レーチェと夜の予定を
宿舎に戻ると早めに風呂場で汗を流した。
金鎚を振り続けた事で腕にかすかな疲労が残っていたが、問題はない。訓練で腕を鍛える代わりだと考える事にした。
風呂場から出て部屋に戻ろうとすると、多くの仲間が冒険から戻って来たところだった。
メイはレンネルらと冒険に出ていたようで、玄関前で子猫達と戯れている。
「あ、戻りました」
レンネルが俺の顔を見て頭を下げてくる。
「うん。どこに行っていたんだ?」
「『巨大な塔のある山間』に行っていました。蜥蜴族の王を狙って行ったんです。──遭遇できませんでしたけど」
「そうか、残念だったな。だがそう悪い事ばかりじゃないさ。ちょっと待ってろ」
俺は自室に戻ると、魔法の剣を手にして玄関前まで戻った。
玄関前にはレンネルとメイだけが残っていて、その足下で子猫がじゃれついていた。母猫は離れた場所から見守っているかと思ったら、床にごろんと寝転がって欠伸をしていた。
俺はついでに持って来た新しい猫の餌をメイに手渡し、子猫に与えるように言う。
「ほら、これ」
そう言ってレンネルに剣を手渡す。
「え? これはなんですか?」
「魔法の剣だよ。風と水の属性に相性のいい」
「ええっ、くれるんですか?」
「タダとは言っていない。これからはその剣分の素材を入手してきてもらうぞ」
「うへぇ……」
などと力ない溜め息を漏らしているが、新たな武器を手にして高揚しているようだった。口元はにこにこと笑いを堪えられずにいる。
「ぉお……スゴそう」
「かっこいいね」
メイも一匹の子猫のお腹を撫でながら、剣を見上げて感想を口にした。
少女は子猫に餌をあげようと瓶の蓋を開け、匙を手にした。
レンネルは剣を抜いて上に持ち上げながら、その刃を光に当てているような仕草をしている。
「不思議な青い光を反射してます」
「その金属はパールラクーンで見つかった『魔法銀』だよ。魔法との相性が良く、錬成強化するにも都合がいい」
「へえ! 新しい金属ですか!」
「貴重な金属だからな。無くすなよ」
「無くしませんよ。大事にします」
レンネルが剣を鞘に納めると、子猫に餌をあげていたメイが声を上げる。
「わっ、わっ!」
「なんだ、どうした」
一匹だけに与えていた餌に、二匹の子猫も駆け寄って来て餌の取り合いになったのだ。
そこへ匂いに釣られたライムも加わり、小瓶に入れた餌を匙ですくってくれと、四匹の猫がメイの周りに群がっていた。
「すごい集まってきた~!」
メイは嬉しそうだ。
一匹一匹に匙ですくった餌を与えようとするが、皆が一斉に匙に頭を寄せて、収拾がつかない。
「大人気だな。さすが俺」
「え、団長が作った餌なの?」
「そうだよ。猫獣人もまっしぐらな食いつきの良さ」
餌を載せる皿に四ヶ所に分けて置いてやると、それぞれが顔を寄せ合って食べ始めた。
「あらあら、なんだか賑やかですわね」
玄関からレーチェが現れ、子猫達の様子を見て言った。
「おう、お疲れさん」
「なんて事はありませんわ」
そう言いながら紙を一枚差し出してきた。管理局に売った素材などの一覧だ。──どうやら「金銀鉱山と濃霧の湿地」に行っていたらしく、かなりの金鉱石を売ったようだ。
「多少は金鉱石を持ち帰った方が良かったでしょうか?」
「ああ……まあ、少しずつでいいけどな」
分かりましたわ、とでも言うような表情を見せ、武器や防具を置きに二階へ上がろうとするレーチェ。
「ああ待て待て、今日の夜、時間を空けておいてくれるか」
「夜に?」
「ちょっと見せたいものがあってな、出かけよう」
レンネルやメイは猫を相手にしながら、こちらの言葉に耳を傾けているようだったが、特に何かを言ってくる事はなかった。
「……そうですか。分かりましたわ」
彼女は無表情で返すと、そそくさと二階へ上がって行ったのだった。




