キャスティの涙
「え、誰の事? 私の知っている相手?」
「私たちとしては、あなたが結婚しているとしても構わないのですが」
「ともかく! 俺にその気はありません。ご理解ください」
やや強い口調になって言ってしまった。
それを聞いたミリスリアの頭の上にある耳が力無く、へにゃっと垂れ、気の毒なほど意気消沈していた。
「残念です……」
彼女の落胆の様子にはさすがに胸が痛んだが、こればっかりは仕方がない。
その後も俺とアウシェーヴィア、ミリスリアの三人でいくつかの話をした。
「魔法銀という物が採掘されるようになったらしいですね」
「ええ……、猫獣人と共同で採掘作業を行っています。私たちには機動鎧や採掘用の螺旋削岩機がありますので」
こうした採掘の利権についても、中央神殿の意向が働いているとの事だった。なるべくどちらの種族にも納得のいくように、話し合いが為されたそうだ。
これを機に、ふたつの種族が多少は仲良くなっていけばいいのだが……
「ただいま~」と、玄関からキャスティが帰って来た声がした。
ツカツカと足音が聴こえてきて、アウシェは立ち上がると、客間にキャスティを呼び入れた。
「え! オーディスが⁉」
そんな驚きの声を上げて、キャスティが客間に入って来た。
「お──、ほんとにオーディスじゃん。元気そうでなにより」
「おう、二人ともありがとうな。魔法薬にも感謝してる」
改めて二人に言うと、彼女らは黙って頷いた。
「まあ、こうして話が出来るようになって安心したよミリスリアさんたちも、オーディスの意識が戻らないって、気落ちしてたからさ~」
こうして俺達は犬亜人との戦い後に起きた事などについて話をした。
アウシェーヴィアとキャスティの二人はパールラクーンに残って、冒険者としての活動をしていたらしい。──その時間の多くをラクシャリオを中心に活動していたようだが。
「ま、それはともかく……。帰るぞ、キャスティ」
「は?」
「フォロスハートに、か・え・る・ぞ」
「いやだ! い・や・だ!」
「駄々をこねない」と、アウシェが厳しい口調で言う。
「そうですねぇ……」
と言い出したのはミリスリアだった。
「私たちもキャスティさんの事は好きですが。けど──キャスティさんは女性なので、その、申し上げにくいのですが、あまりここに居られても困ると言うか……」
「えぇえぇえっ⁉」
「キャスティさんが私たちエルニスを好いてくださるのはありがたいのです。けれど、キャスティさんとの間には、子を生せませんから」
「そんなぁ~~⁉」
キャスティはあまりの衝撃に、長椅子から滑り落ちるように、がっくりと膝を突いた。
追い打ちを掛けるように「キャスティさんが男性だったらよかったのに」と、ぼそりと呟くミリスリア。
それを聞いたキャスティは体を震わせ、わんわんと泣き出してしまった。
「どんだけエルニス好きなんだよ……」
可愛いもの好きとは言え、これはもはや変人水準だろう。今すぐ連れ帰り、真っ当な人生の筋道に戻してやるべきかもしれない。
「フォロスハートに居ても、こっちに遊びに来られるだろ。そんな悲観するな。ともかく──アウシェーヴィアは俺の旅団に入るって言ってるからな。お前はどうする?」
「ふぇ?」
涙を拭いながら、なんとかこちらを見た。
「俺達の『金獅子の錬金鍛冶旅団』は、ミスランでもかなりの勢力の旅団となっている。そこにお前達も加えたいと副団長も望んでいる。キャスティはどこか所属したい旅団がある訳じゃないんだろ?」
「それはそうらけろ……。(ズズッ)アウシェは入団するの?」
「うん。いつかはどこかの旅団に入ろうって言ってたじゃない。オーディスが団長を始めたって言うなら、そこに入ってもいいでしょ」
「────うん、わかった。わたしも入る」
泣きべそを掻きながら、キャスティは頷くのだった。
ミリスリアは泣いている魔法使いの背中をさすりながらも立ち上がらせ、部屋に荷物を取りに行かせた。
「ほんとの事を言うと、キャスティさんが去るのは寂しいですが、仕方がありませんね」
通路をとぼとぼと歩いて行くキャスティの背中を見送りながら、ミリスリアはそう呟いた。友人の寂しそうな背中を見送るその小さな背中もまた、寂しげなものだった。
ミリスリアさんもオーディスがキャスティを連れ戻す気なのを知って、あえて厳しい言い方をしたのかも……「男性だったらよかったのに」と言われてしまったキャス。撃沈です。




