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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

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冒険と錬金鍛冶師

何気ない日常。それが大事。

 鍛冶仕事を早めに終えて宿舎に戻ろうとすると、拠点から運搬業者の男が馬に荷車を引かせて出て来た。彼は会釈えしゃくするとそのまま大通りに向かって行ってしまう。

 拠点に入ると小さな木箱が宿舎の入り口横に置かれていて、その木箱にはキャスティとアウシェーヴィアの名前が書かれていた。

「二人の荷物か」

 恐らくパールラクーンで所有していた物だろう。



 その荷物はその場に残して俺は執務室に向かった。

 神騎兵シュルトヴァーレンの新しい武器の事や、巨大芋虫アルバデロウスを撃退する方法など、いくつもの事柄について考えなければならなかったが、その前に旅団の収支報告をまとめなければならなかった。


 ……いつからこんなにも忙しく働き続ける事になってしまったのか。

 それはたぶん、旅団を立ち上げるよう火の神ミーナヴァルズに言われた時からだろう。

 冒険をしていた頃も忙しいと言えば忙しかったが、休みはゆっくりと過ごしたり、あるいは錬金鍛冶の研究をしたりと、割と自由気ままにしていた。


「ふぅ」

 なんだか疲れた……

 俺は気づかぬうちに、机に倒れ込むようにして意識を失った。




 なんだか頬に柔らかい物が当たっていて、それが膨らんだり縮んだりしているのを感じる。

 そして誰かが筆記している静かな音が聞こえていた。

「ああ……寝ていたか」

 目を覚ますと、顔の横にはライムが寄り添っていて、彼女も寝息を立てて丸まっていた。


「起きましたの」

 前の席に座って作業しているのはレーチェだった。彼女はちらりとこちらを見たが、すぐに手元の紙を見て帳面ノートに記帳している。

「ああ、悪い。数字を眺めていたら眠くなってきたんだ」

「構いませんわ。経理の作業はわたくしの担当ですし」

 俺は自分の手を枕にして突っ伏していた為、手の甲に赤い跡が付いていた。

 ライムは俺の腕と顔の間に体を入れ、まだ寝息を立てている。


「あなたからいただいた指輪の効果で、盾の扱いが簡単になりましたわ」

「防御しても重さが半減した?」

「それに盾で白銀騎士を打ちえた時、かなりの衝撃を与えたようで、後方に下がって膝を突いていましたわ」

「それは何より」

「お陰で苦労せずに目的を達成し、早めに冒険を切り上げて戻って来られました」

 盾による打撃の衝撃効果が増加し、麻痺まひ効果が発生しやすくなったのだ。本来は盾に付与する物だが、装飾品にも付与させる事が出来る。


「それよりもあなた、働き過ぎではありません?」

「そうかも」

 俺はそう言いながら「ふわぁ」と欠伸あくびをする。

「少し休養を取った方がよろしいかもしれませんわね」

「う──ん、しかし、徒弟に魔法の武器を造る手伝いをしたり、管理局の依頼もある。それに神騎兵の事も……」

 そう言うと、彼女は「はぁ」と溜め息を吐き、あきらめたように言った。


「まあ、あなたの力を頼りたい人が多いのは理解しますが、あまり無理をしませんように。リトキスさんもおっしゃっていましたわよ。団長の顔色が優れないので、休養を取るよう伝えてくれ、と」

「そうかぁ……」

 俺は白い猫の上下する体に手を添えながら、窓の外を見る。

 日差しはあかみ掛かり、夜が迫ってきていた。そろそろ食事の時間だろうか。


「終わりましたわ」

「え、食事が?」

「違います、帳簿の記入が終わったんですわ」

 そっちか、俺はそうつぶやきながら眉間を軽くつまむ。

 レーチェは心配そうな顔をして「本当に大丈夫ですの」と言ってくる。

「そうだな……たまにはのんびりするよ。レーチェも訓練や冒険には行かず、休みを取れよ」

「分かっていますわ」

 彼女はそう言うと静かに立ち上がった。

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