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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

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日常に戻って

 翌朝、寝台ベッドの上で目が覚めると、胸の辺りが熱く感じられた。

 昨晩のレーチェにした婚約や、口づけの記憶がそうさせたのではなく、胸の上に乗っていたライムの所為せいだった。

 白い猫は俺の上で前足を畳んで香箱座りしており、目を閉じてぐっすりと眠りこけている。

 そんな彼女の背中を撫で、おでこを指で掻いてやると、足を解いて背伸びをした。

「おはようさん」

 そう声を掛けると白猫は大きな欠伸あくびをして、頭を俺の頬にこすりつけてきた。




 昨晩は夜道を自転車で帰りながら、レーチェと今後について話をした。

 まずはアウシェーヴィアらをシュナフ・エディンから連れ戻し、旅団に参加する意志を確認する。


 レーチェは金色狼の旅団でも大きな貢献をしていた二人の加入を望んでいて、リゼミラの弟子と言えるアウシェの剣技。そして火力にいてはアディーディンクに勝るとも劣らない実力を持っていた、魔法使いのキャスティが加入すれば、名実ともに一流旅団としての地位を得られると考えているようだ。


 彼女は「金獅子の錬金鍛冶旅団」を大きくさせたいと望んでいるようだが、ミスランで一番の旅団にでもしたいのだろうか。そこまで具体的な話は出なかったが、彼女の熱意は冒険者のそれと言うよりは、副団長としての想いが強いように感じる。




「よっくらしょ」

 俺がそう声を出して体の向きを変えると、ライムはひらりと寝台の横に降りて、じろりと俺を睨んだ。そして「ゥニャァ──」と一声上げる。その鳴き声はまるで「爺臭い」とでも言っているかのようだった。


「うっさいわ」

 俺がライムの頭を撫でようとすると、彼女はその手をかわしてドアの前に行き、早く開けるようこちらを見つめる。

「はいはい」

 俺は義足を履いてドアを開けてやった。

 ドアを開けると白猫はさっと廊下に出て行って、玄関の方に向かって行った。俺もその後を追うようにして玄関に向かい、水やりや神々への祈り、簡単な柔軟体操をして、白く輝く焔火ほむらびの光を浴びて体を温めた。


 朝食前の運動をしに来た団員達が挨拶しながら外に出て来るのとは反対に、俺は宿舎の中に戻り、食堂に向かう。

 席に着くと調理場の方から漂ってくる魚卵を焼く匂いを感じ、心の中で舌打ちする。

 塩漬けのしょっぱい感じと、あの固くなった魚卵のつぶつぶ、外側の膜の感触が嫌いなのだ。しかも物によっては魚臭く、それは腐敗臭に似た嫌な臭いになる。


 けれど何故かは知らないが、旅団員の中には魚卵を好んで食べたがる連中が居るのだった。

(そりゃ栄養はあるかもしれんが)

 鱈子たらこもそう言えばあまり好きではなかった。

 鱈子パスタならなんとか食える、というくらいで、明太子も苦手だったのを思い出す。

「朝から気が重いぜ」

 昨晩はあんなにも心躍る気分だったのに。




 すると食堂の入り口から声がした。

「団長。また子猫達が順番待ちをしていますよ」

 その声の主はユナだった。

「うん?」

 振り返って床を見下ろすと、確かに子猫達が勢揃せいぞろいして、椅子の後ろに控えている。どうやら魚卵を俺に代わって処理するつもりのようだ。

 子猫に食べさせるのはいいが、あまり塩分を与え過ぎてはよくない。


「困ったもんだな」

 俺がそう漏らすと、ユナとメイが「おはようございます」と挨拶しながら席に着いた。

 俺は欠伸混じりに返事をし、ユナが俺を「団長」と呼ぶようになったなと、なんとなしに思うのだった。


 朝食が運ばれて来ると、俺は子猫達に魚卵を与え、自分達の餌を食べに行けと、それぞれの小さな尻を叩いてやる。

 体をテーブルに向けると、前に座るレーチェが何やら冷たい目で睨んでいた。

「な、なんだよ」

「好き嫌いはよくありませんわね」

 俺はぎくりとしつつ、そんな事はないとうそぶいた。



 朝食後にいくつかの準備をし、念の為に腰から下げる剣もたずさえて、パールラクーンに向かう事にした。あちらの大地では危険な生物が、人々の生活圏にも出現するのだ。


「では行って来る」

 背負い袋(リュック)を肩に掛け、宿舎を早めに出る。玄関ではレーチェが見送ってくれていた。

「くれぐれも気をつけて」

「分かってる。なるべく早く帰るようにするよ」

 どこか冷ややかなレーチェの視線を浴びながら、俺は宿舎を後にした。

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