海辺でレーチェと
青く光を放つ波がなくなった後も、俺達は砂浜に腰掛け、暗い海を眺めていた。
互いの手を握ったまま、砂の上に座って波の音を聴いているだけ。それだけで俺の心は幸福感で満たされていた。
こんな気持ちになった事はない。
俺はふわふわとした、言いようのない高揚を感じながらも、なんとか本来の自分で居続けようとした。
でないと何か、思いの丈が振り切れてしまいそうだったから。
「そろそろ帰りましょうか?」
「うん……。いや、もう少し」
レーチェの言葉に曖昧な応えを返し、黙って彼女の手を強く握った。
それだけで想いが通じたらしく、彼女は黙って俺の手を握り返す。
ただこうして触れ合っているだけの時間が、何よりも価値があるもののように思える。
愛する者との時間の共有。たったそれだけで満たされ、何一つ欠けるところのない、完全な幸福を享受しているようにすら思えた。
あの加○雄三の──「しあわせだなぁ、ぼくは君といる時が一番しあわせなんだ」を思い出し、さすがにそれを口にする勇気も純粋さもないと思って、俺は失笑した。
「何がおかしかったんですの?」
「いや、自分が割と単純だと知った事がおもしろくて」
レーチェは俺の言葉に、愛らしく首を傾げた。
「複雑な事情を抱えたあなたが単純なように思えたなら、それは何よりですわ」
などとレーチェが小難しい言い回しをして、俺を混乱させる。
確かに俺には、誰にも気軽には話せない事情がある。
けどそれはもう、どうでもよかった。
こちらの世界で生きる理由は、あちら(地球)に居た時よりも、ずっと大きなものになっていたから。
フォロスハートの為に働き、愛する者の為に生きる。それで十分だった。他には何もいらないとさえ思えた。
この世界で、愛する者と共に生きる。
それ以上の幸福など考えられない。
その為にも────
「明日からまた、頑張らないとな」
「なんですか、急に」
訝しむレーチェに笑い掛け、俺は立ち上がった。
「そろそろ帰ろうか」
彼女も立ち上がり、黙って頷く。
その間も俺達の手が離れる事はなかった。
西海の大地からフォロスハートの大地に戻ると、自転車を置いた場所まで手を繋いだまま歩く。
「そうだ。明日はパールラクーンの小獣人の国へ行こうと思うんだ」
「シュナフ・エディンに? なんでですの」
彼女は少し怒ったように言う。
「いやそれが、アウシェーヴィアから手紙が届いてな。キャスティと一緒にラクシャリオに居るから迎えに来て欲しい、なんて書いてあったんだ」
「どういう事ですの」
「それは行ってみないと分からん。何しろあいつは、肝心な理由について全く書いてないから。だが──」
俺は一呼吸おいて、自転車の鍵を取り出しながら言った。
「アウシェーヴィアは、俺達の旅団に入ってもいいと考えているらしいぞ。キャスティもそう考えるかは分からないが、たぶんアウシェが入るなら、あいつも入団するだろう」
「それならすぐにシュナフ・エディンに行かないといけませんわね」
レーチェはすぐに食いついた。まるで節操のない魚が、鼻先に垂らされた疑似餌に食いつくみたいに。
「けど──」と、レーチェの表情がまた曇る。
「あちらに行くなら気をつけてくださいね。男性がラクシャリオに来るとなったら、彼女らは、あなたを引き留めようとするでしょうから」
「あ、ああ……気をつけるよ」
レーチェのマジな声色に冷や汗を掻きそうになる。
「だいぶ前に伸縮肌着の商談でミリスリアさんと話しましたが、彼女はあなたを夫にと望んでいるような事まで言っていたので」
「それはまあ、彼女ら流の礼儀みたいなものかも?」
「あなたに恋人は居るのかとか、あなたを好いている人は居るのかとか、細かいところまで尋ねられたものです。
──彼女らの事情はある程度、知識として理解していますが、その……同族間で男性を共有するような文化があるようなので、女としてはあまり、彼女らの近くには行かせたくないですわね」
婚約まで取り付けた男が翌日には別の女(それも複数の)に寝取られた。なんて事になったら、たぶんレーチェなら──その男の○○を切断してしまうんじゃないか。そんな風に考え、思わずキ○タマが縮みあがる。
「せ、せいぜい気をつける」
そう返答しながら、俺は急に喉が渇いてきたのを理解した。
ラブロマンスぽい雰囲気からの~




