キャスティ、アウシェーヴィアの帰還
ラクシャリオから馬車でボロッコスまで戻る事になった。
俺はミリスリアに伝言を頼み、小獣人の女王メルゼヴィアに礼を言うように言葉を残して、馬車に乗り込んだ。
キャスティは終始寂しそうな顔をしていたが、馬車の周りにはかなりの数のエルニスが集まって来て、キャスティとアウシェーヴィアを見送っていた。
小獣人らの歓声が上がり、手を振る小さな彼女達に手を振り返す二人。
窓から彼女らの姿が見えなくなるまで、キャスティはずっと手を振り続けていた。
「永遠の別れじゃないんだから」
と、アウシェも冷たく言う。半ば呆れている様子だ。
キャスティはまだメソメソしている。
俺は溜め息を吐き、ともかくレーチェには良い報告が出来ると考え、ほっとしていた。それにこの二人が旅団に加わるのは、大きな戦力強化になるのは間違いない。
「今後はパールラクーンでの活動も増える可能性もある。それにうちの副団長は、伸縮肌着の商談でミリスリアとも個人的な付き合いがあるらしいから。まら会う機会もあるだろ」
俺はキャスを慰めるつもりで話してやった。ところが──
「あぁ~~、わたしの楽園がぁ~~」
離れていくラクシャリオを窓越しに見送りながら、キャスティは悲痛な叫び声を上げた。
俺とアウシェは同時に、今日一番の溜め息を吐き出した。
もはや落ち込んでいるキャスティを慰める気持ちも湧かず、俺達は馬車に揺られてボロッコスまで来ると、荷物を手にしてすぐさま転移門へ続く階段を上って行った。
転移門の前まで来るとキャスティを振り返り、アウシェーヴィアがこんな事を言った。
「いつまでもメソメソしない。友人との別れなんて、今までいくらもあったでしょ。──それも死に別れて。それに比べたら、距離が離れただけなんだから、また会いに行けばいいだけでしょ」
「それはそうだけど」
「私が言いたいのはさ、これから新しい旅団に参加するんだから、新しい気持ちで、新たな生活を始めようって事」
そう言うと彼女はさっさと転移門を潜り抜けて行ってしまう。
「この門を潜ったら、お前は旅団の仲間入りだ。何よりフォロスハートの為に戦う冒険者として、お前の働きに期待する」
そう告げて白い光の中を通過すると、キャスティもすぐに後を追って、フォロスハートまで帰って来た。
「ただいま」
キャスティは顰めっ面で言った。
俺とアウシェは頷き、転移門広場から歩き出した。
俺とアウシェーヴィアとキャスティの三人が旅団の拠点に着いたのは、たぶん正午過ぎくらいの時間だろう。
このまま宿舎に行くのもいいが、二人にはまず自分の家に戻って、必要な物を取って来るよう伝えた。
エンフィーナに家があるアウシェだが、ほとんど帰っていないらしい。
キャスティは根無し草の生活をしているようだ。彼女についての話はあまり聞かないが、確か孤児院の出だったという話だった。金色狼の旅団を抜けてからも、借家を借りたりしながら気ままに生活していたようだ。
「じゃ午後にまた」
二人はそう言って大通りに向かって歩いて行った。どうやらキャスティの着替えの一部が、アウシェーヴィアの家に保管されているらしい。それを取りに行ったのだ。
俺は宿舎に戻ると食事を取り、庭で訓練している団員達をちょっとだけ見守り、鍛冶屋に向かった。
鍛冶屋に入るなりケベルが近寄って来て、魔法の剣作製の依頼が入ったと言ってきた。
「まだ素材などは受け取っていませんが、地属性の魔法の大剣を造って欲しいらしく、詳しい説明を聞いて帰って行きました」
「そうか」
「剣の形状などは書き記しておきました」
「分かった」
指示書を見ると、大剣の幅や長さなどが書かれていた。
「地属性の魔法の武器という事なので、真紅鉄鋼か、クロム鉄鋼などが素材としていいと伝えると、素材と共に用意すると言って帰って行きました」
「ふ──ん、『マシェナマーデァ旅団』……? 精霊魔女の旅団って事か? 聞いた事のない旅団だな」
「シャルファーに本拠地がある旅団ですが……知らなかったんですか?」
「うん? そうなのか。いや、全ての旅団の情報を把握している訳じゃないからなぁ」
「まぁそれもそうですね。依頼をしてきたのは大柄な女性でしたが、旅団の名前の通り、女性しかいないような旅団なんでしょうか?」
「どうなんだろうな」
俺は返事をしながら指示書を読み、ダリルの様な女の姿を想像していた。




