しばしの日常の中で
数日の休養。俺はその数日をのんびりと過ごした。
ずいぶん久し振りになんにもせずに、だらだらと一日を過ごしていると、急に自分の体力や体の固さが気になってきた。
「そういえば股割りも出来なくなってたし……」
以前はもうちょい足を広げても平気だったのに。──急に不安に駆られた。
俺は庭の倉庫から厚手の敷物を取り出すと、その上で開脚したり、前転や後転といった運動を始めた。
「何やってんですか」
冒険に向かおうとしていたカムイが呆れた様子で話し掛けてきた。
一人でごろごろと転がったり、起き上がったりしているのを見て、おかしくなったと思われたようだ。
「運動してるんだよ。見りゃ分かるだろう」
「それはそうなんですが」
前に転がったり後ろに転がるだけの動作がなんの役に立つんだ、といった感じで見ていた仲間達。彼らにさっさと冒険に出るよう言って、俺は運動を続けた。
そのうち俺は倒立から背中をつけて転がる動きをしたり、側転をしてみたり、いくつかの運動を済ませて敷物の上に横になった。
「何をやっているんですの」
レーチェがライムを抱えて庭に出て来た。彼女も数日休みを取って、のんびりしているはずだ。
「まあ、ちょっとした運動を」
レーチェの腕からライムが飛び降り、俺の胸の上に乗って来ると、そこで丸まってしまう。
「あっついから乗らないで欲しいんだが」
ライムは聞く耳を持たない。そのまま手で目を覆って眠ろうとしている。
「せっかく休日を取ったのに、運動してるなんて」
「運動しないと体が鈍ってしまう。それに、忙しくて碌に運動も出来なかったからさ」
「そんなに忙しいなら尚のこと休んでいただかないと」
「はは……それもそうか」
白猫を撫でながら空を見上げる。澄み切った青空の下で猫を抱きながら横になり、隣には美女……
レーチェも敷物の上に腰掛けると、猫を撫でる俺の手に、手を重ねてきた。
「大丈夫ですわ」
と、ひとこと呟く彼女。
「何が?」
「とにかく、大丈夫ですから」
彼女はそう断言し、俺の手を強く握った。
春の心地良い日差しを浴びて、俺は目を閉じる。
愛する人の温もりと、世界の暖かな日の光を感じながら。
「大丈夫」という言葉。
その一言で俺は安心しきって眠りに就いた。
そんなに眠かった訳でもないのに。
この安心感は、満足感でもあるように思う。
これ以上の充足感を求めてもしょうがない。
猫を抱え、愛する人に寄り添われながら日向ぼっこをする。
それだけで十分だった。
市民として生きるには、この優しい日常が続く事が何よりのものだ。
なのに、俺の中には別の側面もあって、それが俺の心を別の方向へと衝き動かそうとしている。
冒険に出て、戦い続けたあの日の記憶。
仲間と苦楽を共にした日々。
それもまた価値ある思い出となっていた。
もしかすると俺の中には、愛する者と共に冒険に出たいという、そんな気持ちが残っているのかもしれない。
俺は夢みるように、レーチェと肩を並べて冒険に出ている姿を思い浮かべていた。
彼女とならどんな戦いにも挑める。そんな強い気持ちが沸き起こるのを感じながら。




