輝く波打ち際で
しばらく祈っていると異変が起きた。
「見て!」
後ろからレーチェの驚く声が聞こえ、俺は閉じていた目を開けて暗い海の方を見た。
それは次第に陸地に近づき、真っ青に光り輝く波となって、何度も砂浜に押し寄せて来た。
「きれい……」
そう呟いたレーチェの元に戻ると、俺も青い輝きを見つめた。
夜の闇に沈む海が、波立つ部分だけが青く光り輝き、神秘的な光を生み出しながら現れては消え、現れては消えてゆく。
「これがあなたの見せたかったものですの?」
「ああ。神エウシュアットア様にお願いして、この光景を見せてくれるよう頼んでおいたんだ」
「──とても綺麗ですわね」
「そうだな」
静かに打ち寄せる光り輝く波を見つめながら、俺達はずっとその光景を目に焼き付けていた。
なんとも幻想的で美しい光景。それはこの世の物とは思えない、神秘的な世界への入り口を垣間見ているかのような気分だ。
俺は波の音を聞きながら懐に手を入れ、持って来た物を手に取った。
「それと、これを」
「なんですの?」
「手を出してくれ」
彼女が差し出した手から手袋を外すと、代わりに魔法銀で作った指輪を薬指に嵌めた。
「……これは?」
「俺の居た世界では婚約の証に、婚約指輪を贈る風習が──あるとか、ないとか」
「どっちなんですの⁉ というか、婚約──⁉」
思わず大声でつっこみを入れながら、慌てふためくレーチェ。
「こちらにはない風習だろうが、うん。──まあ、この指輪には二つの意味がある」
「二つ?」
「この指輪には、お前を冒険で守るいくつもの力が付与されている。だからまあ、婚約指輪ではなくて、冒険用の装飾品だよ。
けどまあ、なんだ……。もしレーチェが俺と結婚する気があるのなら、それを婚約指輪として受け取ってくれても構わない、というか、受け取って欲しい──」
後半は気後れして声が小さくなってしまった。
「そうですか──では、冒険で使わせてもらいますわ」
「……そうか」
俺は思わず肩を落としてしまう。
「け、結婚の申し出はまだ早いと思いますが、結婚の約束、という事でしたら……、お受け致しますわ」
彼女は薬指に嵌められた指輪を見ながら、はっきりとそう口にした。
月明かりに照らされて、彼女の頬が朱くなっているのが見えた。心なしかその表情には喜びが表れていて、俺は心の中でぐっと拳を握るような気持ちになっていた。
「そうか! ──良かった」
「綺麗な指輪ですわね。波の光を受けている所為でしょうか。青く光っているみたいですわ」
彼女は嬉しそうに微笑みながら、青い光を滲ませる指輪を見つめている。
「それは魔法銀で作った物だからだよ。元々青みがかった色をした金属で、魔法との相性がいいんだ。その金属はパールラクーンの山岳地帯にある鉱山で採掘した物らしい」
「パールラクーンの──魔法銀ですか。あの犬亜人との戦争を経て、そうした収穫が得られたという訳ですわね」
俺は頷きつつ、彼女の仕草を見つめていた。
顔の前に手を近づけて指輪を見ていた彼女の目が、こちらを見た。薄紫色の瞳に外界の様々な色が溶け込み、嬉しそうに笑う彼女の表情をどこか神秘的に見せている。
綺麗だ──
そう思った時には、俺は彼女の体を抱き寄せていた。
「ぁっ……」
レーチェは抵抗する事なく抱擁を受け入れ、俺の体に腕を回してきた。彼女の体温と、柔らかな感触を腕の中に感じる。
波の音がやけに遠くから聴こえてくる。
鼓動が速くなり、互いの体温が強く結びつくような感覚が伝わる。
レーチェの顎をそっと持ち上げると、彼女は一瞬、驚いたような顔をしたが、ほんのりと頬を紅く染めて、目を閉じた。
そこで初めて俺達は、互いの唇の感触を知った──




