ボロッコスからアーカムへ
転移門の利用申請をして、俺はパールラクーンと繋ぐ転移門を潜った。
丘の上にある転移門の側にあった、小さな関所の前を通過し、以前と変わらぬ様子の町を見ながら階段を下ってボロッコスの町に向かった。──関所とか、新しく設置したんだな。などと考えながら階段を慎重に下りる。
町の門を潜ると、以前来た時と同じような風景だったが、どこか雰囲気が違うと感じた。
「そうか、人が多いんだ」
猫獣人以外にも、フォロスハートの人間や、数は少ないが小獣人の姿もちらほらと見られた。
商店の並ぶ道には多くの人が買い物に来ていて、以前よりも活気づいているのは明らかだった。
フォロスハートとの交流を増やす為に転移門の封印を解き、交流し易い環境を整えたお陰で、物資の流入だけでなく、人的な交流も拡大したようだ。
「結構な事だな」
ナンティルの姉が経営している店に顔を出そうかとも思ったが、今日はなるべく早く目的を達成してフォロスハートに帰るつもりだ。
まずは中央神殿都市アーカムに行き、女神に感謝状を届けるべく、神殿に顔を出そうと考えていたのだ。
「謁見する事はないだろう」
女神にそうほいほい会えるはずはなく、神殿の神官にでも手紙を渡し、命を救ってくれた事に対する感謝を改めて伝えようと手紙を用意してきた。
完治報告だけでも手紙で伝えようとの想いがあり、手紙に認めたのだった。
「荷車か馬車を探そう」
入って来たのとは別の門に向かい、馬車が止まっている停留所を見つけると、中央神殿都市行きの馬車に相乗りする事にした。
護衛付きの馬車は危険な生物などに遭遇する事もなく、無事にアーカムに到着した。
神殿都市にも人の姿があった。
ここにもフォロスハートの冒険者が来ているのだ。
馬車は神殿の近くまで街中を走り抜け、俺達乗客はそこで降ろされた。
神殿の前にはやはり大勢の人が行き来し、礼拝する目的で訪れている猫獣人などが、神殿の中へ次々に入って行く。
俺も神殿の中に向かうと、神官の姿を探し、用件を伝える事にした。
「突然申し訳ない。おれ──私はオーディスワイアという者ですが」
そう言いながら背負い袋から手紙を取り出そうとしていると、相手の猫獣人の女神官は声を上げた。
「あなたの事は知っていますにゃ! いえ、存じ上げています。──『生命の杖』を作製した錬金鍛冶師は、女神アヴロラ様にとっても大切な客人であると」
感情を抑えて、口調まで変えた神官が深々と頭を下げる。
「あ、どうも……」
俺はなんとなく気後れしながら手紙を差し出すと、それを女神に届けて欲しいと訴えた。
「女神には命を助けていただき、感謝していると伝えましたが、無事に完治して仕事にも復帰しましたので、その旨を伝えるべく手紙を用意した次第です」
「わかりました。必ず女神様にお届けいたします」
手紙を受け取った女神官は、しばらく俺の体調を気遣ったり、最近の仕事の内容について聞きたがり、俺が鍛冶場での作業についていくつか説明すると、彼女は何度も頷いて「それでは確かに健康になられたのですね」と納得した様子だ。
「それで、これからどちらに?」
「ああ、これからシュナフ・エディンに行かなければならないのです。なのでこの辺で……」
と、別れを告げようとすると、彼女は俺を引き留めた。
「お待ちください。であれば、馬車をご用意いたしましょう。──こちらへ」
「え」
神官はそこそこの地位に居る人物か、神殿の事務作業に関わる重要な役職に就いている人物だったようだ。
彼女について行くと、神殿の裏手側に案内され、そこから馬車が数台置かれた建物に案内された。
「オーディスワイア様をシュナフ・エディンまで送り届けてください」
そう御者に伝えると、護衛や馬車の用意が速やかにされ、俺はあれよあれよと言う間に客車に乗り込んでいたのだった。
護衛の騎馬はそれほど華美な出で立ちではないが、馬車はそこそこ豪華な作りで、俺は御者に急かされるようにして、アーカムからシュナフ・エディンに向かう事になったのである。




