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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

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レーチェからの「お知らせ」

 エウラとベンデルの話は旅団の中に広まっていた。

 夕飯時にはそれぞれの仲間内(グループ)で彼女の話がされたようだ。


 最近めきめきと上達していたエウラが抜けるとなると、彼女と共によく冒険に出る仲間が困るし、彼女から稽古をつけてもらっていた新人達にとっても、道場からの引き抜きなど御免ごめんこうむりたいものだったはずで、食事が運ばれて来る頃には皆の間に安堵あんどの空気が流れていた。


「エウラさんは自分からここに残ると言ってくれたんですね」とユナが尋ねてきた。

「ああ。彼女は『刃閃流剣術』の剣技の初歩的なものしか使えないらしいしな」

「武芸の基礎ができてないと、その後の技にも影響が出るからね。けどエウラはやっぱり『刃閃流剣術』の基礎を身につけていると思う。でないとあれだけの動きをできないから」

 メイが甘い味付けをした芋煮(大学芋に近い)を食べながら満足そうに言った。

 素手で戦う武闘家である少女にとっても、武術の「型」には一家言あるようだ。


「エウラが残ってくれてよかった」

 珍しくメイがそんな感想を口にした。

 ユナ以外の仲間とも関係を深め、絆を感じ始めているのだろうか。

「そうだな」


 確かにメイの言う通り、エウラの動きには独特の鋭さがある。

 それは初動の速さだ。

 空手のり足のような足運びで一歩、二歩と、まるで蛇の様な足運びで素早く相手に迫り、間合いに入った瞬間に剣を薙ぎ払う動きは、兄のエルグを思い起こさせるものだった。

 間合いの詰まった状態で彼女から先手を取るのは難しい。全盛期の俺が挑んでも、まず彼女に攻撃を出させてから反撃する形をとって戦うだろう。

 あの足運びからの居合い切りに似た攻撃。

 あれをかわせるのは、メイとリーファくらいなんじゃないかと思う。


 ちらりとエウラに視線を向けると、彼女は周囲の仲間達から声を掛けられ、気さくに対応しているようだった。

 だがどこかその表情にはかげりがあり、やはり叔父の病の事を気にしているのだと思われた。



 そうした空気の中で食事が進み、食後の会合ミーティングが始まった。今回はレーチェが発言すると言い出して、皆の注目を浴びた。


「もう話は聞いているようですわね。エウラさんに関係のある道場から引き抜きの話がありましたが、エウラさんはその申し出を断り、わたくし達の旅団に留まる事を選択してくれましたわ。

 ……まあ例えエウラさんが説得されて旅団を出て行こうとしても、私が足にかじりついてでも引き止めましたが」などと言って笑いを誘う。

 確かに、レーチェがエウラの足にしがみついているところを想像すると、変な笑いが出てくる。

「お前は捨てられそうになった恋人か」

 俺の一言でさらに笑いが起こると、レーチェはわざとらしい咳払せきばらいをした。


「それで、もう一つのご報告なのですが……」

 と、言いにくそうに視線を泳がせる。

「私と団長──オーディスさんは、お付き合いをする事になりましたわ」

 突然の発言に俺は驚いた。そう言えば遠征から仲間が帰って来たら皆に知らせるような事を言っていたが。


 ぉお────と、団員達の間にどよめきが広まった。……が、中には特に驚いていない連中も居た。

「というか、お二人はまだ付き合っていなかったんですか」

 といった言葉を口にするレンネル。

 その言葉に数名の者がうなずいた。中でも新人達の間では団長と副団長は恋人関係、といった認識がされていた様子だ。


「付き合っていなかったが」

「そうですわ。──まあ今回の恋人関係も、私が他の旅団の人から秋波を受けるのを止めさせる為の一手、という意味もありますが」

「人を虫除けに使うな」

 そんな俺達のり取りを見て、また笑い出す仲間達。

 レーチェが他の旅団の冒険者から声を掛けられている事は多くの団員が知っていたようで、「あ──確かにな」みたいな反応をしている者も居た。


「ともかく、おめでとうございます?」

「なんで疑問形なんだ」

 エウラの言葉に思わずつっこむ。

 他の仲間達も団員と副団長の交際を喜ぶような振りをしているが、内心は「何をいまさら」とか、「この二人って釣り合ってないんじゃない?」みたいに思ってそうな奴も見受けられる……


 ともかく、レーチェからそうした報告が為された事で、夜の会合はお開きになった。

 食堂から出て行こうとすると、入り口近くで待っていた子猫達が慌てて自分の住処すみかに帰って行くのが見えた。


 ユナとメイがテーブルに残された皿を片づけて、調理場の方に運んでいる。

 どこか彼女達の様子は落ち着きなく、慌てふためいているようだった。

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