剣と魔法と錬金術と
それから数日間は皆が皆、己の役割を果たしながら、さらに深い訓練や研究に入っていた。
カーリアを含めた戦士達は冒険の後には、互いの反省点や連携について話し合ったりしてから訓練に臨んで行った。
こちらも連日、仲間達にも秘密裏に新しい武器の錬成を続けていた。──多くの失敗(金額にすると約一万ルキ分の物が消失した計算になる)を重ねて、ようやく叩き台となる物が完成すると、それを「鑑定」で調査し、小さな短刀から次に剣を形作る。
短刀で実験したのは素材が少なくて済むからだ。これからは剣を作る分の金属の延べ棒を使って剣を作りながら、それに錬成を行っていく。
この新しい分野の、魔法の剣の開発は──昔ながらの、剣を作り出す行程と同時に錬成をするやり方が合っているのだ。そして試作品が完成した(二回の失敗の後に完成した)。魔法の剣を見て思ったのは、異なる魔法の理を持つ「魔剣」と共通する部分があるという事だ。
魔剣には刀身に流れる魔力の回路があったが、今思うとそれは魔法の呪文を映し出していたと思われた。
不規則に見えた刀身の煌めきの中に、呪文が刻印されていると考えついた時、それをこの魔法の剣に応用するにはどうしたらいいのかを考え、実験し、成功を導き出す為に、十本を越える短刀を無駄にしてしまった。
新たに造る剣は、やや刀身を短くし、幅広の物を造る事にした。カーリアの身体に合わせての意味もあるが、おそらくこの魔法の剣が完成すれば刀身の長さは、さして意味が無いだろうと考えた為だ。
刀身に浮かび上がる呪文の刻印を思い浮かべながら、新たなる剣の作成に入った。鋼鉄を生み出す行程で次々に魔力結晶と各種の精霊結晶、そして霊晶石をその中に溶かし込んで行き、赤々と燃える鋼鉄を、柄と刀身部分を一体化した形に整え、さらに硬化結晶と不銹結晶を加えて完成まで少しも集中を切らさない。
高温に満ちた鍛冶場に鎚を打つ音が響き、青や赤の火花が散り──それが次第に弱くなる。
水の中に焼けた剣を入れると「じゅうぅぅぅぅー」と音を立てて、水蒸気を激しく噴き上げる。
剣を水から引き上げた時に、レーチェとユナが鍛冶場に入って来た。その後ろからメイやエウラ達が姿を見せる。
「剣を……作っていたんですか?」
ユナの言葉に頷きながら綿織物で汗を拭う。これから仕上げに掛かるところだと告げ。彼女らに、これから訓練かと聞くと、レクトが訓練に来る最後の日だと言って、探索先で手に入れた素材を置いて行く。
──作った魔法の剣の表面を磨き、刃を研ぎ終わると俺は、レクトの為に作っておいた短剣を持って宿舎の方に向かう。
宿舎では今日休みを取っていたカーリアやメイ、カムイ達がレクトと共に訓練をしているところだった。カーリアは最近随分と雰囲気が変わってきた。最初の頃の薄暗い表情は全然見せなくなり、口調も近頃は、普通の女の子と合わせた様な喋り方になってきた。
彼女が意識してそうしてきたと言うよりは、むしろ今までの変わった喋り方が、作られた彼女だったのではないだろうか。
訓練中のカーリアは真剣な表情で、木剣を持つレクトに立ち向かって行く。ここのところ多少は剣に重さが乗るようになってきたと聞いてはいたが、確かに足の運びや踏み込みも、剣士らしい足捌きになっていた。
そろそろ焔日が弱まりながら沈んでいく時間だ。──夜には焔日の代わりに青い炎の「月火」が登り、辺りを青く染めるのだ。
訓練が終わると、レクトは早々に帰らなければならないと言った。
「今日は夜に仲間の結婚祝いを行うので」
そう言った少年に感謝を伝えて、聖銀鉄鋼で作った短剣を手渡した。
「予備の短い武器を欲しいと言っていただろう。これを訓練指導の対価として受け取ってくれ」
彼は別に対価はいらないと口にしたが、俺はそれを強引に受け取らせた。
「消滅せずに、そこそこいい強化錬成も行えたからな。別に売っても構わないが、良ければ使ってくれ」
「聖銀鉄鋼に強化錬成したんですか……さすがですね。では、ありがたく使わせてもらいます」
彼はそう言うとカーリアにも声を掛けてから、宿舎を出て道を駆けて行った。




