敗が少なくなるまで待って欲しいと言うような言葉で、彼らの依頼を回避したのである。
「魔法剣は当分『黒き錬金鍛冶の旅団』だけの秘密という訳ですのね」
「まあそう言う事だ──と言っても遅いかもしれないな。結構な数の魔法の剣の錬成依頼が入った事から察するに、広まるのは時間の問題だ」
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俺の予感は的中した。数日後には管理局の人間がやって来て、「魔法剣」と「魔法の剣」の錬成技術に関する情報の公開と、魔法の剣の受け渡しを要求してきたのだ。事実上の接収勧告だ。
「それは横暴ですわ! これはオーディスワイア──うちの団長が苦労して苦労して、何度も何度も失敗して、多くの素材を失っても諦めずに作り続けた結果、やっと完成した物でしてよ⁉ それをいきなりやって来て『渡せ』とはどういう了見ですか!」
レーチェは激昂して管理局の職員に食って掛かった。美女の凄まじい怒りの迫力に怖じけづいて狼狽え出す職員達。
「まあ待てレーチェ。管理局が新しい錬成品を求めるのは、フォロスハート全体の利益の為には仕方が無い事だ。しかしあれだな、技術班の人間はもう少し話せる奴だと思ったが、あんたら──何と言ったか?『旅団・冒険者統率機構』とかいう所は随分、ものの頼み方が分かっていないらしい」
俺は立ち上がる時に、敢えて義足の脚をがちゃりと音を立てて奴らを威圧し、彼らを睨む様に見下ろす。
「いいかね。いきなり現れて上から目線で『○○をよこせ』と言われて、誰が喜んであんたらに協力したいと思うものかね? こちらは魔法の剣の錬成の方式がしっかりとした物になったら、管理局の方に情報を持って行くつもりだったが、あんたらがそんな態度では、こちらのやる気も失せると言うものだ」
そう言って手を振って帰るように示す──。彼らは捨て台詞を吐く事はせずに、大人しく帰って行く事を選択した。多少は頭を使えるらしい。
「何なんですのあの態度は‼」
俺よりもレーチェの方がお怒りのご様子である。今にも「むきぃいいぃぃ──」とか言って地団駄を踏みそうだ。
「落ち着け、取り敢えず奴らが俺と交渉する気があるか、それとも作った物を奪って行くだけの強盗かを見極める。良い機会だと思うがね」
俺はそう言いながら椅子に腰掛け、机の上に置いた小鉢植物園を手にして眺め、心を落ち着かせる事にした。




