ナンティルに猫の餌を
翌朝目が覚めると、あんまん作りを開始した。
遠征に出ていた五人分のあんまんの皮を作り、あんこを中に包んでいく。
菓子作りをしながら、昨晩のエウシュアットアとの約束の事を考え、どのようにレーチェを誘うか頭を悩ませていると、朝食を作りにリトキスが調理場にやって来た。
「おはようございます」
「うん。──そうだお前。リーティスと付き合っているんだって?」
「え? いや──付き合っている、というのではないと思いますが。その手前、といった感じですか」
「手紙の遣り取りをしているのに?」
「彼女の好意はありがたいですが、手紙の遣り取りだけですよ? ……ところで」
「うん?」
「何を作っているんですか?」
「遠征に出ていた連中の為のお菓子だよ。もう居残り組みには食べさせたんだ」
リトキスは話題を変えたいようだった。
こちらもあまり突っ込んで聞くのも野暮だと思い、追及するのは止めておく。
「お菓子ですか。……確かに、遠征に出ていなかった仲間だけがお菓子を食べたと知ったら、メイは臍を曲げるかもしれませんね」
「そういう事だ」
そうした話をしていると、急にリトキスが足下を見た。どうやら子猫が足にじゃれついてきたようだ。
「猫に餌をやってくれ」
俺の言葉にリトキスは頷き、子猫と共に調理場を出て行った。
久し振りに見た顔に、子猫も喜んでいる様子だ。
足首に掴み掛かってくる子猫を抱き上げると、彼は足早に階段の方へと戻って行った。
蒸し器にあんまんを入れたところで今日の朝食担当が調理場に集まった。俺は砂時計の砂が落ちきったら火を止めるよう言ってその場を離れた。
食堂にはちらほらと人が集まって来ていたが、まだ全員ではない。
俺はいつもの席に腰掛けると腕組みをして考え込んだ。
「よし、今日は猫の餌と、魔法の剣を造ろう」
「なんですの、その組み合わせは」
いつの間にか目の前の席にレーチェが座っており、俺の独り言につっこんでくる。
「いや、前々から準備していた物があるんだ」
古い鉄鍋があったので、それに錬金加工を施す術式を設計していたのだ。
その古鍋は魚肉や鶏肉などを加工し、自動的に殺菌、防腐処理をしてくれるという鍋に生まれ変わるはずだ。
防腐剤を混入させる訳ではないので健康にもいい。
「錬金術様々だな」
「はぁ……」
なんの事だか分からないレーチェは首を傾げている。
メイは食後にあんまんを口にしながらユナにしきりに声を掛けていたが、ユナはどこか上の空で彼女の相手をしているのだった。
食事を終えると、宿舎の倉庫にしまわれていた古い鉄鍋を持って鍛冶場に向かった。
まずは鍋に付いた汚れや焦げを落とし綺麗にすると、古鍋を錬金台に乗せ、鍋に錬金加工を施す。
鍋の中に入れられた食材を加工し、目的の品質にまで安定させる術式を組み込むと早速、鯵と鶏胸肉などを鍋の中に入れて、鍋に施された術式を発動させる。
今は両手から流し込んだ魔力に反応させ起動させているが、鍋の縁に魔力結晶を入れた作動装置を取り付ける予定だ。
鍋の中にあった鯵や鶏肉が振動すると、あっと言う間に細かく砕け、挽き肉状になった。そこに用意していた調味料を掛けると、それに反応してまた鍋の中の具材が振動し、混ざり合っていく。
「お、完成か」
「んにゃ~? いい匂いにゃぁ」
背後から間の抜けた声が聞こえた。
振り返るとそこには大きな荷袋を担いだ猫獣人……ナンティルが立っていた。
「おう、久し振りだな」
「お久し振りですにゃオーディス。それで、体のほうは大丈夫かにゃ?」
「問題ない。──いいところに来た。ちょっと味見をしてみてくれ」
俺はそう言うと鍋の中の灰色の物体を匙でよそった。
「なんか、毒々しい色にゃ……」
「確かにあまり旨そうに見えないな。──だが問題は味と栄養だ」
皮ごと加工した所為で、色は少しあれな感じになっていた。
改良の余地があるな──などと考えつつ匙を渡すと、彼女はそれを受け取り、ぱくりと口にした。
「もぐっ…………なかなかイケるにゃ」
「そうか、そりゃ良かった。成功だな」
「なんの料理にゃ?」
「猫の餌だよ」
俺はそう言って鍋の中の物を瓶に移していく。
「ね、猫? 私は猫じゃないにゃ!」
「味覚も嗅覚も猫に近いみたいだけどな。──それに猫の餌とは言え、人間が口にしても食べられるからな」
三つの瓶に猫の餌を入れると、それを机の上に置き、鍋を手にして洗面台のある場所まで運びつつ、猫獣人の用件を聞いた。
「それで、なんか用か?」
「今日は新しい素材を買い取ってもらいに来たにゃ」
流し台で鍋を洗っていると、ナンティルは荷袋から青色の光を反射する銀色の延べ棒を取り出す。
「青銀色の金属──まるでミスリルみたいだな」
「なんにゃ? それ」
「なんでもない。それより初めて見る金属だ」
「犬亜人が占領していた北の土地から、この金属が採掘できる鉱山が発見されたにゃ。まだ決まってないけど、魔法に対する親和性が高い事から、魔法銀って名前になりそうにゃ」
「マジか」
魔法銀──それはまさにミスリルじゃないか?
「ちょっと解析させてもらうぞ」
──調べてみると、確かに魔法との相性が良く、錬金鍛冶の素材としては優秀な金属になりそうな物だった。
「うん、いい感じの金属だな」
「まだ採掘量は少ないけど、特別にオーディスにも回してやるにゃ」
「金を取るのか」
「あったりまえにゃ」




