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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

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海辺でレーチェと

 青く光を放つ波がなくなった後も、俺達は砂浜に腰掛け、暗い海を眺めていた。

 互いの手を握ったまま、砂の上に座って波の音を聴いているだけ。それだけで俺の心は幸福感で満たされていた。

 こんな気持ちになった事はない。

 俺はふわふわとした、言いようのない高揚を感じながらも、なんとか本来の自分で居続けようとした。

 でないと何か、思いのたけが振り切れてしまいそうだったから。


「そろそろ帰りましょうか?」

「うん……。いや、もう少し」

 レーチェの言葉に曖昧あいまいな応えを返し、黙って彼女の手を強く握った。

 それだけで想いが通じたらしく、彼女は黙って俺の手を握り返す。

 ただこうして触れ合っているだけの時間が、何よりも価値があるもののように思える。

 愛する者との時間の共有。たったそれだけで満たされ、何一つ欠けるところのない、完全な幸福を享受しているようにすら思えた。


 あの加○雄三の──「しあわせだなぁ、ぼくは君といる時が一番しあわせなんだ」を思い出し、さすがにそれを口にする勇気も純粋さもないと思って、俺は失笑した。


「何がおかしかったんですの?」

「いや、自分が割と単純だと知った事がおもしろくて」

 レーチェは俺の言葉に、愛らしく首をかしげた。

「複雑な事情を抱えたあなたが単純なように思えたなら、それは何よりですわ」

 などとレーチェが小難しい言い回しをして、俺を混乱させる。


 確かに俺には、誰にも気軽には話せない事情がある。

 けどそれはもう、どうでもよかった。


 こちらの世界で生きる理由は、あちら(地球)に居た時よりも、ずっと大きなものになっていたから。

 フォロスハートの為に働き、愛する者の為に生きる。それで十分だった。他には何もいらないとさえ思えた。

 この世界で、愛する者と共に生きる。

 それ以上の幸福など考えられない。

 その為にも────


「明日からまた、頑張らないとな」

「なんですか、急に」

 いぶかしむレーチェに笑い掛け、俺は立ち上がった。

「そろそろ帰ろうか」

 彼女も立ち上がり、黙ってうなずく。

 その間も俺達の手が離れる事はなかった。



 西海の大地からフォロスハートの大地に戻ると、自転車を置いた場所まで手を繋いだまま歩く。

「そうだ。明日はパールラクーンの小獣人エルニスの国へ行こうと思うんだ」

「シュナフ・エディンに? なんでですの」

 彼女は少し怒ったように言う。

「いやそれが、アウシェーヴィアから手紙が届いてな。キャスティと一緒にラクシャリオに居るから迎えに来て欲しい、なんて書いてあったんだ」

「どういう事ですの」

「それは行ってみないと分からん。何しろあいつは、肝心な理由について全く書いてないから。だが──」


 俺は一呼吸おいて、自転車の鍵を取り出しながら言った。

「アウシェーヴィアは、俺達の旅団に入ってもいいと考えているらしいぞ。キャスティもそう考えるかは分からないが、たぶんアウシェが入るなら、あいつも入団するだろう」

「それならすぐにシュナフ・エディンに行かないといけませんわね」

 レーチェはすぐに食いついた。まるで節操のない魚が、鼻先に垂らされた疑似餌ルアーに食いつくみたいに。


「けど──」と、レーチェの表情がまた曇る。

「あちらに行くなら気をつけてくださいね。男性がラクシャリオに来るとなったら、彼女エルニスらは、あなたを引き留めようとするでしょうから」

「あ、ああ……気をつけるよ」

 レーチェのマジな声色トーンに冷や汗を掻きそうになる。


「だいぶ前に伸縮肌着ネクタートの商談でミリスリアさんと話しましたが、彼女はあなたを夫にと望んでいるような事まで言っていたので」

「それはまあ、彼女ら流の礼儀みたいなものかも?」

「あなたに恋人は居るのかとか、あなたを好いている人は居るのかとか、細かいところまで尋ねられたものです。

 ──彼女らの事情はある程度、知識として理解していますが、その……同族間で男性を共有するような文化があるようなので、女としてはあまり、彼女らの近くには行かせたくないですわね」


 婚約まで取り付けた男が翌日には別の女(それも複数の)に寝取られた。なんて事になったら、たぶんレーチェなら──その男の○○を切断してしまうんじゃないか。そんな風に考え、思わずキ○タマが縮みあがる。


「せ、せいぜい気をつける」

 そう返答しながら、俺は急に喉が渇いてきたのを理解した。

ラブロマンスぽい雰囲気からの~


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