シュナフ・エディンで旧知の仲間と
シュナフ・エディンの首都ラクシャリオまでそれほど時間は掛からなかった。
途中で護衛が大型の狼に似た魔物と戦う為に一旦停車したくらいで、すぐに馬車は移動を始め、一時間も掛からずに目的地まで辿り着いた。
小獣人達の街は相変わらず小さな建物の壁が、色彩豊かに彩られていた。
俺は馬車を降りると、門の前で小獣人の門番に話をして、この街に居る人間に会いに来たのだと伝えた。
「アウシェーヴィア、キャスティのお二人ですか。それならこちらです」
人間の身長に合わせて作られた建物が建ち並ぶ区画に案内された俺は、一軒の建物の前まで来た。
どうやらキャスティらは仮住まいをしているらしい。
建物のドア横には小さな階段が付いていて、それを案内役の小獣人が上がって行き、壁に付いている呼び鈴らしい釦を押した。
するとしばらくして、家の中からアウシェーヴィアが姿を現した。
「来てくれたか」
「ああ、久し振り……でもないか?」
「まあ、上がって。体調はもう平気?」
「うん。心配掛けたな。魔法薬もありがとうな」
彼女は片方の眉を上げて「まあね」とでもいう顔をする。
門から送ってくれた小獣人に別れを告げ、俺は家の中に入った。
そこは小獣人にとっては規格外に大きな廊下や部屋で構成されていたが、俺にはやや圧迫感を覚える大きさで、手を伸ばすと天井に触れる事が出来るくらいだった。
「お前ね、あんな手紙じゃ何が起きているか分からんぞ。いったい何があったんだ?」
「え? そうかな。必要な事は書いたつもりだけど」
「ったく、──まあいい。それで、キャスティはどうした」
「キャスティはいま出掛けてていないよ」
そう言いながら客間に通された俺は、アウシェーヴィアの煎れた緑茶を口にした。こちらの緑茶はほんのりとした甘味があり、飲み口が非常に柔らかく、うっかりするとがばがばと飲んでしまいそうだ。
「それで──、お前はうちの旅団に入るつもりなのか」
「ああ、リゼミラさんも入っているなら、もちろん私も入るよ」
さも当たり前のように言う。
「そうか。ならいい。キャスティも入るかな?」
「たぶん入るでしょ。他に予定もないし」
そう言いつつ茶を飲むアウシェ。
「で、なんでキャスティを連れ出せ、なんて事になってるんだ」
「知ってるでしょ。キャスティが小獣人に入れ込んでいる事」
「それはまあ……って、まさかそれが理由で、ここに残るって言い出してるって事か?」
そのまさかよ、と言った風に渋面で頷くアウシェ。
あのバカ、本当にバカだったんだな。そう思いはするが、口にはしない。
「……分かった。ともかくお前はフォロスハートに帰る支度をしておけ」
「もう準備はしてある。キャスティの荷物も纏めさせた」
「ならもう引きずってでも連れ帰ればいいだろうが」
「それはそうなんだけど」
と話していると、誰かが呼び鈴を鳴らした。廊下の方から小さな鐘の鳴る音が聴こえてくる。
「ちょっと出てくる」とアウシェは言って立ち上がり、玄関に向かって行った。
俺はキャスティを引きずって、馬車に無理矢理乗せるところまで想像し、さっさと二人を旅団宿舎まで連れ帰ろうと心に決めた。
しばらくするとアウシェが戻って来て、俺に客だと言って、ミリスリアを客間に通して来た。
「お久し振りです」
彼女はぺこりと頭を下げ、アウシェに促されて席に着く。
「お元気そうでなによりです」
「ご心配おかけしました。滋養強壮薬のお陰で、ご覧の通り元気になりました」
「それは良かったです」
ミリスリアはにこにこと愛らしい笑みを浮かべている。
「オーディスワイア殿は、私たちにとっても大切な人ですから」
「そ、そうですか?」
そう言いながら嫌な予感めいたものを感じ、お茶を口にする。
「ええ、何しろあなたは優れた男性で、私たちに子供を授けてくれる方ですから」
ぶふぅっ、とミリスリアの横に座っていたアウシェが吹き出した。
「そんな事、キャスの前では絶対に言わないでくださいね」
「あら、何故でしょう」
「オーディスに小さなエルニスがその……、そんな事をする、なんてあいつが聞いたら、オーディスの丸焼きができあがってしまう」
そんな恐ろしい事を呟くアウシェ。
「マジで勘弁してくれよ……。俺にはそんな事をする気はありませんからねミリスリアさん。前にも言いましたが、──それに俺にはもう、結婚の約束を交わした人が居るので」




