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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

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しばしの日常の中で

 数日の休養。俺はその数日をのんびりと過ごした。

 ずいぶん久し振りになんにもせずに、だらだらと一日を過ごしていると、急に自分の体力や体の固さが気になってきた。

「そういえば股割りも出来なくなってたし……」

 以前はもうちょい足を広げても平気だったのに。──急に不安に駆られた。



 俺は庭の倉庫から厚手の敷物(マット)を取り出すと、その上で開脚したり、前転や後転といった運動を始めた。


「何やってんですか」

 冒険に向かおうとしていたカムイが呆れた様子で話し掛けてきた。

 一人でごろごろと転がったり、起き上がったりしているのを見て、おかしくなったと思われたようだ。


「運動してるんだよ。見りゃ分かるだろう」

「それはそうなんですが」

 前に転がったり後ろに転がるだけの動作がなんの役に立つんだ、といった感じで見ていた仲間達。彼らにさっさと冒険に出るよう言って、俺は運動を続けた。

 そのうち俺は倒立から背中をつけて転がる動きをしたり、側転をしてみたり、いくつかの運動を済ませて敷物の上に横になった。


「何をやっているんですの」

 レーチェがライムを抱えて庭に出て来た。彼女も数日休みを取って、のんびりしているはずだ。

「まあ、ちょっとした運動を」

 レーチェの腕からライムが飛び降り、俺の胸の上に乗って来ると、そこで丸まってしまう。

「あっついから乗らないで欲しいんだが」

 ライムは聞く耳を持たない。そのまま手で目をおおって眠ろうとしている。


「せっかく休日を取ったのに、運動してるなんて」

「運動しないと体がなまってしまう。それに、忙しくてろくに運動も出来なかったからさ」

「そんなに忙しいならなおのこと休んでいただかないと」

「はは……それもそうか」

 白猫を撫でながら空を見上げる。み切った青空の下で猫を抱きながら横になり、隣には美女……

 レーチェも敷物の上に腰掛けると、猫を撫でる俺の手に、手を重ねてきた。


「大丈夫ですわ」

 と、ひとことつぶやく彼女。

「何が?」

「とにかく、大丈夫ですから」

 彼女はそう断言し、俺の手を強く握った。


 春の心地良い日差しを浴びて、俺は目を閉じる。

 愛する人の温もりと、世界の暖かな日の光を感じながら。

「大丈夫」という言葉。

 その一言で俺は安心しきって眠りにいた。

 そんなに眠かった訳でもないのに。

 この安心感は、満足感でもあるように思う。

 これ以上の充足感を求めてもしょうがない。


 猫を抱え、愛する人に寄りわれながら日向ひなたぼっこをする。

 それだけで十分だった。

 市民として生きるには、この優しい日常が続く事が何よりのものだ。



 なのに、俺の中には別の側面もあって、それが俺の心を別の方向へとき動かそうとしている。

 冒険に出て、戦い続けたあの日の記憶。

 仲間と苦楽を共にした日々。

 それもまた価値ある思い出となっていた。


 もしかすると俺の中には、愛する者(レーチェ)と共に冒険に出たいという、そんな気持ちが残っているのかもしれない。


 俺は夢みるように、レーチェと肩を並べて冒険に出ている姿を思い浮かべていた。

 彼女とならどんな戦いにも挑める。そんな強い気持ちが沸き起こるのを感じながら。

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