神殿からの報せ
鍛冶屋から宿舎に戻ると、玄関の門の上でライムが待っていた。
「もう日が沈むぞ」
また変な場所で日向ぼっこをしているライム。白い母猫は目を閉じ、香箱座りをしたまま眠っていたようだ。
俺が声を掛けてやると目を開けて、ほとんど聞き取れない小さな鳴き声で返事をする。
玄関を潜るとライムは地面に降りて、宿舎に向かって歩き出した。
庭で訓練をしていた団員達は、運動後の柔軟を始めており、宿舎に戻ろうとしていた。
俺がライムと共に宿舎に入ると、階段に腰掛けているエウラが子猫を膝に乗せて待っていた。
ライムは子供達の側に行くと、一匹の子猫の毛繕いをして、ぺろぺろと頭を舐め始める。
「団長に手紙が届いていますよ。──それと明日、私はシャルファーに行って来ますね」
「何かあったのか」
手紙を受け取った俺は、曇った顔をしながら子猫を撫でているエウラに尋ねた。
「ええ……その、私にも手紙がきて、叔父が亡くなったそうなので──葬儀に行って来ます」
「そうか」
長くはないと知っていたが、彼は自分の納得のいく最期を迎えられただろうか。自らの学び得た技術を弟子に受け継がす為の時間。それが彼に残されていたのならいいのだが。
「その手紙」と、エウラは俺に手紙の裏を見るように示す。
「神殿からのもののようですよ」
封の裏側を見ると、確かに火の神殿から届いた物だという印が捺されていた。
神殿から個人に書簡が届くなど普通はない事だ。
「何かあったのかな」
俺は自室に戻って開封しようと思った。
靴を脱いでいると、フレイマから戻って来たメイとユナとフレジアの三人と鉢合わせた。
「ただいま」
「戻りました」
「おう、ご苦労さん。フレイマの拠点に寝具とかを揃えるのは大変だったろう」
そう声を掛けるとフレジアは「平気です」と口にした。
「メイが向こうの商店で顔が利いたので、商品を運ぶのは困りませんでした」
「昔はいろんな店に顔を出してたから。ひさしぶりに戻ったから、みんな驚いてたよ」
メイが「朱き陽炎の旅団」を抜けてミスランの旅団に入団した事は、多くの人間が知っていたようだ。さすがに「小さな鬼神」という二つ名まで持っていた少女。市民からも認知されていたらしい。
「食料保管用の木箱や樽を購入したりはしましたが、できれば洗濯機などを遠征拠点に用意していただけると……」
「洗濯機か……そうだな、時間があったら鍛冶屋で作ってみよう」
そんな会話を交わして部屋に戻ると、火の神殿から届けられた手紙に目を通す。
それは火の女神ミーナヴァルズからの手紙だった。
{オーディスワイアへ。
まずはおまえの旅団がフレイマに拠点を置いた事を嬉しく思う。
そしておまえの活躍を祈ろう。
さて、実は込み入った話がある。
手紙では不安なので『夢』で話そうと考えている。
ではまた。
ミーナヴァルズ}
なんとも簡潔な便りだ。
彼女が大きく『夢』という漢字を書いてきた。
そう、それはなんとも固い感じで書かれた「夢」という字。初めて書いたのだろう他の文字よりも明らかに大きく書かれたそれは、俺の記憶から引き出した漢字だったのだ。
不慣れな為に「夕」の部分が、下に横棒の無い「日」のような形をしていた。
(左右対称で、まるで記号みたいだ)
夢──つまり精神世界で会おう、という意味だろう。
込み入った話がなんなのか気になるが、相手が夢の中で会いに来るというなら、夜になるまでこちらがどうこうするものでもない。
俺は手紙をしまうと食堂へ向かった。




