自転車を作ろう
「そういえば久し振りにこっちに来たら、なんか不思議な乗り物が道を走っていたにゃ」
「へえ? どんな?」
「こう──人が足を動かして、前に一つの車輪、後ろに二つの車輪が付いた乗り物が、荷物を運んでいたのにゃ」
「自転車か。そう言えば管理局の開発部が新しい乗り物を作って、それを手紙などの配達業務に投入するとかなんとか、広報誌に書かれていたな」
「あれ、欲しいにゃ。売ってくれないかにゃぁ」
「それは管理局に聞かないとなんとも」
俺はそう言いながら、やっとこちらの人間だけで自転車が開発されたか──と考えていた。これで自分が自転車を作ったとしても、新しい開発をした訳ではないと言い訳が出来る。
「待っていたぜ……この時をよォ!」
「な、なんの事にゃ」
「いや、なんでもない。それより、魔法銀はいくらで、どれくらいの量があるんだ?」
「そうにゃぁ……オーディスには色々迷惑を掛けたからにゃ、今回は特別に延べ棒一本を七万ルキで──」
「たっけぇ! 白銀の延べ棒と同じ値段じゃねぇか!」
「──と、言いたいところを、五万ルキにしてやるにゃ」
「……三万ルキ」
「四万五千」
「三万五千だ」
「四万二千五百」
「刻むな。三万八千」
「仕方ないにゃぁ、四万二千ルキで手を打つにゃ」
「いやそこは四万ルキと言うところだろう」
俺は猫餌加工鍋を洗い終えると、魔法銀の延べ棒を八本購入するから、一本の値段を四万にしろと訴えた。
「まいどありにゃ~」
猫獣人の行商人はほくほく顔でそう応じた。
「これ、本当にそれだけの価値があるんだろうな? あとから標準価格が四万ルキ以下だったら、管理局を通してパールラクーンの商会に訴えるぞ」
「そ、それはなんとも言えないにゃぁ……。けどまだまだ大量に採掘できる訳じゃないから、安くなるのはまだまだ先のはずにゃ」
八本の魔法銀の延べ棒を受け取ると、それを素材保管庫にしまいに行く。
ナンティルは別の鍛冶屋に、残りの延べ棒を売りつけに行ってしまった。
魔法銀の武器を作る事も考えたが、さらなる解析をしているうちに、この金属は錬成との相性が良く、多くの強化錬成を加える事が出来ると知った。
「そうだ、これで指輪を作ってやるか」
とも思ったが、まずは自転車を作ろうと考える。──前々から錬成で部品を作る設計図だけは用意していたのだ。
鍵の掛かった引き出しから設計図を取り出すと、錬成台の金属加工の設定を設計図通りの内容に変更した。
台の上に置いた物体の形状を変形させる錬成台の力を使って、まずは車輪を作る。──その為には加工し易いように金属を熔かし、台の上に乗せなければならない。
炉で軽硬合金の延べ棒を熔かした物を台に乗せ、すぐに加工を開始する。
錬成台の魔法によって金属は変形し、円形のなると急激に冷やされて一本の車輪が形作られた。
「おっし、良い感じだ」
車軸を嵌める中心の輪と外周枠を支える三本の主軸は、扇型の薄い板状の物を形成した。輻でも良かったが、あまりに奇抜な形では違和感を持たれ兼ねないと考えた。
タイヤ部分には猫の小屋の断熱材を作る技術を応用した。
緩衝材になるように弾力性を備えつつ、元の形状を保ち続けるように強度も持たせた物は、ガゥレン樹液に炭などを混ぜて錬成した。
これを車輪の外側に嵌め込む為に、車輪の外側を囲い込む覆いを作り、その中で膨らむようにして仕上げた。均等に緩衝材が膨らむよう覆いには穴を空けて、そこから水を注ぎつつ、覆いを回転させながら全体を膨らませる。
最後は穴の部分から外側に膨らんだ部分や、余分に膨らんでしまった部分を削り、滑り止め加工のギザギザを器具でタイヤに刻みつけると完成した。
「次は車体だな」
錬成台を調整し、軽硬合金を溶かした物を台に乗せる。そうして自転車の部品を全て完成させると、後は組み立てるだけとなった。
環状鎖に踏み板などを取り付け終えると、徒弟達も俺が何を作っているのか気になったらしく、「その奇妙な物はなんですか」と尋ねてきた。
「乗り物だよ。今は荷台を取り付けているところ」
椅子や握りにもガゥレン樹液から作った護謨を使い、軟らかい仕上がりにした。
「完成だ」
頑丈さと軽さを主軸思想にして作り上げたので意匠性は無いが、我ながら高い完成度だと思う。──T字型ハンドルの単純な自転車が完成したのだ。
チェーンカバーや雨除けも作り、少々やり過ぎたかなとも思ったが。
「じゃ、ちょっと試運転してくる」
俺はそう言って鍛冶屋から外に自転車を漕ぎ出し、人通りの少ない住宅の間の道を駆け抜けた。
石畳の上で曲がる時もタイヤは横滑りせず、安心して走らせる事が出来た。ブレーキも確かめたが、操作棒を引くと、鋼索で繋げたゴム板がタイヤをしっかりと挟み込んで、停止するのを確認した。
「これならJIS(日本産業規格)もにっこりだね」
俺は自分の仕事に満足して鍛冶場に戻ると、今度は魔法銀の延べ棒を熔かし、次の作業に取り掛かった。
何か大事な事を忘れているオーディスワイアさん……




