エウラとベンデルの想い
午後を大きく回って冒険から帰って来た仲間達。その中にエウラの姿ももちろんある。
「おかえり」
「た、ただいま……なんですか? 玄関で待ち構えて」
「少し話があってな。すでに副団長も待っているから応接室に行こう」
武器などを部屋に置いて来ると、彼女は何事かといった、真剣な顔つきで応接室にやって来た。
「お座りになって」とレーチェ。彼女には今日起きた事は説明しておいた。
冒険から帰って来るなり問題が起きた事を知ると、冒険の疲れなどどこ吹く風でレーチェは副団長の顔になり、真剣な表情で俺の説明に耳を傾けていた。
「あの……なんですか? いったい」
「午前中にベンデル・フィアネストが来てな。まあ、色々とあったんだ。それで、お前を道場に連れ帰ると、えらい剣幕になってな」
そう聞いた彼女の顔に険が入った。
「それで、エウラさんはどうなんですの? 帰るつもりはありまして?」
「いいえ、私はここに残ります」
「そうですか。それなら良かった」
彼女からはっきりとした答えが聞けて、レーチェは初めてほっとした様子を見せる。
「なら俺達のする事は簡単だ。ベンデルには諦めてもらおう」
俺はベンデルについて管理局で聞いた事柄を二人にも説明しておいた。
それを聞いたエウラは少なからぬ動揺を受けたようだったが、彼女の決意は変わらないだろう。
「ともかく彼は病気の症状もあって、感情の抑えが効き難いようだ。だから怒り出してもこちらは冷静にいこう。俺も彼にはいくつか言っておきたい事もある」
それはあの人が経験してきた事を知り、今ある道場や旅団のあり方についても真剣に答えを出そうとした結果、辿り着いた自分なりの解答だった。
しばらくすると外に居た仲間から声が掛かり、ベンデルが来た事を知らせてきた。
中に通すように言うと、老人はやはり二人の門弟らしい男を連れ、応接室までやって来た。
「エウラ……」
「お久し振りです」
二人の顔合わせは静かなものだった。
嵐の前の凪でない事を祈るばかりだが、席に着くよう言って二人を長椅子に座らせる。
「エウラ。道場を継いでくれ」
と、突然ベンデルは口にして頭を下げた。
簡単に頭を下げるような人物ではないだろう。それはエウラや二人の門弟の様子を見ても明らかだった。
「叔父さん。私は道場には戻りません」
「な、なぜだ……!」
老人の中から怒りの感情が滲み出したが、なんとかそれを押さえ込もうとしているようだ。発作的に解き放たれようとしたものを、ぐっと拳を握り締め、抗っている様子だ。
「私は『刃閃流剣術』の技術の全てを習得している訳ではありません。そんな半端な者よりも、もっと叔父さんの側には相応しい人物が居るはずです」
「いやしかし、それではフィアネストの血筋が……」
などと言い出す老人。やはりそうした考えに凝り固まってしまっているようだ。
「ベンデルさん。話は管理局で聞きました。病で余命も短いのでしょう。それで焦る気持ちも分かりますが、あなたの目的は血筋によって道場を受け継がせる事だけなんですか?」
「なんだと?」
ざわりと、老人から殺気に似たものが漏れ出す。
「おまえに何がわかる!」
そう怒号を放つ老人。
その感情的な言葉にも、態度にも付き合うつもりはない。
俺は即座に彼から放たれたものを明鏡止水の心で受け止めた。
それは相手の姿を映し出し、自分の心の揺れに気づかせる為の気の使用方法だった。
「落ち着いて聞いてください。
あなたは若い頃に刃閃流剣術で剣術を学び、そして冒険者としても活躍された。しかし師範が倒れた時にあなたは冒険者を辞めて、道場を継ぐ事になった。
あなたは迷ったはず。冒険者としての活動でフォロスハートに貢献するのと、道場を継いで冒険者に剣術を教える道を選ぶかを」
老人は怒りを静め、こちらの言葉に頷いている。
「そこには血筋は関係なかったのでは? 真に優れた人物が道場を受け継ぐべきで、そしてあなたにはその才覚があった。それであなたは前師範から推挙され、跡継ぎとなったのでしょう。
エウラはあなたと血の繋がりはあるでしょうが、残念ながら刃閃流剣術の使い手としては半人前だと彼女自身が認めています。そんな人物を師範に据えたところで、道場として成り立つでしょうか」
老人は「むう……」と唸り、頭では分かっているが、血の繋がる姪に道場を継がせたいという一縷の望みに縋ろうとしているようだった。
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ですが次話から更新が遅れるかもしれません……ごめんなさい。




