錬金鍛冶師 ー連綿と続く探索者の物語ー
登場人物の多さに比べ個人個人の描写がどうしても少なくなってしまう──
そんな風に思っていたら登場人物のまとめや外伝エピソードをという感想を頂きました。
別視点(登場人物の視点)にした物語を書こうかと思っていたので、渡りに舟というやつですね。──登場人物まとめの発想は無かった──(登場人物や専門用語などの目録の様な物は用意してありますが)
レーチェに魔法の剣を作る前に、エウラやエア、レンの双子にも、軽硬合金製の胸当てや籠手などを作ってやった。
ここ最近になって、金属から加工して武器や防具を作るのが速くなったと感じる。
「俺もまだまだ若いんだな!」
何となくそういう方向で納得しながら、エウラや双子の喜ぶ顔を見て、彼女らを冒険に送り出す。
レーチェに作る魔法の剣は、一度、真紅鉄鋼を消失し、思わず悲鳴を上げるのを飲み込んで、自分の腹を思い切り殴りつけた。
あの真っ赤な鉄鋼の塊が、燃え上がる赤い炎の中でより紅い、真紅の美しい剣の形を取り始めてほっとしたのも束の間。灰色の煙を上げて崩れ落ち、黒い砂や灰に似た物と成り果ててしまったのだ。
あまりの出来事(美しい物が一瞬で醜い物へと朽ち果てる様)に、慟哭の叫びを上げそうになるのは仕方の無い事だと思うが、これを引きずる訳にはいかない。
俺は自分の腹部を立て続けに、ぼこぼこに殴ると炉の前から立ち上がり、鍛冶場の外に出ると、空で輝く赤い炎の塊に向かって「ばかやろ──!」と心の中で叫び、踵を返して鍛冶場に戻り、冷水を飲んで気持ちを落ち着けると、机に置かれた日誌に今起きた事を書き込んでおく。──そうだ、一瞬の油断が招いた結果なのだと書き記し、頬を両手の掌で打って気合いを入れ直し、もう一度炉の前に座り込む。
「しゃぁ──! 来い! コノヤロ──‼」
口に出して活を入れると、真紅鉄鋼を溶かすところからやり直す。──そうしてやっと完成に漕ぎ着けたのである。
失敗を引きずれば、何度も同じ失敗を重ねる事になる。それは愚か者のする事であって、錬金鍛冶師のする事では無い。
錬金鍛冶師とは冷徹な、正に、鋼鉄の如き意志を持つ探索者でなければならないのだ。自分が優れた鍛冶師などと少しでも自惚れようものなら、あっと言う間にその牙城は崩れ去り、自ら築き上げた城の瓦礫に押し潰されて死んでしまう──
「我々は火の申し子、炎の使い手。そして炎と共に生き、死ぬ者なり。鉄と石と火の中で真理を探究する哲学者、それが我ら焔の鍛冶師なり」
出来上がった魔法の剣を磨き、研ぎながら錬金鍛冶師の訓辞を述べる。
誰が言い出したかも分からぬ古くからフォロスハートにある言葉だが、如何にも真理を顕している言葉だと思う。塩と硫黄が出れば言う事は何も無い、そんな訓辞だ。まあ今更それらを付け足そうとも思わないが。
この物語の外伝と登場人物などの設定をまとめた物を別に投稿しました。
上部にあるシリーズ名『方舟大地フォロスハートの物語』をタッチして読んで頂けるとありがたいです。




