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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

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自転車は楽し

 鍛冶場での作業を終え、宿舎に自転車を乗り入れると、訓練の合間に休憩していた仲間に見つかり、それはなんだといった具合で取り囲まれてしまった。


「自転車だよ。管理局で作った物が道を走っているのを見なかったのか?」

「自転車? そんなのが走っているのを見た事ありませんが」

「ああそうか、冒険に行く時間帯は走っていないのかもしれないな」

 手紙や荷物が届けられるのは、正午過ぎが多い。その時間帯は冒険者が転移門の向こうで活動しているのだ。

「乗ってみてもいいですか?」

「いいけど、壊すなよ」


 自転車の乗り方を簡単に教え、立てて置けるよう脚止め(スタンド)の使い方も教え、俺は宿舎の中へと入って行った。

 ふところには魔法銀ディルミールを加工して作った小物を忍ばせて。

 そっと自室に戻ると、机の引き出しにそれをしまった。



 まだ夕食まで時間があるな……

 とか考えながらドアを開けてふと、気がついた。


「あ、やべえ。レンネルの魔法の剣を造る予定だったのに」

 ナンティルが鍛冶屋に来て、自転車の話を出された為に、魔法の剣を造るのを忘れてしまった。

 さらにナンティルが持って来た新しい鉱物の魔法銀を目にした事で、別の用件を思い出してしまったのだった。


「……まあ、こういう日もあるさ」

 レンネルには黙っておこう。

 明日こそ魔法の剣を造ってやろうと決意しつつ、自室の前で考え込んでしまった。

「魔法銀で作った()()を渡すのは……もう少し先かな。──いや、早い方がいい」

 そんなつぶやきと共に歩き出した。


 玄関前まで戻ると、外から何やら騒がしい声がする。

 自転車を乗っている連中が次は自分が乗りたい、などと言い争っているようだ。


「仲良くやれ、仲良く……」

「うにゃぁ」

 足下でライムが鳴き声を上げる。

 どうやら上手く乗りこなせる奴と、乗りこなせない奴が出たようだ。

 乗り物と言えば馬車くらいしかないのだ。自分でいで物を動かすといった事を経験した事がない彼らには、さぞ目新しい物に映っているだろう。


 俺は白い猫を抱き上げようとしてかがんだが、ライムはさっと離れて行って、こちらを振り向いた。

「にゃぁ」と小さく鳴くと、巣箱に近づき壁の爪研ぎをガリガリと引っき始めた。


「遊び場が無いから欲求不満なのかな?」

 子猫達も三匹で取っ組み合いを始め、二匹のじゃれ合いからはぶれてしまった一匹が、寂しそうにこちらを見ていた。

「あらら」

 俺は子猫に近づくと子猫を抱き上げ、一緒に食堂に行く事にした。




 食堂の席に着き、子猫を膝に乗せて考え込んでいると、いつの間にか食堂に人が集まって来ていた。

 膝の上に乗っていた子猫は丸まって、静かに寝息を立てて眠っている。


「何を悩んでいましたの」

「オーディス団長、外のあれ……」

 目の前に座ったレーチェと、隣に座ったアリスシアが同時に話し掛けてきた。

「ん? ああ……、え──と」

 アリスシアがどうぞ、という感じでレーチェに先をゆずろうとしたが、レーチェは首を振った。


「外のあれとは、あの乗り物の事ですわね? なんでも管理局が運搬用に開発したそうですが」

「けど管理局が運用している物とは違って、二つの車輪で動いていましたよね。転移門から帰って来た時に一度見ましたが、後ろの車輪は前に付いている物よりも小さく、二つ付いていましたよ」

「ああ、まあね。宿舎にあるのは俺が作ったやつだから」

 アリスシアは「へぇ──」という感じで声を上げたが、レーチェは感心した様子はなく、何やら言いたげな表情で、じっとこちらを見ていた。


「あれは『足踏み式(ペリダルエク)駆動車(トライン=アクト)』と言うらしいですわ」

「長いな。自転車(ドーラ=アクト)じゃ駄目なのか」

「あら、そちらの方が短くていいですわね」

 彼女はそう言うと小声で「まるで他で使っていたみたいですわ」と、独り言の様に呟いた。



 夕食が運ばれて来る頃には自転車について、仲間達から質問責めを受ける羽目になった。

 どうやら乗っていて楽しかったらしく、自分も欲しいと考えているようだ。──この、小さな浮き島の中を自転車で移動するとしたら、二日とかからず全ての場所を回ってしまえるだろう。

 果たして個人所有の自転車など必要だろうか。


「作るにも特殊な素材が必要だからな」

 そう返事をして、食後の会議を始めるようリトキスに合図を送った。

自転車を止めるときのあれ、日本語が見当たらない……「スタンド」で通っているようで。

なのでスタンドを「脚止め」と仮に訳しました。

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