別旅団の指導を請う
ある日少年剣士レクトが鍛冶場に現れた。籠手を新調したいので素材──牙象の大きな牙の一部を持って来て、これで造って欲しいと彼は言う。
「捻れ溝の入った牙……牙象王の牙か。さすがだな、その若さで牙象王を倒すとは」
「いえ、僕だけの力では倒せません。心強い仲間が居てくれたお陰です」
少年は何とも模範的な答えを返してくれたが、心からそう思っている事は伝わった。レクトは他にも素材を出して具体的な強化錬成について希望を述べ、二日後までに仕上げると決めた。
「ところでレクトは誰に剣を教わった? できれば剣の教えを請いたいのだが」
「剣技の師匠ですか? うちの──『蒼髪の天女旅団』のウィーゼンさんが一番の剣の師でしょうね。……でも教えを受けるのはもう無理ですね、僕が指導を受けていた頃でも、相当のお年を召されていましたから、今は旅団の指導員の立場も引退されて隠居しているので」
いったいどういう事ですか? とレクトは尋ねてきた。──俺はうちの旅団に入ったばかりのど素人の新人に、剣の扱い方を一から教えて欲しいのだと正直に話す。
「? オーディスワイアさんは『金色狼の旅団』でもかなりの剣の手練れだったと聞いた覚えがあるのですが」
引退した冒険者の事など話題にもしない冒険者ばかりだというのに、いったいどこから仕入れてきたのやら……
「ぁ──まあ、昔はな。しかし俺の剣は完全に我流なんだ、戦士としての基礎を──それも精神的な強さを鍛える方法を、俺は知らんのだ」
何しろ俺は初めから強かったからな、と嘯くと、少年剣士は「なるほど」と少し笑って考える素振りをし、「なら自分で良ければ多少はお教えする事ができるかもしれません」と言ってくれた。
他の旅団の若手剣士を借りるのは気が引けるが、冒険後の一時間程度なら空き時間を作れますと言ってくれたのだ。俺は彼に感謝して、今日の午後にでも冒険から帰って来るカーリアを鍛えてくれと頼んだ。
「少し手荒くなりますが、構いませんか?」
レクトは短期間で剣士としての基礎を教え込む方が、後々の成長に繋がるのでそうした方がいいと、師であるウィーゼンから学んだらしい。
「大怪我させたりしなければ、たぶん問題ない」
俺はそう言って、午後になったらここに来るよう少年に言った。




