「混沌研究都市」の大地
ラホルス神によれば、その近代的な建物のある大地には、高層建造物が建ち並ぶ場所があり、大きな都市を形作っているらしい。
その中の大きな建物の中に巨大な機械があり、そこには映像鏡に似た大きな画面や白板があり、テーブルの上に置かれた紙などから、そこで混沌の研究が行われていた事が判明したのだ。
「しかもそこに住んでいた者達は、どうやら混沌の始まり、混沌の発生源を突き止めようとしていたようなんだ」
鳥の姿をしたラホルスが両方の翼を広げ、自分が発見した物について話し始めた。
「そこにあった物を全て理解した訳じゃない。しかし私には分かった。その大地で研究目標にしていたのが、混沌の発生源の探索である事が。
彼らは何故、混沌の中心部を探っていたのか? それを知る為にも、あの大地への転移門を開かなくてはならない」
「それに、オーディスワイア。おまえも知りたいじゃろう。その大地が本当におまえの居た世界とは違うのかを」
「そしてもう一つ、オーディスワイアにやってもらいたい事がある。それは神騎兵の強化だ。それも『巨大混沌蟲』を倒す為の新技術の開発をだ」
風の神の言葉に俺は首を傾げた。
「巨大混沌蟲を……? その大地といったいなんの関係があるんですか?」
「それは、あの大地の研究室にあった巨大な結晶体に秘密がある。──あの大地の研究者は、その結晶体を念入りに調べていたようなんだ。
これは推測だが、その結晶体と混沌の中心部はなんらかの繋がりを持っているんじゃないかと、彼らは考えていたんじゃないだろうか」
「……? ますます分からない。その結晶体と巨大混沌蟲に──」
どんな接点があるんですか、そう尋ねようとした時、俺の中で閃いたものがあった。ラホルスが言わんとしている事がなんなのか、朧気に理解できた。
「まさか、巨大混沌蟲の出現する場所とは──」
「そう、あの大地の研究者が調べていたのは、あの巨大な蟲の体内から得られる核。巨体の心臓部にある巨大な結晶体。そこから彼らは、巨大混沌蟲が発生する場所の特定方法を探ろうとしていたようなんだ」
未知の大地に住んでいた人々は、混沌を研究する為にどのような方法でそれを成していたのだろうか。
聞く限りでは科学力が進んだ大地のようだが、実際に行ってみないと判らない。
「いや、待ってください。つまりその大地の人々はあの巨大混沌蟲を倒すだけの力、技術力を持っていたという事ですよね? ならその大地には、今でも人が住んでいるのですか?」
混沌に打ち勝つ力があるなら、生存している確率は高そうだが。
「残念ながらそれは分からなかった。少なくとも建物の中には人の姿は確認できなかった。けれども私も大地の全てを調べられた訳じゃない。可能性はあるだろう」
「いや、あの大地には間違いなくなんらかの生命がおるはずじゃ。我にはそれが感じられた。あの大地には生命の火がまだ残っている。
だがそれは人間のものか、それとも混沌の影響を受けたものかは判断できぬ」
火の神ミーナヴァルズが断言したのを耳にしていると、急に眠気が襲ってきて、俺は大きな岩の上に腰掛けながら前屈みになった。
「もう時間か」
「よいかオーディスワイア。その大地への転移門が開いたら、おまえは仲間と共に調査に行くのじゃ。危険な混沌の魔物も居るかもしれん。用心してその大地を探索し、彼の大地に残された研究資料をフォロスハートに持ち帰るんじゃ」
「今はゆっくり休んでくれ。しかしまた忙しくなるぞ。オーディスワイア、君の献身に期待する」
二柱の神の言葉を聞きながら、俺の意識は緩やかに遠のいていく。
遠くからミーナヴァルズの声が聴こえた気がした。
それはこんな言葉だったと思う。
「おまえはこれを期に、冒険者としての道に戻れ。そして──」
あの女神も、地の神と同じような想いを持っていたのだろうか? そんな事を考えながら俺の意識は、沼の中に沈むように眠りの中に落ちて行った。
──俺は何故かテーブル席に着き、料理を振る舞われているところだった。
白い皿を目の前に出された俺はぎょっとした。
それは毒々しい色をした大きな芋虫を丸々調理した一皿で、それを運んで来た何者かは口元に気色悪い笑みを浮かべ、「当店の自慢の一皿、混沌蟲の丸焼きでございます」と告げたのだった。
「んなモン食えるかぁァ!」
俺は絶叫しながら目を覚ました。
あまりに恐怖し、それと同時に怒りを感じながらの目覚めだった。
夢を見てそんな感情が沸き起こるのは、生まれて初めての経験だ。
「くっそ!」
神々も無茶を言う。
危険かどうかも判らない、新たに開く転移門先に調査に行けと? しかも巨大混沌蟲の核がある研究施設を見つけ出し、そこにある情報を持ち帰れと言うのだ。
「俺がこんなに忙しくしているのは、あの女神の所為だっていうのに!」
そこへさらに新しい仕事を押しつけてくるとは。
思わず「ウキィ──ッ」と叫び出しそうになる。
しかしそんな感情はすぐに萎んでいった。
六秒規定というやつだ。
変な夢の所為で少し感情的になり過ぎていた。
寝台に腰掛けながら義足を装着する。そうしながら改めて、精神世界で二柱の神から頼まれた事柄に思いを馳せるのだった。




