精霊感応霊呪印の錬成
『風の道行く先を示し賜え。我に印を、我に兆しを、我に、我等に。普く時の中に惑う者に、標をお与え下さ──ぁあっ』
俺は思わず声を上げた、三度目の失敗だ。砂とも灰とも分からぬ物へと朽ち果てた宝石を見て、怒りに震える。
「誰だ!『三度目の正直』などとほざいた奴は! ぶん殴ってやる‼」
「もったいない……」
俺の後方で見ていたヴィナーが、ぼそっと呟く、じろりと睨むと彼女は──ふいっと顔を背けて鍛冶場の入り口の方を見る。
「くそぅ……俺の風の神への信仰心が足らないせいか? いや、まて、まだ決めつけるな。これは俺の未熟──そう、まだだ、まだおわってなぁぁぁぁぁぃい!」
俺の絶叫を聞いてヴィナーが小声で「壊れた」と呟いたのが聞こえた。
もう一度整理して考える。
風の、そして雷の力を操る魔法の習得を──そこだ。風だけではなく雷への接近が足りなかった。
「雷は風だけの物じゃない。火山の中にも雷は発生している──「火」だ。風と火、この二つへの接近が必要だったのか」
俺は日誌にその事を書き込むと、新たな詠唱を手元の布切れに書き殴る。
よし、これだ。こう呼び掛けるのだ。間違いない!
俺は立ち上がると素材保管庫を開けて、中から柘榴石と火の精霊石と精霊結晶を取り出し、それらと翡翠などを集めて錬成台に配置していく。
『風の行く先、火の中に眠る雷。煙る山に吹き上げる風の如く、我に印を、我に兆しを、我に、我等に。普く時の中に惑う者に、標を示し、迷える者にお慈悲をお与え下さい』
詠唱が終わると錬成台の上で、それぞれの素材が光へと変わり、緑と赤の光が混じり合うと黄色の光が生み出され、中央の柘榴石と翡翠に落下してジリジリと音を立てて放電する。
錬成台の中央には翡翠と柘榴石が消えて、大きな黄玉が出現した。その宝石の中には白、あるいは蒼い刻印が刻まれ、光を反射する度に違った模様を映し出す。
「成功だ! よし。書いておこう」
俺は黄玉を見ながら日誌に詠唱した呪文などを細かく書き記し、黄玉を取り付ける金の指輪の意匠を考えていた。
「そうやって、考えながら作業するんですね。初めから答があるのだとばかり思っていました」
ヴィナーが驚いた様子で口にした。
「人によって呼び掛け──呪文の詠唱が変わる事もある。魔法もそうだ、その使い手の心象が言葉となり、呪文となり、それが魔法を呼び込むのだ。答えは人の違いによって変化するものだ」
彼女は魔法使いの真理の一端に触れた様な表情をして見せ、こう述べた。
「今度は私が『轟雷』やその他の魔法を覚えて、旅団長を驚かせて見せますよ」




