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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

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輝く波打ち際で

 しばらく祈っていると異変が起きた。

「見て!」

 後ろからレーチェの驚く声が聞こえ、俺は閉じていた目を開けて暗い海の方を見た。

 それは次第に陸地に近づき、真っ青に光り輝く波となって、何度も砂浜に押し寄せて来た。

「きれい……」

 そうつぶやいたレーチェの元に戻ると、俺も青い輝きを見つめた。


 夜の闇に沈む海が、波立つ部分だけが青く光り輝き、神秘的な光を生み出しながら現れては消え、現れては消えてゆく。


「これがあなたの見せたかったものですの?」

「ああ。神エウシュアットア様にお願いして、この光景を見せてくれるよう頼んでおいたんだ」

「──とても綺麗ですわね」

「そうだな」

 静かに打ち寄せる光り輝く波を見つめながら、俺達はずっとその光景を目に焼き付けていた。

 なんとも幻想的で美しい光景。それはこの世の物とは思えない、神秘的な世界への入り口を垣間かいま見ているかのような気分だ。

 俺は波の音を聞きながらふところに手を入れ、持って来た物を手に取った。


「それと、これを」

「なんですの?」

「手を出してくれ」

 彼女が差し出した手から手袋を外すと、代わりに魔法銀ミルディールで作った指輪を薬指にめた。


「……これは?」

「俺の居た世界では婚約の証に、婚約指輪を贈る風習が──あるとか、ないとか」

「どっちなんですの⁉ というか、婚約──⁉」

 思わず大声でつっこみを入れながら、慌てふためくレーチェ。

「こちらにはない風習だろうが、うん。──まあ、この指輪には二つの意味がある」

「二つ?」

「この指輪には、お前を冒険で守るいくつもの力が付与されている。だからまあ、婚約指輪ではなくて、冒険用の装飾品だよ。

 けどまあ、なんだ……。もしレーチェが俺と結婚する気があるのなら、それを婚約指輪として受け取ってくれても構わない、というか、受け取って欲しい──」

 後半は気後れして声が小さくなってしまった。


「そうですか──では、冒険で使わせてもらいますわ」

「……そうか」

 俺は思わず肩を落としてしまう。

「け、結婚の申し出はまだ早いと思いますが、結婚の約束、という事でしたら……、お受け致しますわ」

 彼女は薬指に嵌められた指輪を見ながら、はっきりとそう口にした。

 月明かりに照らされて、彼女の頬が朱くなっているのが見えた。心なしかその表情には喜びが表れていて、俺は心の中でぐっと拳を握るような気持ちになっていた。


「そうか! ──良かった」

「綺麗な指輪ですわね。波の光を受けている所為せいでしょうか。青く光っているみたいですわ」

 彼女は嬉しそうに微笑みながら、青い光をにじませる指輪を見つめている。

「それは魔法銀で作った物だからだよ。元々青みがかった色をした金属で、魔法との相性がいいんだ。その金属はパールラクーンの山岳地帯にある鉱山で採掘した物らしい」

「パールラクーンの──魔法銀ですか。あの犬亜人ババルドとの戦争を経て、そうした収穫が得られたという訳ですわね」

 俺は頷きつつ、彼女の仕草を見つめていた。


 顔の前に手を近づけて指輪を見ていた彼女の目が、こちらを見た。薄紫色の瞳に外界の様々な色が溶け込み、嬉しそうに笑う彼女の表情をどこか神秘的に見せている。



 綺麗だ──



 そう思った時には、俺は彼女の体を抱き寄せていた。


「ぁっ……」

 レーチェは抵抗する事なく抱擁ほうようを受け入れ、俺の体に腕を回してきた。彼女の体温と、柔らかな感触を腕の中に感じる。

 波の音がやけに遠くから聴こえてくる。

 鼓動が速くなり、互いの体温が強く結びつくような感覚が伝わる。


 レーチェの顎をそっと持ち上げると、彼女は一瞬、驚いたような顔をしたが、ほんのりと頬を紅く染めて、目を閉じた。



 そこで初めて俺達は、互いの唇の感触を知った──

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