神様は慶ぶ
その日の夜。眠りに就いた俺を待っていたのは四大神の祝福だった。
精神世界で目覚めた時、俺はまだうとうとしていた。
そうした意識の中、何やら遠くで宴会でもしているかのような、賑やかな声が聞こえてくる。
鳥の歌う声や、木琴を鳴らす音に太鼓を叩く音など、それらは五月蝿いものではなく、祭りの音を遠くで聞いているような心地好いものだった。
次第に自分が眠っているのではなく、精神世界に呼び出されたのを悟り、上体を起こした。
すると若草の斜面から見下ろせる場所に、何やら鳥や猫や鼠や犬が集まり、宴会を開いているではないか。
そうした動物達の中心には赤い敷物が敷かれ、枹をくわえた犬が太鼓を叩き、鼠が器用に木琴を鳴らしていた。
大きな猫が竪琴を手にそれを掻き鳴らすと、木箱の上に整列した小鳥達が、それぞれ異なった鳴き声で合唱する。
一風変わった宴会を眺めていると、礼服を着た一匹の大兎が近くに居て、どうぞという風に手を翳して宴会に加わるよう促す。
緑の斜面を下りながら敷物の方に行くと、離れた場所にあったテーブル席の方から数人が立ち上がり、こちらにやって来るのが見えた。
「ようよう、よく来た。まあ座れ」と、筋骨隆々とした大男が親しげに声を掛けてきた。どうやら地の神ウル=オギトのようだが、ぴちぴちの黒いスーツ姿で、頭部は銀色の毛をした鼠の顔をしていた。
その後ろからやって来たのは艶やかな真紅の礼装姿の火の神ミーナヴァルズと。裾の部分が紺碧色で、上部にいくほど色が薄くなる青色の礼装を着た水の神アリエイラが近づいて来た。
「お久し振りですね」
「元気にしておったか?」
二人の女神に声を掛けられながら、横に来た二人に腕を掴まれて、ほとんど無理矢理その場に座らされてしまう。
「ええ、もちろん」
ウル=オギトは鼠の頭から野太い声を出して笑っていた。
地の神も赤い敷物の上に腰を下ろすと、一陣の風が吹き、気づけばそこには鳥の頭を持ち、緑色の燕尾服に似た礼装をした風の神ラホルスが立っていた。
「やあ、遅れてしまったか。ここでは飲み食いなど、現実のそれと違って意味はないが、まあここにある物を食べていくといい」とラホルスは言いながら座った。
「いったいなんなんです? この集まりは」
ラホルスの隣にある木箱の上で、白や青や黄色の小鳥達が歌っている。
もふもふの丸い毛玉みたいな小鳥達で、シマエナガに似た愛らしい小鳥達が一所懸命に、体を上げ下げしながら鳴き声を発しているのを見るのは楽しかった。
「この宴会はオーディスワイアとレーチェの恋路を祝う宴さ」
「はっはっはっ、まあそれは口実で、不満そうにしている奴が居るのでな。そいつらの鬱憤を晴らそうというわけさ」
ウル=オギトの言葉に二人の女神がにっこりと、物騒に微笑んだ。
敷物の中心にあるいくつかの大きな皿の上に載せられた料理。──丸パンに挟まれた乾酪や野菜、腸詰めらしい物が挟まれていた。
「さあ酒を飲め、食え!」
ウル=オギトは陽気に言った。
女神達の視線は気にもしないようだ。
俺はアリエイラからパンを勧められ、ミーナヴァルズからは酒を勧められてそれらを口にしたが、味はほとんど感じられなかった。
精神世界での食事は味わうものではなかった。
ここで出された食べ物や飲み物を口にすると、幸福感に心が満たされたように感じた。
ここにある料理は、神々に祝福された幸せの味がした。
「ともかく、オーディスが恋人と共に人生を豊かなものにしていくのは、我らとしても嬉しいのだ。もちろん、その二柱の女神もそう思っているはず」
ラホルスはそう言って女神達を一瞥すると、視線を木陰に移す。
「そして、新たにフォロスハートに加わった二柱の神も」
木陰から現れたのは、小柄な少年と美女の組み合わせ。
その美女には見覚えがあり、青色と緑色の瞳をした色白の女性は、エウシュマージアだった。
「という事は、その少年の様な姿は……」
「私はエウシュアットア。この様な姿になったのは……たぶん、混沌の力の影響に晒されたからだろうな」
少年は大人びた様子で語り、エウシュマージアと共に敷物の上に座った。
こうして神々の宴会が始まった──
二人の女神に挟まれつつ、俺の近くに座ったエウシュマージアからお酌をされ、幸福の味がする酒を飲む。
酒と言っても酔いは感じないが、心は満たされていた。
「そうだ、エウシュアットア様にお願いが……」
「ん?」
俺は西海の大地で、神様に協力して欲しい事を伝えた。
少年の姿をした神様は俺の話を聞くと大きく頷く。
「なんだ、そんな事。海の大地に来て私に呼び掛ければいい。オーディスワイアの心の声なら届くだろう。いつでも呼び掛けてくれ」
「ありがとうございます」
エウシュアットアは快諾してくれた。
そうした話をしていると、急激に眠気が押し寄せてきた。
「それでは──よろしく、おねが……い、しま……」
意識がどんどん遠退いていく中、俺はなんとかそれだけを呟き、隣に居たミーナヴァルズの腕に抱かれた。
何やら遠くでアリエイラとミーナヴァルズが喚いている声が聞こえていたが、俺の意識は静寂の中に溶けていったのだった。




